~Cry for the Moon~


(今年は来てくれるのかな?)

仲秋の月が日ごとに明るさを増してきた。そろそろ年に一度の月光浴。
私は『金鏡花』と呼ばれている花。『金鏡(きんきょう)』。空に浮かぶ金の
鏡・・・月のこと。私は年に一度月の明るい秋の夜に咲く。月の光をいっぱい
に浴びて咲く私が、そこに月が咲いているように見えるということから、月に
ちなんで『金鏡』と呼ばれている。
だた、私が花を開くのは、仲秋の月が明るい夜、ほんのひとときだけ。実際、
私のことを知る人はほとんどいない。この間、私の姿を目にした人がいたのは
いつのことだろう・ ・ ・ 。

でも、ここ何年か、私の姿を見にきてくれる人がいる。
初め、その人は道を作りながらとても弱々しく歩いてきた。
その日はとてもきれいな十五夜の月で、私は月の光をいっぱいに浴びて年に
一度の月光浴を楽しんでいた。

(道に迷った?)

疲れて不安な顔をして、月明かりの中をその人は歩いていた。
ここは山奥の小さな花畑。人の訪れることはまずない。

私が、歩いてくるその姿を見ていると、その人も私に気づいてこちらへやっ
てきた。私に吸い寄せられるかのように。
そして、とてもやさしい目で私を見つめる。それまで不安と疲れで一杯だっ
た顔に、すーっと安らぎが舞い降りた。

しばらく、私に見とれて、

「こんなきれいな花、初めてだな。月が落ちてるのかと思った。・・・道には
迷ったけど、こんな素敵な花に逢えるとはね。」

私はそよぐ風に揺られてその声を聞いていた。
その人はふと空を仰いだ・・・。その日は、月のとてもきれいな夜だった。
そしてまた私を見て、微笑みながら、

「よく似てるな。・・・月の花かな?」

「・・・。(私のこと知ってるのかな?)」

その人は私が月光浴を終えるまでずっとやさしい目で見つめていくれていた。

私が花を閉じる頃、その人は現実に引き戻された。

「さて・・・、頑張って帰り道を見つけないとな。」

そう、残してその人は去っていった。


翌年

その翌年も

その人はここへ来てくれた。

いままでそんな人はいなかった。

去年は私が花開く2,3日前から来て、ちょうどそのとき吹き荒れた嵐から
私を守ってくれた。本当は、何もしないでも大丈夫なのだけど、なにかとても
うれしかった。少し遅い、居待月の下で私は精一杯に咲いた。

そして今年 その人はやってきてくれた。月明かりの下で、その人は私を紙に
描いてくれた。私はとてもうれしかった。
私は月に向かってお願いをした。

(どうか、この人とお話させてください。・・・一言でいいから、お礼を言わ
せてください。)

Cry for the Moon..

子どもが『あの月が欲しい』とないものねだりをして泣きわめく。どこかの
国にそんな言葉があるけど。

(お願い・・・)

私は月に向かって、一心に祈り続けた。その人のやさしいまなざしを受けな
がら。 ・・・そして、

月が木に隠れる。

月光浴はもう終わり。 静かに花を閉じる。

月は私の願いを聞いてはくれなかった。当たり前だけど・・・ね。

東の空に薄明が始まる。その人は静かに立ち上がり、帰りの支度を始める。
そして、名残惜しそうにこちらを見、しばらくそうして、やがて、歩き始めた。

(帰ってしまう・・・。)

夜明け前の空に、少しだけ闇が舞い降りる。そんな時間。

(届いて・・・。)

その人に向かって念じた。
ほんの僅か、空気が動いた。

「いつも来てくれてありがとう。」

「・・・?」

その人は立ち止まり、不思議そうに辺りを見回す。沈みかけた月が木の葉の
間から私に、そっと蒼いスポットライトを当ててくれた。それを見とめ、彼は
微笑み、戻ってきた。

「来年も、また来るからな。」


・ ・ ・

月夜の晩には何かが起こる。今宵はとても素敵な青い月。

It’s once in a blue Moon!!


(『稀なこと』でなく、『奇跡』だけど・・・。)



~ E N D ~

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

Cry for the Moon

山奥にひっそりと咲く花の、恋?の物語。

小説家になろうにも転載しました。

閲覧数:58

投稿日:2016/03/14 00:00:26

文字数:1,817文字

カテゴリ:小説

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