■■■

ちょうど、家の前に見知らぬ平たい車が停まった。
車に興味が無いのでなんてやつかは分からないが、何となく高そうな気がする。
ドアが開き、中から人が現れる。
……特筆する事がない、普通の男性だ。











「なにこれ、鳴らないんだが」 

インターホンを押す、その度に微妙に手応えのない音だけが繰り返される。

「おーい! アホ! アホのまつり!」

!?
急に叫びだした男性。

「今日こそ、ぼくの扇を見てもらうからな!」


胸元から何故か取り出された扇。
な、何?
ちょっと恐怖を覚えながらもいきなり人を馬鹿にするのはおかしいんじゃないかとか、此処で鍵開けたら此奴までついてくるのか嫌すぎるとか、
考えたままただ立ち尽くす。















……のも暇なので、そっと近くの塀に隠れて、メールを打った。
『家の前で、扇がどうとかいう不審者が叫んでるんだけど』  

「この扇はなぁー! お前をイメージしてドス黒く染めてから金粉を」

『扇の説明始まったんだけど』

連投していると返信が来る。


『ウザすぎ… ^⁠_⁠^ 扇とか知らねぇ』
『待ってて』


程なくしてドアが開き、まつりが歩いて来た。男性が扇を振りながら煽るように叫ぶ。
「やっと出てきたな!やはりアホ面してるな!」
ちょっと雅(みやび)だ。

まつりは呆れたように彼を見た。

「なんで会う度に鬼の形相で、アホとかバカとか必死に指差してるの?」

「皆に教えてやってるんだ。アピールだよ! あーっ、皆さん!アホが居ますぅ!ガハハ」
 






何か必死に喋っているが、早口だし何を言ってるかよくわからない。 
バカという方がバカなんです、というバカみたいな台詞の有効性も案外あるのか?という意外な発見はあれど、それ以上も以下もない。
なんだか泣きそうにも思える声が何故かこんな住宅地でアピールを続ける滑稽さだけが、虚しい。

「はぁ……」
「扇を売る事、お前にあらゆる面で勝つ事がぼくの生きる理由だからな」
「西尾君、相変わらずだね」

更に程なくして、遠くからサイレンが聞こえて来た。まつりが、此処に来る前に警察に通報したようだ。










「お前みたいになぁ!ぼくは直接叩いたことは無いんだぞ!」

男性が扇で指を差しながら喚く。
そこにちょうどパトカーが停車し、お巡りさんが彼をその場から引き剥がした。

「落ち着いて。まず、どういう事ですか?」
お巡りさんがやれやれ感を漂わせながら訊ねると、
まつりはどうもこうもと呟いた。
「知らない。ずっと張り合うような事を言って、近くを彷徨いてる人です」


「は?お前が勝手に居なくなるから。博士の矛先がぼくに向く。あんな状態、質問攻めに合うだろうが! 未だに恨んで居ますー」

「だからさぁ、そうやってずっと意識して扇だなんだってやるから、距離空けてるのに……なんで来るなって言われたくらいで扇持って押しかけようとするの?」


「ほら! 来るなとか迷惑とか、暴言吐きやがる。こっちはお前みたいに、直接否定したり、誰かを傷付けたりしたことがないのに!むしろこっちが被害者で」
うーん。よく分からないけど、酷い事を言っているというか……
何か前科があって言われているという雰囲気だ。

お巡りさんは何も言わないで、主張だけ聞いている。
「まぁ話し合いで解決してくれたら一番いいかな」みたいな感じだろうか。



「嫉妬で、妄想を言う暇はあるんですね! あのときだって、全部ぼくがやったみたいにされて、違うって言ったら笑われて恥かいたんですけどね」
「……だからさぁ、じゃあなんで逐一来るのかって」











===========================================


「何があったんだ?」
ぼくは、こっそりまつりに訊いてみる。
まつりはあると言えばあるし、無いと言えば無いし、と苦笑いしながら
何があったかを語ってくれた。


 西尾君は昔の学生時代の知り合い。
何故だかずっと張り合うことを生きがいにされている。
レポートを出そうとするとまつりに頻繁に張り合うように合わせて書かれていたことがあった。ある日も、あまりの自己主張とストーカーぶりに嫌気がさしたので、
「ウザい、勝手に一番でもなんでもなれば?」みたいな感じでそれをこっそり放棄して新たに提出して帰った。
まつりは、それで西尾君が満足すると思っていた。


しかし……
 西尾君はやりかけだけを抱えて孤立。←なんでだよ
今まで利用して居た相手に突き放されたショック、自分を拒絶するという上から目線な対応への怒り。


更に、博士だか教授だかに、自分だけ質問攻めにあわねばならない環境になってしまった。このときの皆の前で蔑まれた(と思ってる)恥辱から未だに深い恨みを抱えているという話だ。

「うーん、思い込み?が激しいタイプなのかな」
「他にもあるんだけど、普通に自分でやったらいいだけなんだよね……」











============================================
「だから! 違うって言ってるだろ!」

西尾君が憤る。
「お前の人生が漫画なら、嫌いな漫画ナンバーワンだってのに」

「えーっと。なにが違うの?」

――――議論?は平行線のまま10分くらい続いた。
けど、これ『別に要らないだろ』って議論?でもあるらしく、まつりは困惑していた。
何故かってのは頻繁に交わされたこの二行が物語っている。
「あ、あともうこっちに出て来ないでね、絶対話したくないから」
「今この時点で話したく無いから既に距離置いてるんだよなぁ……」




そう。
なんと実は両者、『親しくない、関わる必要が無い』という意見が既に一致しているのである。



まつりからすればなんで今まさに、会話の必要が無いと判断してる、
※扇も拒否ってる、という現状認識が出来てないの?という感じで居るし、
(それでいて西尾君の距離感が謎である)
西尾君はというと自分の世界しか見えていないのでなんか今暴言を吐かれている、今怒られている、という狭い視野を行き来している。
そして何故か未だに『喧嘩別れ』くらいの認識だというから驚きだ。

あれは一時の気の迷いで、仲直りして貰えるんじゃないか?
と考えているのかもしれない。


それから10分。
何かブツブツ言いながら帰って行った西尾君とパトカーを見送り、静かになったあたりでまつりがぼくを見た。申し訳なさそうに呟く。
「夏々都」
「ん」
「寒いね。中入ろう」










玄関に入ってすぐ、まつりは謝った。


「さっきはごめんね。変な人見せちゃって」
「あ? あぁ」
見世物扱いになってる西尾君である。
「昔から変な知り合いはいるけど、困ったものだよ」
リビングに向かう横で、まつりはキッチンの方に歩いて行く。

「変わっては居たな」
嫌いな漫画ナンバーワンに選ばれてしまう人生ってなんなんだと思うが、西尾君がどうしてそんな風に思うのかはわからないままだ。

「で、結局あれ何しに来てたんだ? 扇自慢?」

「うーん。なんだろうね。コネか何かの話なのかな?でもあんな風だとそもそも仲良くが不可能でしょ、って事は
『周りからも役に立つところ全く無い』訳だし……もう交渉における無知と無知しか残って無いじゃん。何言ってるかわかんないんだよね」

 確かにこの手の交渉?をする気なら、何処かしら譲歩するもんだろと言われればそうである。ただの不平等条約だ。


「今まで本人なりに勝てそうな相手を選んできて、適当にナンバーワンとかツーとかって呼びつけて、戦ってと因縁付けて来まくってるんだろうけど、厄介なことにどこか企業に庇われているので……」

あはは、とまつりは苦笑した。


「でも、まぁ、どうでもいいっちゃいいんだよ。
『問題が起こってないって言うならそもそも関りが無かった、関わる程の恩がなく嫌いだと思った』って事でいいし、
『問題が起きてたって言うなら、やっぱり嫌い』でいいし」


(そっか、何を選んでも答えは変わらない)
普通に、西尾君たち来るな陣営を省き、親しい人とだけ親しくすればいいだけの事なのだ。
「何処に居ようと今まで通り。今後も『今までと同じで』交流しないでいい」
「えっと、じゃあ、関わる必要が無いって意見は同じだとして。
なんで西尾君はあんな感じで来てたんだ?」
「さぁ? だから、妄想の中にある『仲直り』したいから、か。勝ちたいから?」


謎だ。
ていうか何処から家の事聞いたのかな、とまつりが不思議がっているが、それも含めて謎である。

「まぁ、質問攻めされて何も答えられなかった自分が一番悔しいー! みたいな話かもしれないね。でも、それだって、そもそもあの状態で自分を高く見積もり過ぎて、乖離してるってだけだし」

うーん。
まつりの事を必死に町中でアホとか言ってたのも、なんか半端で痛々しかったっけ。誰に向けて居たのか分からなかったけど、
あれは自分が言われている事を他人に反映する事でどうにかしようとするような、
『そう言う事』なのか。







とりあえず、休憩しよう、とまつりが話を切り上げた。

「お茶淹れるから座ってて」
キッチンから呼ぶので、ぼくは大人しくそうする。
「はーい」
そんなに気を遣わなくていいのに。
なんだか今日は妙に優しい。
変な人、と揉めてしまった申し訳なさ?があるみたいだ。
と、思いつつ、お茶を淹れて貰えるのは嬉しいので待っている事に。




 戸棚をガチャガチャする音を聞きながらリビングに入り、床に鞄を置く。
このままソファーに寝転がるのが最近のルーティンだ。
ふわふわと居心地が良く、放課後の疲れと共に横になるとすぐに眠りそうになる。

「って、起きなきゃ……じっとしていると眠りそうだな」
騒がしいのを流しとこ。
持っていた端末で、視聴途中だった動画を再生する。
最近観ているのは、クラスで流行っている「マリィ&チキン」というチャンネルだ。
 青い長髪のアメリカ人男性「マリィ」と、金髪にレインボーカラーのメッシュが入った男性(国籍不明)「チキン」が、主に怪しげなクッキングをするか廃墟探検をしている。
『自称・怪奇アイドルグループ(じめん・ひこうタイプ)』

最近は変わり種ラーメンを作る事に凝っている感じである。


(アイドル活動は?)




制服のままソファに腰を下ろしてボーっと眺めている……と、足元に紙袋が落ち、急に目が覚めた。
「あっ!」
持っていたんだった。

「何それ?」
キッチンでお茶を入れていたまつりが、二人分のカップと共に戻って来る。
「実は、今日学校で預かって」

 カップをテーブルに置き、そっと紙袋を開ける。
中には四角い家形の箱があり、その中にそれぞれ二頭の天馬……ペガサスのぬいぐるみきょうだいが存在していた。
「よかった、傷、ついてない」

「ヴマァ!」
何処かを押されたペガサスの声。
「うわっ!」
まつりが驚いたように目を丸くした。
「喋るんだ」
ぼくは手短に説明する。梅ちゃんの事。
アーチェリー部が全国大会に出る為に練習している事。合宿。
「で、その天馬兄妹を、合宿中預かって欲しいんだって」
「ふむふむ。今は、スリープモードなんだね」
ぼくが話している横で、まつりはぬいぐるみを調べている。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

マンガワン

本文から抜粋。
https://estar.jp/novels/26397241

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投稿日:2026/02/28 17:24:31

文字数:4,737文字

カテゴリ:小説

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    2026/05/12 13:20:58

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