~三番目~

 暗闇の中で髪の長い少女が泣いています。
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
少女よりも小さな小学生ぐらいの女の子が聞きます。
「私、一人ぼっちなの。」
「どうして?」
「あのね、私の国の人たちは歌が嫌いなの。だけど私は歌が好きだから歌っていたら、みなはねおかしいとか、魔術を唱えてるって言って、親友も友達もおばあちゃんたちも、家族までもが私から身を隠してしまうようになってしまったの。」
「…夢の中まで一人ぼっちって子いるんだね…。世界って広いな~…。あ、私のいる世界ではみんな、歌が大好きなんだよ!」
「本当?だったら私をその世界へ連れて行って!」
少女は初めて顔に笑みを浮かべる
「いいよ!でも、ひとつだけ約束してね。」
少女はウンとうなずくと、
「その世界のアリスになってほしいの。」
「アリス?」
「うん、私の国は不思議の国って言うんだけどアリスがいないから消えてしまいそうなの。」
「……っ!アリスって不思議の国○アリス?」
「まぁ、そんな感じかな?」
と小さな女の子は頬をかく。
「すっごい!その国のアリスになれるなんて!とっても楽しそう!私、アリスになるよ。……え~と…?」
「私はユキだよ。」
「うん、ユキちゃん。ありがとう。私、アリスになることを約束するね!」
ユキは頷くと、
「ちょっと、目を瞑ってて。」
「うん。」
少女は目を瞑るとすぐに、
「もういいよ。じゃぁまたね。」
 少女が目を開けるとそこはきれいな花畑。
空には雲ひとつない青空。
少し向こうには大きなお城のような建物…いや、お城である。
けれどもユキの姿はどこにも見当たらない。
「ココが…不思議の国?思っていたところとぜんぜん違う…。」
「ミク!ミク!」
緑の髪のショートカットの女の子が少女に手を振ってやってくる。
「やっと見つけた。もうすぐハク様とネル様が怒りだすよ!」
「…ハク?ネル?それにあなたは?どうして私の名を?」
少女、ミクは首を傾げて言う。
「へ?ミク、寝ぼけてる?ミクはこの国の王女様で私はグミ。ミクのおつきだよ!。」
「私が…王女?グミ…さん?」
「もうっいつもどうりにグミって呼んでよ!」
「え…あ、うん。グミ、ネルとハクって?」
「ハク様とネル様はミクのしつけ係!ハク様とネル様は…あっ!大変!勉強時間に遅れるとハク様に起こられるよ!」
グミはミクの手をとり走り出した。

「ハァ、ハァ…ギ、ギリギリ~。」
「グミ。」
背後からグミが呼ばれてギクリとする。
「は、はい。何でしょうか?ハク様。」
背後に立っていたのは白い髪を後ろで束ねている女性だった。
「何がギリギリですか。四十七秒も遅れています。」
「四十七秒ぐらいどうってこたぁないだろ、ハク。許してやれよ。」
後から来た黄色の髪の女性が言う。
白い髪の女性がハクらしい。
「いけませんよ、ネル。それを許していては、タイムロスになってしまうのか…。さぁ、ミク様はこちらでお仕事を。」
黄色い髪の女性がネルらしい。
「え?勉強じゃないの?」
「どちらも同じようなものでございます。ただいま残っておられる書類のほうはザッと千三百七十二枚ですので、今日は、七十二枚以上を終らせれば、今日のお仕事は終わりにしてもよろしいですよ。」
「せ、千三百七十二枚!?」
「はい。早く終われば自由な時間が増えますよ。では、ネル、グミの事はよろしくお願いしますね。」
とミクをつれて歩いてゆく。
「さぁって、俺はグミのしつけからしないとな。」
「ひっっ!」
グミはネルから逃げるように走ってゆく。

 月日がたつにつれて、ミクは元の世界のことなど、すっかり忘れていました。
そして気がついたのです。
この国、この世界の人々は自分の想いどうりに動くということに…。

 「グミ~♪ネルとハクが下町に遊びに行ってもいいって!」
「ミク、こういう時だけは仕事を終わらせるのが早いよね。」
「エヘヘ。」
ミクが笑ったとき、グミのすぐ後ろに小学生ぐらいの小さな女の子が立っていることに気付きました。
グミはまだ気が付いてないようです。
ミクはグミを部屋から出して小さな女の子に話しかけます。
「ユキちゃんのおかげで、私、いっ~ぱい友達ができたの!」
「…約束…守ってくれなかったね…。」
「え…?あぁ、ごめんね。すっかり忘れてた。でも大丈夫だよ。この国の人々は私の想いどうりに動くからすぐにアリスになれるよ!」
「人を操れるだけじゃアリスにはなれないよ。」
ユキは手をたたくとミクの頭に激痛が走る。
「い、痛い。」
ユキはミクの声で
「三番目アリスは幼い娘。綺麗な姿で、不思議の国。いろんな人を惑わせて、おかしな国を造りあげた。」
ミクは叫びながらその場にしゃがみこんでしまう。
その声を聞いたグミが部屋に入ってくる。
「ミク?!」
近くにいたのだろう、はくとネルも入ってきた。
「ミク様!」
「ミク!」
ユキはミクの声で続けます。
「そんなアリスは、ユキはミクの声で国の女王。歪な夢に憑かれて。朽ちゆく体に怯えながら、国の頂点に君臨する。」
ネルにハク、グミまでもがユキのことにまったく気付かない。三人にはユキが見えていないのでしょうか?
「バイバイ。三番目アリス。」
ユキはこう言うと姿を消した。
(三番目?三番目ってことは一番目と二番目が?ならば、ユキちゃんは四番目を探しにいったんだ。四番目の子もアリスになれなかったら…)
「ミク!ミク!私は何をしたら…」
グミが泣きながらいいます。
「グ…ミ…。私と同じような子が来たらこれを…渡して。」
ミクは何処からかハートのQのトランプを渡す。
「そ、そんなの、わかんないよ!ミクと同じような子なんて!」
「じゃぁ…いっしょに…。」
ミクは立とうとしましたがその場に崩れるように倒れてしまいました。
「ミク!」
(アタシと変われ)
ミクの頭の中で恐ろしい声が聞こえます。
「………大丈夫。グミなら見つけられるよ。」
こう言うとミクは大声で叫びます。
「ミク!」
「ミク様!」
「ミク!」

数分後、ミクはスッと立ち上がる。
「ミク?」
グミはミクの肩を持とうとするとその手をミクははじくように叩きます。
「さわらないで!」
「え?」
ミクはネル、ハク、グミ、という順番に顔を見てゆくと
「もうすぐ、いいえ、もう少しで私が私でなくなる。もう一人の私が外で暴れようとしているの。でも、忘れないで…今の…私…を――――。」
こう言うとミクは目を閉じます。
再び目を開けたミクの目は…とても恐ろしい目でした。例えるならば、まるで悪魔のような目です。
「フフフ…ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハ……。」
ミク、いや、ミクの姿をした悪魔とでも言おうか。悪魔は近くにあったものを壊しだしだしました。
その場にいた三人は悪魔を取り押さえようとしますが、悪魔も抵抗してなかなか抑え込むことができません。

結局、ミクの体がミクに帰ったのはそれから三十分も後のことでした。

 「ミク様、本当に入ってしまわれるのですか?」
ハクはミクに聞く。
「えぇ、きっともう一人の私が暴れだす時間が増えてくるような気がするの。」
「ミク、グミには言わなくてもいいのか?このこと?」
ネルは何かを抑えるように言う。
「うん。私である時間が減ったらグミも、みんなも大変だからね。」
「だからってっ!」
「…ごめんね。もう…決めたから。」
ミクは笑顔で言いますがとてもつらそうです。

 数日後、ミクが言ったことが本当になってゆき、ミクの体は日に日に悪魔にのっとられてゆきました。
最後にミクの体が戻ってきたのは亡くなってからでした。



「…」
大きな夢は考えます。
(どうどのようにすればユキちゃんは逃げれるのだろう)と。
「先生!」
小さな夢が顔を覗かせます。
「わ!」
「どうしたんですか?先生?」
「いや…なんでもないよ。…ねぇ、ユキちゃん。」
大きな夢は小さな夢に真剣に言います。
「逃げてくれないかな?」
「ほぇ?どうして?」
「それはね…ユキちゃんが可愛いからだよ。」
「可愛いと逃げないといけないの?」
「可愛いからこそ逃げてほしいんだよ。」
小さな夢は少し考えてから
「じゃぁ、四番目を私の中に迷い込ませてから逃げるね!」
小さな夢はどこかへ走っていってしまった。
 「キヨテル!」
背後にもう一つ夢が現れます。
「はい、なんですかリリィさん。」
「あなた、どういうつもりなの!」
「ユキちゃんは、食べないでください。」
「…はぁ?あんた、私に逆らうつもり?私の作った夢だというのに?」
「っ、…はい。あの子は今までの夢とは違うんです!あの子は私を…先生と呼んでくれて…。」
「ふ~ん。そう、ならば。」
リリィという夢は指を鳴らすと大きな夢の体が動かなくなる。
「リリィさん!お願いです!」
「キヨテル、あなたはそこで、可愛くて仕方がないユキって子が食べられるところを見てなさい。」
大きな夢は、キヨテルは歯を食いしばる。
リリィという夢が高笑いをする中、
「ユキちゃん……逃げて…。」
と、涙をこぼした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

人柱アリス3

なんだかんだで、休み中には終わりそうにないですねw
ほんとにすみません。
字間違いがあると思うのであれば気軽にどうぞ。

閲覧数:359

投稿日:2011/01/08 16:42:51

文字数:3,748文字

カテゴリ:小説

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