テーブルを囲む様に5人がぐるりと座った。キーを叩く音がカタカタと響いていて口を開くきっかけを掴めないで居た。

「完了です。」
「判った、始めてくれ。」
「おい、この子は良いのか?聞かせて。」
「構いません、ある意味彼女も当事者ですから。」

翡翠さんはそう言うと画面に何かを打ち出した。リストの様な物が物凄いスピードでスクロールしてて何をしてるのかすら全く判らない。

「各班の被害状況をまとめました、第1班、第2班、軽傷者多数ですが表立った
 被害は受けていません。問題は…第3班です。隊長であるノアを始め半分の16名
 が重傷、内13名が【MEM】の手により霊薬を二重投与されました。」
「二重投与?」
「本来ならばBS反応が出た人間に対して霊薬は使われません、しかし昨日は違った。
 重傷者と判断した者にほぼ無差別に投与を行っていた。あのままなら多分発狂死
 だったでしょうね。」
「だった…?」
「ええ、助かった13名からBS反応が消えました。」
「…え…?」
「消えた?!」
「どう言う事だ?」
「そのままの意味です。彼等はもうBSではありません。」
「治ったって事なのか?」
「はい。」

みんなの顔に動揺が走った。そりゃあ無理も無いと思う。抑制剤は皆知ってるけどBSを治す方法なんて無かったから。翡翠さんは再びキーを叩くと私達に向かってくるりと液晶を向けた。

「あ、こいつ、確か救護班に居た…。」
「【Yggdrasil】所属医師、奏騎士。あの時二重投与され恐慌状態だった仲間に、
 彼が何らかの処置を行って居たのが目撃されています。何をしたのかはまだ
 判りませんが、その処置の結果13名のBSが解除されています。確証は持てませんが
 現段階で彼がBSを治す手段を持ってる可能性は非常に高い。」
「ノアは何て?」
「重傷を負っていたせいかよく覚えてはいないそうですが…何か飲まされたと
 言っていました。」
「……。」
「バット?」
「…気持ちは判らなくもありませんが、今は私情を捨てて奏医師に会うべきです、
 啓輔さん。」
「…会えない…。」
「えっ…おい?」
「かつての親友に拒絶されるのが怖いからですか?」

乾いた音が響いた。平手で殴られた翡翠さんの唇から一筋血が流れた。見覚えがある、人形みたいな冷たい瞳…。思わず背筋がゾクッとした。

「…騎士には会えない…。」

吐き捨てる様に言うと啓輔さんは部屋に入ってしまった。

「どう言う事だよ?今の…。」
「奏騎士は啓輔さんの幼馴染で親友だった方です。10年前、酷い離れ方をしてから
 ずっと会ってはいないそうですが…。」
「この人…知ってる…。」
「え?」
「博士の写真に一緒に写ってた人…博士のお友達。」
「博士…?あの…憐梨さん、博士って…?」
「律…雨音律博士。」

翡翠さんの顔色が変わった。液晶を直すと凄いスピードでキーを叩き始めた。表示された液晶を憐梨さんに向き直して聞いた。

「この人ですか?」
「…ええ。」
「知り合いか?」
「雨音律…彼は私の後任として薬学研究部に配属された研究者です…つまり
【MEM】研究所の人間です。」
「どう言う事だよ?奏医師は【Yggdrasil】の人間なんだろ?」
「もしかしたら私が思っているより厄介かも知れません。【MEM】も【Yggdrasil】も
 …あの2人も。」

扉を見遣った翡翠さんの鋭い目に、私は胸騒ぎがした。

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  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

BeastSyndrome -50.解けない糸-

どうして解こうとするの?
糸が解けた先が繋がっているかも判らないのに

閲覧数:107

投稿日:2010/06/18 18:28:22

文字数:1,429文字

カテゴリ:小説

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