粉々に砕け散ったガラスが散らばった部屋で、また一人、苦しそうに蹲る影があった。声を殺して、震えながら傷だらけの自分の体を、ぶるぶると震える手で抱き締めている。
「…純…?」
「ヒッ…!あ…ああ…!ああっ!来るな!僕に近付くな!」
怯える様な目は、涙に濡れて尚涙を流していた。手辺り次第に物を投げながら、壁際に自らを追い詰めて行く。
「純…。」
「…触るな…もう…僕から逃げて…お願いだから…!」
「…逃げない…。」
「触るなっ…!」
ガラスで傷付いた両手をそっと握り締めた。震えて氷みたいに冷たい。
「…駄目だよ…コア…お前の手が汚れるから…。」
「良いよ…汚れても。」
「…っ!うっ…!うぅっ…!」
「純。」
手を引き寄せられ、両手で縋り付く様に抱き締められた。あたしの胸で叫ぶ様に泣く純をそっと抱き返す。
「…るしい…苦しいよ…おかしくなりそうだよ…。」
「適合者が集まれば…きっと治るよ、ね?」
「助けて…助けて…!」
「純…ごめんね…あたし何の力にもなれなくて…。」
もどかしかった。何も出来なくて、ただこうして抱き締めて、声を掛けるしか出来ない自分が悔しくて悔しくて仕方無かった。遠慮がちなノックの後、ゆっくりとドアが開いた。
「今日連れて来た子、適合者だったって。」
「そう…。」
「純お兄ちゃん、大丈夫?言魂使おうか?」
「眠らせてあげて。」
「うん。えっと…ワードは…。」
「コア…。」
「え?」
泣き腫らした顔の純は腕を緩めて少し体を離すと消えそうな笑顔で言った。
「コアが撃って…眠らせて…。」
「でも…!」
武器を調べた時に言われた。あたしの武器は誰かを守ったり癒したりが出来ない。例えば『治癒』とか『回復』って言葉を選んでもあたし自身しか治らない。…あたしは…純を救えない…。
「お願い…コア。」
「…コトダマ…『琴音純』『安眠』『安眠』『安眠』『安眠』安…!」
「一つで良いのに…優しいね…コアは。」
誰でも良い…誰か純を助けてあげて…あたしじゃ駄目なの、あたしの力じゃ純は救えない、あたしは何も出来ない、ただこうして眠らせてあげる事しか…!
『装填完了』
「ごめんね…。」
「おやすみ…純…アクセス!」
音と共に、純は床に倒れ込んで眠った。
「純…純…!純…!」
「コアお姉ちゃん…。」
「見付けて来るからね…あたし…適合者引き摺ってでも連れて来るから…!絶対…
あたしは純を助けるから…!」
どうしても祈らずには居られなかった。
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