ハロウィン。
子供たちが奇々怪々な怪物たちに扮して大人たちを脅はk……もとい誘惑するこのお祭り。
去年も一昨年も、変なものをやるもんだと斜に構えてたあたしだけど。
……たまにはそんな変な風習に身をゆだねてみるのも、悪くないよね?
『Trick or……treat!!』
そう嗤い掛ける私の目の前で―――――青緑の髪の眼鏡少女は真ん丸な目をしていた。
「……えーっと、どっぐちゃん?」
「お菓子をくれなきゃいじめるわよ♪」
「いじめるんだ!? 怖いね!?」
ただの悪戯でこのあたしが済ますとでも思ってんのかしらこのゆるりーは。
「ちなみにお菓子を用意できなかったTurndogは今朝方あたしのパイルドライバーで救急搬送されたから☆」
「あ、今朝ターンドッグさんの部屋から聞こえてきた絶叫それだったんだ!? っていうかさすがにそれは可哀想じゃないかな!?」
そこで『流石に』とつけるあたりが見事だよゆるりー。あたしが言えたことじゃないけど普通に『可哀想』って言ってあげなさいよ。
因みにTurndogは搬送先の病院で生死の境を彷徨っていたようだが、リンとレンの活躍により一命を取り留めたらしい。危ない危ない。あたしも死ぬところだった。
「ほらほら、早く用意しないとゆるりーもバックドロップの刑に処すわよー♪じゅーう、きゅーう、はーち……」
「やめて危ないからね!? 待って今すぐ用意するから……」
そう言って部屋の奥に引っ込んだゆるりー。しばらくしてから出てきた彼女は、私の掌に何かを置いてくれた。
さてさて何をくれたのかと覗いてみて――――――――――思わず固まる。
ちょっと待って。ちょっと待ってよ。
「ねぇ、ゆるりー」
「ん? 何?」
「……あたし確かにちょっと怖いこと言っちゃったかもなーとか思ったけどさ……『犬にチョコレート』渡すほど怒ってた……?」
「え? ……あ゛っ!!?」
愕然とした表情で部屋の奥に駆け戻っていくゆるりー。
知らない人のために言っておくと……
犬猫にとってチョコレートは 超 猛 毒 で す 。
若干涙目になりながらあたしの掌の上のチョコレートを分捕り、う○い棒に置き換えた。
「も、申し訳ない……!!」
「ま、まぁいいわ、特別に許したげる……」
まぁ仕方ないか……ゆるりーは今忙しいしるるさんの代わりに管理人代行をしている。やることが多くて色々と抜けやすいんだろう。学校のテストなんかもあるんだろうし、いくら殺犬未遂だからといっても少しぐらい許してやるべきではないか。
若い身空で忙しい彼女に軽く別れを告げて、軽い足取りで4階へ向かう。
階段を駆け上ったところで―――――足元を何かちっこくてすばしっこい奴が駆け抜けていった。
下に降りて行こうとしたので何の気なしにハンティング。三角飛びからの抑え込みで捕まえてみる。
「……ちびルカ?」
捕まえたのは、最近ネルがご執心な「ちびボカロ」の一体である「ちびルカ」だった。通称『るぅちゃん』……だっけ?
『うー! うー……!』
何か唸られた。このあたしを威嚇するか、あたしよりも若い分際で。
ということで威嚇し返す。
『ガルルルルルルル………!!』
『ぴゃっ!? ……ぅぅぅう、っちぃ! ちぃ~!!』
あらら、少しやりすぎてしまったか。大声で泣き始め、それと同時に402号室の扉がすぱーん!! と勢いよく開かれた。
「るぅちゃんそこかーっ!!? ……あれ? どっぐちゃん?」
飛び出してきたちずが、ちびを摘み上げているあたしを見つめて目を丸くする。
「ああ、こいつちずのだっけ。何、脱走でもされたの?」
「あー……まぁそんな感じでちょっと目を話したすきに……じゃなくて!! なにるぅちゃんつまみあげて泣かしてんの!?」
「威嚇してきたから売られた喧嘩を買っただけよ」
「だからって泣かすことないでしょー!?」
パッとあたしの手からぐずっているちびルカを取り上げ、服の乱れを直してやっている。
『ちぃ! あれ! なに!?』
「んー? どっぐちゃんっていうんだよー虫好きのお兄ちゃんの飼い主だよ~」
「ぶふっ……」
不覚にも吹いた。まさかのTurndogが飼い犬扱いか。いやまぁ、あたしも若干それっぽい扱いをしているところはあるけどさ。
「まぁいいや、その子を泣かしたことは謝るわ。そんなことより……」
「そんなことぉ!?」
「Trick or Treat! お菓子をくれなきゃあんたたち取って喰う」
「怖っ!? どっぐちゃん怖っ!!?」
狼男(女だけど)の気分で悪戯を仕掛けてみただけだ。狼男が生半可な悪戯で済ますと思うのか。
「ほらほらー食べちゃうぞー頭から齧るぞー」
「そんなことできる訳が……」
「ちなみにあたしは普段鰹節を丸のまま食べてるから」
「全速力で用意させていただきますっ!!!」
ちびルカを抱えたまま部屋の中にすっ飛んで行った。賢明な判断で何より。私は常に本気だもの。
暫くして出てきた彼女があたしに渡したのは……アイスバー。……アイスバーっ!?
「あたしカイトじゃないんだけど!? もうちょっと気が利いたもん出せないのー!?」
「だって他にチョコレートぐらいしかなかったし……」
ぐっと言葉に詰まった。確かにチョコレートに比べりゃ遥かにマシではあるんだけど、寒いでしょーよ。
「ていうか私本来上げる側じゃなくてもらう側だし……最年少だし……」
「あら、本気で最年少だと思ってるの?」
「へ?」
さぁ、自分の年齢を数えてみよう。但しあたしの誕生日は2012年3月28日とする。
……答えは出たわね?
「……ああ……」
「そゆこと。まぁいいわ、他にないなら仕方ない、特別にいただいておくわね」
貰ったアイスバーを咥えて階段を降りる。
その後ろからなんか声が聞こえた。
『どっぐ、こわい!』
「あー……うん、ホントは怖い子じゃないんだよ……多分」
ふふ、あたしを何だと思っているのやら。
私の本性は狂犬。それをネル特製のブレスレットで抑えてるだけ。
本当は誰よりも怖い子。本性をさらけ出せば、誰も寄り付くことなんてできないぐらい怖い子。
本当は孤独な―――――誰とも馴れ合わない、孤独な野良犬なんだから。
一気に一階まで駆け降りる。
外は大分薄暗くなっていた。夕焼けに鰯雲が広がり、カラスがどこかで哭いている。幻想的な日本の秋の夕暮だ。
「あ、どっぐちゃーん」
共用リビングから声が聞こえる。しるるさんだろうか。
行ってみると……ちょっと早すぎる光景が広がっている。
「……しるるさん? 何やってんの?」
「こたつはいってるー」
「早いよ!?」
いや確かに今日若干寒かったけどさ! 流石に炬燵を出すのは早いんじゃないかな!
しかもよく見たら温度設定が『強』である。寒がりなTurndogですらこの時期に強にはしないぞ!
「あったかいから入ってきなよー」
「あたしは寒いほうが好きなんだけど……」
「トリックオアこたつIN!こたつに入らないと悪戯しちゃうようふふふふ」
「新しいね!?」
どっちにしろ嫌だ。あたしは体温上昇に非常に弱いし易々と悪戯されるつもりもない。
ならばこっちからも仕掛けるのみ!
「炬燵out or Treatよしるるさん! お菓子をくれなきゃ炬燵力づくで排除するわよ」
「あん、それは駄目ぇえぇ」
「ならお菓子をよこしなさい!」
「おーうーぼーうー」
「横暴上等よ!」
「第一お菓子は全部私のだもーん」
「おkならば今から炬燵を力づくで引っぺがす」
「あーんやめてぇぇぇ。わかったよぅ、あげるからこたつ取るのはやめて頂戴」
観念したのかずるずると炬燵ごと移動して部屋の隅の買い物袋を漁り始めたしるるさん。普通それって冷蔵庫の前とかその辺に置く代物じゃないの?
「……ああこれだ、はいどっぐちゃん」
ぽーんと投げ渡されたものを受け取って―――――思わず目が丸くなる。
「……鰹節?」
「そんな丸ごととかは買えないから普通の花鰹だけどねー、いつもお世話になってるから」
「ふぇ……ふ、ふん! まぁいいわ、うん! 特別に炬燵撤去はやめてあげるからね! いい!? 特別なんだから!!」
「うふふ、ありがとー」
やばい、口の端が上がり始めてる。こんな顔見られるのやだ。さっさと去ることとしよう。
うしろでしるるさんがくすくすと笑っているのは決して私を笑っているのではないと信じたい。
「ふぅ……こんなもんかな」
他の面子には会えなかったし、そろそろTurndogも病院から帰って来る頃だろうし、部屋に戻るとしようか。
階段に向かう途中で―――――ふと見慣れない部屋を見つけた。
扉には『きよかちゃんのお部屋』と書かれたプレートがかけられている。そうか、ここが新しく出来た清花の部屋か。
丁度いいから少し覗いて行ってみようか。最近は清花が昼間に皆と話したりすることが増えたせいか、夜よく寝るようになって話す機会がめっきり減ってしまったし。
扉をふっ飛ばさないよう、加減してノックしてみる。
「清花ー? いる―?」
『どっぐさん!? あ、ちょ、ちょっと待ってください!』
ずいぶん久しぶりに聞く清花の声は、なんだか妙に慌てていた。
「清花? どうしたの?」
『ちょ、ちょっと今着替えてて……うう、難しいよ……』
難しい? いったい何のことだろうか?
暫くして、『入っていいですよー』と声が響いた。
扉を開けて入ってみると―――――
『とりっく! おあ……とりーとっ!』
「……へ?」
出会い頭にぱっと言われた言葉、そして清花の格好に思わず目を見開いた。
清花はいつものツユクサ色の袴ではなく、どっからどう見ても西洋の魔女っ娘みたいな恰好をしていた。いつも結っている髪も解いて、さらりと下ろしている。
余りにも想定外すぎる状況に言葉を失っていると、清花のいっぱいいっぱいだった笑顔があっという間に心配そうな、そして大層恥ずかしそうな顔へと変わっていった。
『え……えと、な、何か間違ってますか? 今日はこういう西洋風の仮装をして、『とりっくおあとりぃと』っていう日だって聞いたんですけど……』
「あ、いや間違ってないけど……その衣装は誰から?」
『『ハロウィンの日に来て皆を訪ねてみなさい』ってネルさんが差し入れてくれました。着方も教えてくださって』
「何やってんのあいつ……」
何を目論んでいるんだか。
頭を抱えていると、清花が心配そうに覗きこんできた。
『何か……まずかったですか? うまく着られてますか?』
「ああいや、うん、何にもまずくないわ、うん……似合ってると思うわよ、それ」
『本当ですか!? よかったぁ……』
清花の嬉しそうな顔を見て、はっと我に返る。
今あたし、なんて言った? 似合ってるって? あっさりと?
そんな素直に感情を出すことなんて滅多になかったこのあたしが?
……どうしてだか、清花の前ではいつもこうあっさりと感情を表に出してしまう。
清花が表裏のない奴だからだろうか。正直よくわからないけど。
「……で、その『Trick or Treat』の意味、あんたわかってんの?」
『……よくわかってないです』
ああ、やっぱり。しるるさんと会うまで誰とも話すことのできなかったこの子が、ハロウィンをちゃんとわかってるとは思えなかったけど。
「……『Trick』は悪戯。『Treat』は持て成し。『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』が合言葉の、神無月最後のお祭りよ。一応今あたしはお菓子を持ってるけど……これはあたしが年上達から分捕ってきたもの。あげる気はないわ」
『どっぐさん……それは屁理屈っていうんじゃないんですか……?』
「だからその代り――――――――――」
無意識って怖い―――――そう思った時にはもう、私は清花の腕に自分の手を回していた。
「久々にいっしょに話しましょ!今夜はあなたのこと、寝かさないから!!」
流石は明治生まれの大和撫子、腕を組まれたことで一気に顔が赤くなったが、数秒したら慣れたのか、満面の笑みを浮かべて『はいっ』と言ってくれた。
何で素直になっちゃうのとか、もう深く考えるのはやめにしよう。
今はただ、清花の笑顔を見られることが単純に嬉しいから―――――
「……やれやれ。まるで恋人同士だな」
病院から戻ってきていた俺は、そんなどっぐちゃんと清花ちゃんのやり取りを扉の影から見つめていた。
――――――――――あいつは友情が次第に友情を超えた想いになりつつあることに、まだ気づいていないんだろう。
昔の俺もそうだった。そんな昔の俺をベースとして生まれたどっぐちゃんもきっとそうなんだろう。
「……ま、だからどうしたって話だよな。野暮な事は言うこっちゃねぇってか。ハッピーハロウィンだしなぁ」
どっぐちゃんが本当の想いに気づかない限り、また一問答起きることもないだろう。気にするほどのことでもない。
何より、あの二人が仲良いのは見てて心地よいしな。
今宵は楽しいお化けたちのための夜。時も幸せも、今は彼女たちの為だけに―――――
【ハロウィン!!】Trick or…Love?【つんでれ☆どっぐちゃん】
久々のどっぐちゃん主役ですよ! もう何か月ぶりだろうね!
こんにちはTurndogです。
まぁなんでどっぐちゃん主役にしたかっていうと、清花ちゃんとイチャイチャさせたかったんですよね、はい。
だって少女と少女が仲睦まじくしてんの見てて癒されるじゃないですか。
しかも片方犬耳ツンデレ少女とか猛烈にかわいいじゃないですか。
あとどっぐちゃんはなんだかんだで寂しがりだからヤンデレ性質もあると思うんですよ。だから時々仲良くさせてあげたいじゃないですか。やんでれ★どっぐちゃん化する前に←
きっとこの後どっぐちゃんは清花ちゃんに髪を手入れされますね。
あと俺はルカさんに怒られてまた病院送りかな((
ハロウィンと言えば小学校時代近所の公園に子供たちで仮装して集まって、皆で家々を回ってTrick or Treatやってましたね。
俺がやったのは確か、カオナシにトトロに恐竜に……だったかな?
小学5年とかその頃のハロウィンでは幼馴染の女の子が魔女っ娘で非常にかわいかったのは覚えてます。
まぁその後その子にバイキン扱いされたわけですが←
どうでもいいけどここまで投稿した3人皆タイトルが似通ってんな←
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