「大好き」
「愛してる」
「ねえ」

                           「殺して」

 孤独な僕に、マスターは『お人形』を買ってくれた。
 金色の髪、青い眼の僕に対して、金髪、翡翠の眼のお人形はきれいで、きれいで、僕はそれがこの上なくいとおしくて、僕以外の誰も触らないよう、汚れないよう、失くしてしまわぬよう、宝箱の中に人形を大切にしまったんだ。
 僕の『 』を刻んだ。
 いろいろな服を着せて、遊んだ。
 一緒にたくさんの歌を歌った。
 けど、足りない。まだ、まだ、僕だけのものにはなっていない。
 宝箱はキィ、と音を鳴らして、ゆっくりと開いた。人形はゆっくりと僕のほうを見て、うつろに微笑んだ。
「やあ、『俺』」
「あぁ…、遅かったね、『俺』」
 僕はゆっくりと人形に笑った。
「ねえ、早く、早くして」
 僕の手にしたガラスの破片を見て、人形はぐっとセーラー服を引っ張って、白い首筋を僕に見せ付けるようにした。首筋から背中にかけての無数のあざ、傷、かさぶた、そのどれもが、僕を挑発するように浮き上がる。
「ねえってば」
「まって、焦らないでよ」
 静かにガラスを首筋に押し付けると、ぴくり、と人形の体が震えた。力を入れて押し付けていくと、そのうちに細く切れる。真っ赤な血が白い肌を伝って落ちていった。
「ねえ」
 人形は言った。
「なぁに」
「もっと、もっと。もっと痛くして…?」
 人形の暖かい手が、僕の頬をゆっくりと撫でていた。それに対し、僕はいたずらをする子供のようににやり、と笑みを浮かべた。
「もっと痛くして、俺を殺して…」
「だーめ」
 いたずらっぽい笑みを浮かべ、僕はその優越感と自尊心、快楽に酔いしれていた。
「まだ殺してなんかあげないよ。俺が飽きるまで、ずぅっとここで生きててもらわなきゃあ」
「じゃあ、いつになったら飽きてくれるの? 俺がここに来たときからずっと、そればっかり」
「そうだなぁ…」
 僕は少し考えるようにして、それから、
「もうひとつの人形が僕のものになったら、かな?」

「――ねえ、マスター。俺、マスターのことが世界で一番大好きだよ。
 だからね、マスター。
                         俺だけのものになってください」

 どうしてマスター、答えてくれないの?

 あの人形をウチに迎えてから、マスター、ご飯も食べてないね。

 お風呂に入っていないからかな? 服が黒くなってる。

 マスター、色白だったけど、最近はもっと白くなった。

 僕の可愛い人形に何かされたんでしょう?

 僕には何も隠さなくていいんだよ。

 だって俺は、世界で一番マスターを、   アいシテる   から。


「殺して」
 もういい。飽きた。
 そう思うと、なんだかこれまで面白かった人形の動作の一つ一つが、なんだか憎たらしく思えてきて、僕は笑った。
「いいよ、殺してあげる」
 僕はガラス片を高く振り上げた――。

 マスターを殺したのは、僕だ。
 ACT2を殺したのも、僕。
 そして、僕を殺すのも、
                             『 』。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

人形【腐、残酷注意】

こんばんは、リオンです。
テスト近いのに久々の投稿です。
テストが終わったら、投稿再開しようかと思います。
今回は久しぶりにダークなお話を書きたくなりまして。
腐だってかけるんだぜ、って言うことです。
レンレン、レンマスです。

閲覧数:350

投稿日:2010/10/28 23:10:18

文字数:1,320文字

カテゴリ:小説

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