開いた玄関の扉から、おずおずと少女が顔を出す。隙間を縫って屋内に入り込む風は強く、高く結われた緑のツインテールを揺らした。少女の瞳が門扉の左を、次いで右を確かめ、ようやく外へと一歩を踏み出した。
硬い紺色のブレザーに包まれた腕はぎこちなく前後し、これもまたやはり硬い革靴は歩むアスファルトの上で軋みを上げる。その音は大きく響くようで少女は小さな体を更に縮めたが、道行く人影も見当たらない早朝では聞く耳も見る目もない。狭い歩幅の忙しい足取りが繰り返し繰り返し立ち止まり、誰もいない後ろを振り返っては風に揺れるスカートの裾を何度も直す間を置いて再開した。
いつもなら曲がる道を真っ直ぐ、そこからは少女にとって迷路のような未知の世界が広がっている。道路を囲う塀の苔、屋根を飾り立てる色、果ては電線の通う道筋。次々移り変わる視界の中で知らない物が知る物へと変化していく事に少女は夢中になっていた。それこそ、昨日必死に覚えた迷路の攻略法を忘れてしまう程に。
首を廻らせる事にも疲れた少女が最期にもう一度辺りを見ると、知らない物は知らない物として動じなかった。迷路の地図に塀も家も当て嵌まらず、真新しい鞄の取っ手を握る手がじんわりと汗ばんでいく。
――"迷子"。
慌てて長いブレザーの袖裾を捲ると傷一つ無いガラスの下で時計は八時十五分を指していた。集合は八時三十分。少女の顔が見る見る不安に歪んでいく。辺りを見回しても誰もいない。元の道への出口もわからず途方に暮れる。前にも後ろにも一歩が踏み出せず、少女は道路の脇で小さな体を更に縮める。
瞼をきつく閉じかけたその時、少女の視界の端を深い紺色が過ぎった。慌てて顔を上げるとそれは少女と全く同じ物を身に付けた後ろ姿。桃色の髪が時折吹き込む強い風に煽られ、まるで少女を手招くようにして揺れている。随分ゆっくりとした足取りが一歩分だけ更に緩んで、その時、綺麗な白い横顔が自分を窺い見た事を少女は見逃さなかった。
地面に根を張っていた足が途端に軽く、弾かれたように少女は歩き出した。桃色の後姿はもう振り返らず、先程まで優雅だった足取りも今は軽やかだ。
歓迎のチャイムは、違う音色で聞き慣れた音階を奏でていた。
迷い路
某所投稿の掌編。
配役はネギトロイメージです。
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