「雨、止まないね」
 目の前に座っている彼がコーヒーを飲みながら、ふと窓の外を見た。
「だねー。でもちょうどいいとこにレストランがあってよかったね」
 確かに、と彼は笑い目線を店内の方へ戻した。私達が座っている窓際の席からは店中を一望できる。急な雨のせいか客が多く、店内は少し騒がしい。

「まぁ、目的は果たしたんだし早く雨が止んでくれればいいんだけど」
 彼はそう言って嬉しそうに紙袋を撫でる。その紙袋から覗くのは可愛らしくラッピングされた無傷なプレゼント。彼はずぶ濡れなのに一切濡れていないそれは、彼が必死に守ったことを意味する。
 ……彼の好きな人への気持ち。

「……だねー」
「今日はほんと有難う。ああいう可愛らしい店に、一人で入るのはちょっと勇気なくてさ」
「いいの、いいのこれくらい。だからさっさと告白しなさいよ」
「うっ……。努力する」
 彼の顔があからさまに赤くなる。彼のそういうとこが可愛くて私は大好きなんだ。

ただ、彼の好きな人は私ではない。彼にとって私はただの友人であって幼なじみ。それを知っているからこそ、私は何も言わずに彼の恋を応援している。今の関係を壊したくないし、何よりも彼が好意を寄せている子から彼が好きなんだ、と相談を受けていて……もう私に勝ち目なんてない。

――告白すべきは私なのに。
「雨、止まないね」
「うん、止まないな」
 できれば止まないで、彼ともう少し一緒にいたいの。
 そんな私の思いは言葉にできずに、降り続ける雨音と店内の騒がしさの中に溶けて消えていった。 









 ―臆病者の彼と私の恋愛事情―

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

臆病者の彼と私の恋愛事情

ツイッタ―より

騒がしいレストラン が舞台で『雨』が出てくる救いのない話を5ツイート以内で書いてみましょう。 http://shindanmaker.com/139886

閲覧数:51

投稿日:2012/08/24 18:54:10

文字数:685文字

カテゴリ:小説

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