結局先生の協力は直ぐには得られなかった。溜息を吐きながら家に戻ろうと玄関まで降りると見慣れた人影があった。

「鈴夢。」
「そろそろ暗くなるから送ってく。」
「うん、あ、でも…。」

戻っているお父さんと鉢合わせでもしたら殴り合いになりそうで怖い、とは言えないし。

「親父さんの事なら焦らない方が良いんじゃない?俺が凰の会社入ってからの方が良いならそれでも…。」
「それはそうなんだけど…。」

自分でも焦ってるのは解ってる、弟か妹が生まれてからだってゆっくり認めて貰えば良いのは充分解ってるつもりだった。でもやっぱり不安が消えなくて胸が押し潰されそうになる。

「今日帰りたくない…。」
「駄目、ちゃんと帰って話し合うんだろ?」
「やだ…聞いてくれないもん。」
「こら、緋織。」

寂しくて意地になって子供みたいに駄々をこねていたら軽く頭を叩かれた。振り向くと呆れ顔の先生が立っていた。

「先生…。」
「オラ、イチャついてる場合か、行くぞ。」
「俺も行きましょうか?」
「止めとけ、乱闘になるぞ。」
「ある程度は何とか。」
「余計悪い!」

暫くの説得の後3人で家に戻る事になった、帰りの車内で先生はずっと溜息ばかり吐いてた。家の前まで来た時ふと足を止めた。いつもは何も無い道に見覚えの無い車が数台停まっていたからだった。

「何か路上駐車多くありません?」
「ん?そうか?」
「はい、この辺住宅街で住人の車位しか通らないのに…。」
「…まぁ、家入れば大丈夫だろ。」

気にしつつもドアを開けた時だった。

「ハイハイハイ!おっかえりなさーい!」

玄関のドアを開けた瞬間に安っぽいクラッカーと甲高い声が飛び込んで来た。何だろう、この嫌な予感しか無い既視感は。

「…佐藤さん…?!」
「緋織ちゃん、お帰りなさい。」
「お母さん、佐藤さんがどうして此処に?」
「まぁ立ち話もなんだから入りなさい、ほら、お2人もどうぞ。」

そして促されるまま家に入った。

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いちごいちえとひめしあい-143.既視感-

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投稿日:2012/11/18 02:32:34

文字数:831文字

カテゴリ:小説

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