昼下がりのポカポカ陽気を浴びて何とも眠気が襲って来る。体育の後に数学、と言う時間割は少々拷問ではないだろうか?運動の後に頭が働く筈も無い。そこかしこで夢の中へ旅立つ奴が出て来る。

「コラ!寝るな!…ったく…。22Pの5問目、じゃあ蕕音。」
「はーい。」

半分寝ぼけた頭で黒板に数式を書いて行く。解き終わってふと見ると寝ている奴が増えていた。俺だって眠いのに…。頭に来て爪で思いっ切り黒板を引っ掻いてみる。

――――ギュキキキキィイイイイイイ~~~~~~!!!

「ぎゃああああああ?!」
「ひいぃぃいいいい!!耳痛ぇ!流船!止めろ~~!」
「おま…!最悪!」
「皆寝てたし。」

悲鳴と奇声が響いてざわついた中席に戻る。天罰天罰、なんてちょっと笑いながらふとグラウンドを見下ろす。今は何処のクラスも使っておらず静かだ。

「ん…?」

と、グラウンドのほぼ中央に明らかに違和感のある物が見えた。生徒でも、先生でも、清掃員でもない、真っ黒な服に対照的な赤い長い髪が風になびいていた。部外者?いや…卒業生か何かかな?随分目立つ奴だけど…。あ、こっちを見…。

『返して…。』

え…?反射的に耳を押さえた。幻聴?俺寝ちゃって夢を見てるのか?あの位置から声が聞こえる筈なんか…。

『何処へ行ったの…?』

聞こえる筈が無い、これは夢…これは夢!これは夢!!これは夢!!!

『何処…何処…?』

温かい筈なのに寒気が収まらない…辺りをそれと無く見回しても誰もあれに気付いてない…。もしかして幽霊?!霊感なんか無いぞ?!調べた事無いけど…。

『何処に居るの…?』

『ソレ』は音も無く目の前をふわりと歩いていた。反応が無いって事は…やっぱり見えてるのも聞こえてるのも俺だけ?一体何なんだ?!

『違う…違う…。』

氷の様な冷たい手がピタリと両頬を捉えた。宝石みたいな赤い髪と、真っ青な瞳が目の前にあった。声すら出なかった。からからになった喉に飲み込んだ唾が落ち込む。やけに生々しい感触が却って現実味を覚えない。射竦められる様に真っ青な瞳から目を逸らせない…。

『違う…何処…?俺の…宝物…。』

『ソレ』は首を振るとまた泣きながら人の顔を覗き込んでいた。夢だと思ったのか、それとも泣いてると思ったからなのか良く判らない。だけど何かに呼ばれる様に『ソレ』にゆっくりと手を伸ばした。

『何処…!』

『ソレ』が煙の様に消える間際、手の甲に『ソレ』の温かい涙がポツリと落ちた。その感触に俺の中で何かが音を立てて切れた。

「うわぁあああああああああああああああああああっ!!!!」
「な、何だぁ?!」
「流船君?!」
「蕕音、どうした?!」
「あ…え…ご、ゴキブリが落ちて来ました!」
「ぎゃー?!嘘?!何処?!」
「殺虫剤!殺虫剤!」
「コラ―――!!静かに!!」

騒然となった教室を他所に、心臓は倍位のスピードで脈打っていた。『ソレ』はもう居なかったけど。手に残った涙を振り払う様に拭った。

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コトダマシ-2.これは夢!!これは夢!!!-

夢だってば!

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投稿日:2010/11/20 18:46:46

文字数:1,249文字

カテゴリ:小説

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