「羽鉦さん…!羽鉦さん…!」
「大丈夫…もう大丈夫だから…。」
震えて泣きじゃくる木徒を抱き締めたまま宥めた。でも同時に、何かが引っ掛かっていた。何故詩羽が此処に…?そうだ、俺は元々スズミが此処に連れて来られたから…。
「詩羽…スズミは?」
「やっと思い出したか。ちゃんと居るよ、そこに。」
指差した先にはベッドで横たわるスズミが居た。無事な様子にホッと深い溜息が零れた。その溜息がどう言う意味かも深く考えず。
「あ…私…帰りますね…。」
「え?」
「ごめんなさい…羽鉦さんはスズミさん迎えに来たのにね。」
木徒は青い顔で力無く笑うとそのまま部屋を飛び出した。
「木徒?!」
「追うのか?あの子を。俺とスズミを此処に残して?」
「え…?…何…言って…?」
「お前があのゼブラ追うなら止めない、だけど追ったらスズミは守らせない。
逆にスズミを守りたいならここに残れ、あの子は俺が追う。」
「詩羽…?」
「お前に全ては守れない。今選べ。スズミか、木徒か、中途半端な事をしても両方は
決して守れない。なら、今此処でどちらかを切り捨てろ。」
心臓が跳ねた。何か言おうと思ったのに言葉は出なかった。選ぶ?切り捨てる?混乱してる筈なのにどこかで冷静な自分が居た。俺はどれだけ傲慢なんだろう。目の前の物全てを守れるつもりで居た。目の前で瑠璃を失ったのに、血に塗れて死ぬ所を騎士に助けられたのに、スズミの言葉が嬉しくて、愛しくて、一瞬騎士の事すら忘れて抱き締めたのに、木徒に付けられた盗聴器すら気付かなかったのに、弱いのは、守られているのは、俺なのに。俺が無力なら…両方は守れないなら…切り捨てろと言うなら…。
「木徒を追って…詩羽…。」
「スズミはお前を見ないぞ?お前がどれだけスズミを想っても、スズミは騎士だけを見る、
騎士だけを愛する、お前のものにはならない。それでも良いのか?」
「判ってる。」
詩羽はそれ以上何も言わなかった。すれ違い様に肩をポンと叩くとそのまま出て行った。
「…起きてるんだろう?スズミ。」
「……。」
「何で泣く?」
「…ごめんなさい…。」
「謝らなくて良い。迷わなくてもお前は騎士を見ていれば良い、愛して側に居て、
騎士の支えになってやれば良い、騎士もそれを望んでる。」
選ばれなくても、応えて貰えなくても構わない。ただ君が笑ってくれたらそれだけで良い。だからもう泣かないで、俺を気遣って自分を責めないで、役立たずじゃないとか、必要だとか、大丈夫だとか言わないで。何もかも判っていたのに、それでも君を愛した弱い俺を認めてくれなくて良いから。
「俺より騎士を助けてあげて。」
BeastSyndrome -28.それでも君を選ぶから-
どうか泣かないで
私が見たいのは
貴方の笑顔だけだから
※次ページはネタバレ用の為今は見ない事をオススメします。
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