螺鈿の園にて君を待つ


淡墨(うすずみ)の曇天　燕(つばめ)の尾　
温い(ぬるい)風が纏わりついて
僕は空に筆を浸して
君への文(ふみ)をしたためている


お元気ですか
君の面影が
もう随分と薄れてしまった
珊瑚の爪も
粉色の頬も
もう随分と薄れてしまった


螺鈿の園にて君待つ夕凪(ゆうなぎ)
のぼる月長石(げっちょうせき)煙の様に
深緋(こきひ)の唇で囁いておくれ
もうすぐ行くよ　今すぐ行くよと


鈍色(にびいろ)の夕暮　神狐(しんこ)の眼
冷めく(ひやめく)水の絡みを解いて(といて)
僕は空に腕を沈めて
君の名残を探し続けてる


翡翠の眼差し
羽二重(はぶたえ)の声音
音の鳴る様(よ)な絹の髪
琥珀の肌の
木目細かさ(きめこまかさ)も
もう随分と忘れてしまった


螺鈿の園にて君待つ夕凪
沈む日長石(にっちょうせき)燃え立つ様に
深緋(こきひ)の唇で囁いておくれ
こっちへおいで　今すぐおいでと

螺鈿の園にて君待つ夕凪
沈む日長石燃え立つ様に
白蛇(はくじゃ)の指先で縊って(くびって)おくれ
君が好きだよ　今も好きだよ
君に会いたい　君に会いたい……