そこにいるひと
淡い光のさす窓辺に、少女が立っている。
視線を手元に落としたまま、一心に何かを呟いている。
整った容貌に表情はない。
白いサッシの窓からこぼれる光が、彼女の黄金色の髪に揺らめいて、そっと溶けた。
ふと、見えないものでも触れたかのように顔を上げる。
瞳は、窓の向こうのさらに遠くを見ていた。少しだけ濃い翡翠色の瞳。その中には、もしかすれば美しい自然の風景でも映っているのかもしれない。
静かな吐息を漏らして、唇がほほえむ。
指先が古びた本の背表紙をゆっくりとなぞっていく。
――私は、あの人を愛している。私の「たったひとり」のあの人を。
愛している。正しさを求める愛なんていらない。どんな形の過ちだとしても私は、あの人がほしい。
私を誰よりも愛してくれる、あの人がほしい――
無造作に置いた本の端が、窓枠に備えつけられた一輪挿しをかすめる。
白く素朴なそれには何も挿されていなかった。
彼女以外音のない世界、歌が染みていく。
コメント1
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ご意見・ご感想
日枝学
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読みました! 綺麗で幻想的で、よく分からないけれど何か力強いような何かがあるのかもしれない――そういう印象を受けました。良いプロローグですね。描写が美しいです。描写そのもの全体に惹かれますが、特に
>指先が古びた本の背表紙をゆっくりとなぞっていく。
の一文を読んだ時に、その光景が頭の中に鮮明に想像されました。
良かったです! 続きの執筆、頑張ってください。
2011/08/15 11:32:13