私とミクちゃんは二人でこっそり村を抜け出して、街で暮らし始めた。
街は活気があって、あの私を蔑んでいた人達が住んでいた村とは違いとても居心地がよかった。誰も私を蔑まない。大切な人も隣に居る。
もちろん仕事無しでは飢え死にしてしまう。だから、私達は仕事を始めた。
不慣れな仕事と生活でも、二人なら大丈夫。
裕福な商人の婦人の使用人。婦人はピンクの髪の美人な人だ。
私が住んでいたボロボロの一軒屋とは違い、婦人とその商人の住む家は豪奢だった。国王の王宮とまではいかないが、やはり小市民の家の規模とは一線を画している。
私とミクちゃんが生きるために選んだ仕事。
そんなある日、家に隣国の青の国の王子が来るという話が流れてきた。青の国といえば、今とても栄えている国だ。その国の王子が来るとなれば、しっかりしなければならない。
「緊張するねー、ハクちゃん」
「うん、そうだね」
王子が来る当日、私はミクちゃんとそんな他愛ない話をしながら廊下を歩いていた。と、突然ミクちゃんが声を潜める。
「見て、あの人……王子じゃない?」
「え!?」
私は慌てて物の影に身を隠す。そして見付からないように時々顔を覗かせる。王子は窓の外の景色を見つめているようだった。
青の国の王子は、それは綺麗だった。綺麗な青い短髪と切れ長の瞳に180弱の身長、体系は細身ながらも程よく筋肉が付いていて、だからと言ってゴツゴツはしていないという理想の体系。整った顔立ちと、そして豪奢な服。別に冷たそうではなく、寧ろ優しそうな雰囲気が有る。
でも―あいつと彼女の出会いが、全てを狂わせるなんて思っても見なかった。

王子の来日から数日後。
王宮にこんな噂が流れ始めた。
「使用人のミクに先日来日した王子が恋に落ちているらしい」
…私はそれをよく知っていた。だって、何度も王子と一緒に居る光景を見たことがあって、それはどれも両方が幸せそうな表情をしていたから。
それに、ミクちゃんに惚れるのだって可笑しくは無い。だって始めてあった時でも見惚れてしまったのだから。王子とは美男美女で釣り合いが取れているから、当たり前と言えば当たり前と言える。
きっと王子は彼女を深く愛しているのだろう。
しかし―それが、危険だったのだ。

「隣の国って―あの悪逆非道の?」

また使用人の間で妙な噂が流れ始めた。
隣の国の王女が王子に求婚を申し込んだが、王子はそれを断ったという。
私は―正直怖かった。
黄の国の王女といえば、悪逆非道な行いで有名で、自分が気に入らない―逆らったものは容赦の無い粛清を行うと言う。
そして……恐れていた事態が、起こった。

「きゃああ!」
まるで地獄絵図だ。使用人たちが慌てふためき、あちらこちらに逃げている―が、すぐに何者かに捕らえられ、その命の灯がまた一つ消える。
そう、恐れていた事態。―王女の粛清の手が、下ったのだ。

「緑の髪の女は全て、殺してしまいなさい」

―あんなに活気のあった街は、一夜にして焼け野原となってしまった。
そして、大切な人も―黄の国の使者の手によって。

私は無力な人間でした。
我を通す傲慢さも
誰かに殉ずる優しさも
権力に抗う勇猛さも
持ち合わせてはいませんでした。

「生きていてごめんなさい」

――

ライセンス

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白ノ娘 ―3―

第3弾。
最後の文は悪ノP様の曲の紹介文からです。

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投稿日:2010/02/14 11:27:12

文字数:1,354文字

カテゴリ:小説

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