―続・寺院にて―
「で」
「(やばいやばい神凪殿に話があるといって此処に残ったまではいいものの私なんで敵の総大将とその側近二人と一緒に神凪殿のお振る舞いになる茶請けを御馳走になってるんだどうしようどうしようどうしよう)」
「学帆様、こちらのお茶請けは?」
「先ほど出した漬物が、最後の一本だったのです。ですから台所にあるもので何かと思いまして、即席でぎゅうひ;求肥などご用意させていただきました。甘味の類を作るのは久々でしたので、御口に合いますかどうか」
「学帆殿の御勝手にて甘味の御支度整ふる姿、いとうつくし。日頃より慣れたる様の見らるる、戯奴飽かず見入るのみなり」
「姿が見えないと思ったら、人の御勝手に断りも無く!学帆様、大変失礼いたしました」
「いえいえ、とても楽しかったですよ。いろいろお手伝いも戴きまして、有難い限りです」
「本当に美味しいですよ、学帆殿。花見に持参したい位です」
「ありがとうございます。寺の桜ももうすぐ見時ですので、ぜひその際は此方でお花見でも」
「ふふ、とても楽しみね」
「藤山様も、ぜひお口汚しをば」
「あ、有難く頂戴いたします(って何故こうも和やかな雰囲気に!?)」
「百合李殿の恥らひて染まりにける頬の淡き赤、流るる髪と肌の白に相俟って鮮やぐ事、チューリップ;郁金香の咲き乱るるが如し。いとやんごとなき御姿哉」
「あ、ありがとうございます(褒められた!?あんまり古典文学の成績良くなかったけど私今褒められたよね!?え、どうしようどうしよう)」
「それで、お話と言うのは?」
「は、はい?(あれ、神凪殿がいらして御声掛け下さったけれどお話?お話ってなんだっけ?あれ、私何しにここに来たんだっけ?)」
「ほら、岸信総理が、藤山大臣がお話がおありのようなので先に議事堂に戻られるとか何とか仰っていた」
「あぁ、そうかそうかそのお話」
「御身のおはする話の如何、御身をおきて知らるる者のあるらむ」
「(あ、今ちょっとけなされたのかな。いや無視しようそうしよう)お話と言うのは、その、惠巳様のことなのです」
「総理のこと?」
「…愛凜、蓮二、行きましょう」
「「御意」なり」
「あ、待ってください。この際です、お聞きくださって構いません」
「かと言って、こちらも用が無いわけでは無いので…、そうね、お二人は今日は下がっていいわよ。ありがとう、朝からお付き合い戴いて」
「御姉様」
「愛凜、行こう。御姉様のお考えのあってのことだ」
「…御意なり。御姉様、何卒ご用心をば」
「あら愛凛、脇差はいらないわ、いまは」
「…ありがとうございます。こんなことを面と向かってお話させていただくのも、滑稽なだけのようなお話ですが」
「総理のお話と申されるに、ご自身のお話できる範囲を見定めてお話になられますよう。何処で聞き耳をたてられているとも限りませぬ」
「といっても、あたしがここに居てはお話しにくいのでは?」
「いえ、お気になさらず。さして機密たるお話でもないので。お話と言いますのも、ただ私のお話を少しお聞き頂きたかっただけの事で。…惠巳様が、最近目に余る程に攻撃的になられているのです」
「攻撃的に、ですか」
「えぇ。好戦的で人を威嚇したりからかいに懸かったり、こと人の隙を探すような人間に、ここ数年で変わられているようなのです」
「それは、あたし達学連の活動にも、その一因があるかもしれないと?」
「断言は出来ませんが、おそらく。以前はもっと朗らかさのある方で、国会でもお人柄のよさで一目おかれていた方でしたのに。大臣の人選に偏りがあるという批判や、安保条約の締結に向けて議会と別に委員会を設置する強攻策を以て、御自身の恣意に因り話を進めようとしているのです。私用でお話をする機会ですら、惠巳様が一体何をお考えになっていらっしゃるのやら」
「あたしに言わせれば、自業自得としか言いようがないわ。高慢で自分の考えを曲げず、己が内にある正しさを絶対として他を認めないその姿勢、理解し得ないったらないわ」
「それは、美紅殿に同じ事が言えぬとも限りませんよ」
「なっ!?」
「『敵を信じるにはまず味方から』、と仰いましたが、自分こそが正しいと一体誰が定義できましょう?お言葉をお借りして言わせていただければ、『自分を信じるにはまず敵から』。相手を理解してこそ、自分の正しさの何たるかを信ずる事もできましょう。しかして、その腹心とも在らせられる方が、それを信じられぬとは」
「如何にもです、神凪殿。あの方は昔から己が悩みを内に閉じ込める方でいらっしゃいました。学生時代、私が惠巳様に悩みを打ち明けている最中で、途端に御顔を明るくし、声高らかに私を置き去りにして、どこかへ行ってしまう様なお方で」
「…藤山大臣も、よく岸信総理と長くお付き合いしていらっしゃる事で…」
「それ故なのです。明らかに今までとは一線を画している。ご自身がご自身で自分の周りから人を排除して盲進していらっしゃる…そうなのです。かくも総理の胸中が読めぬのは、一重にあの方がお一人であるからなのです。敵しかおらぬと女一匹腹を括り、国会はいつも冷戦のようで」
「…かと言って」
「!」
【八項目】二次創作小説『近代歌姫浪漫譚 千本桜 ~学徒が華ぞ咲きにける~』【胡蜂秋】
黒うさP『千本桜』の自己解釈・二次創作小説です。
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