目の前には、緩やかに山水を流す小川をまたぐコンクリートの橋が、二十メートルほど先まで伸びている。
そこを通り抜ければ、俺は目的地である興国核発射施設にたどり着くことが出来る。
目標は既に目前なのだ、が・・・。
「大佐。聞こえるか。」
『どうしました。』
「施設前の橋までたどり着いた。だが、橋の上に見張りが二人、更に向こう側のセキュリティーチェックに一人と警備が堅い。どうすればいい?」
『ふむ、そこは施設の目の前ですね。警備が堅いのは当たり前です。橋であれば、隠れる場所は・・・・・・一つあります。隠れながら移動することも出来ます。』
「何だって?」
隠れながら移動できるのか?
夜とはいえ、月明かりに照らされたこのコンクリートの橋を、どうしたら隠れながら通り抜けられるというのか。
『橋の上から降りて、端に掴まるのです。こうすれば、敵に気付かれることなく、向こう側へ渡ることが出来ます。貴方の筋力なら三十メートル程度、造作もないことでしょう。』
「なるほど・・・。」
『途中で限界がきたら、すぐに上に上がってください。手を離してしまうかも知れません。』
「分かった。」
『それともう一つ。』
「?」
『どうしてもという場合、ボルトガンを使いなさい。その銃は、電気を発射するので発砲音は大きくありません。離れていれば、大丈夫です。』
「使用許可か・・・分かった。」
『恐らく当たれば一撃で敵を気絶させられますが、念のため、急所である頭や胸を良く狙ってください。ちなみにそのボルトガンは、出力形式を切り替えることで接近武器になります。セレクターレバーで切り替えれば、銃口を押し付けることで相手を感電させ、気絶させることが出来ます。活用してください。そういえばタイトさん、貴方は右目に包帯を巻いているようでしたが、視界のほうは確保できていますか?』
「問題ない。」
『そうですか。それでは、今言ったことを上手く利用してください。乱射はいけませんよ?」
「了解。」
無線を止めると、俺は早速行動を開始した。
敵兵がこちらから視線をそらした隙に、静かに橋まで移動した。
そして、手すりを飛び越え、端に掴まった。
このまま音を立てず、向こう側まで移動する。
俺は静かに、かつ迅速に、橋の向こう側まで移動を開始した。
ある程度進んだ後、体を持ち上げ、橋の上の様子を確認した。
敵兵は十数メートル後ろだ。こちらには気付いていない。
俺は一気に体を持ち上げ、橋の上へと這い上がった。
残りの関門は、あのセキュリティーチェック。
椅子か何かに腰をおろした兵士は、雑誌か何かに見入っており、俺には気付いていない。
足音を立てず、静かにセキュリティーチェックに忍び寄る。
兵士は相変わらず雑誌を読みふけっている。
あと少しで、裏側に回りこめる・・・・・・。
「誰かいるのか?」
その声に、全身が凍りついた。
橋の上の兵士に自分の存在に気付かれた一瞬だ。
どうすればいい!
これしかないか・・・・・・。
俺は即座に行動を開始した。
「気のせいか・・・・・・。」
俺の存在を気のせいと判断した兵士が、俺に背を向けた。今だ。
「動くな。」
低く唸るような声を、ボルトガンの銃口と共に兵士の背に突きつけた。
「はッ・・・・・・ァ・・・・・・!」
余りにも予期し得なかった出来事に対し、兵士はただ両手を上げることしか出来なかった。
俺は兵士の背から、首に向けて両腕を巻きつけた。
「ぐっ・・・・・・かッ・・・・・・!」
敵兵は微かなうめき声を上げ、苦しみの余りにもがく。
抗うことは許さない。俺は何度も首を締め上げ、その末に、兵士は抵抗をやめ、その体は力なく垂れ下がった。
俺は兵士の体をその場に寝かせると、周囲を確認した。
よし・・・・・・今ここで起こったことは、まだ誰にも気付かれていない。
だが、時間が経てば仲間の一人がいなくなったことを残りの一人が気付き、行動を起こすだろう。その前にここを抜けるのだ。
セキュリティーチェックの兵士も、未だ雑誌から視線をそらそうとしない。
俺は、静かに裏口へと忍び込んだ。
無防備にもドアは開け放たれている。
軋む音さえ、物音を立てることは許されない。
足音も無く、何食わぬ顔で雑誌のゴシップ記事に見入っている兵士の三十センチ背後に、俺は踏み込んだ。
そして、出力形式を切り替えたボルトガンを、兵士の頭部へ押し当てた。
電撃が兵士の体を駆け巡ったその瞬間、兵士の体が硬直し、その手から雑誌が零れ落ちた。
銃口を離すと、その兵士もまた、床へと崩れ落ちた。
よし・・・・・・これで、ここを心起きなく通り抜けられる。
セキュリティーチェックを見回すと、いくつか役に立ちそうなものを見つけた。
壁に立てかけられた予備のFY-71。これは使えるかもしれない。
俺はそのFY-71をバックパックに入れた。
そのとき、兵士の座っていた椅子の受付窓のところに、小さく白い箱のようなものが目に入った。
手にとって見ると、それが何なのかやっと理解できた。
これは、煙草、とか言うものの箱だ。何本か入っている。ライターも。
火をつけて煙を吸うと、何か味がすると前に聞いたことがある。
煙を口にいれるのか・・・・・・。
無論抵抗感はある。しかし俺はいつの間にかその煙草をバックパックに入れていた。
そして、先程まで兵士が見入っていた雑誌。
グラビアアイドルの水着写真などが掲載されている。
・・・・・・・・・・・・使える。
俺は雑誌もバックパックに入れると、セキュリティーチェックを後にした。 そのとき、大佐からの無線が届いた。
『タイトさん有益なものとそうでないものを手に入れましたね。』
「?」
どこか口調がおかしい。
『まず、そのFY-71ですが、やはり使用しないほうがいいと思います。サプレッサーが着いていない状態なら、発砲音は大きいはず。そのまま射撃なんかしたら、すぐに敵が部隊単位で飛んできますよ。』
「・・・・・・。」
『それと、あの、その本は・・・・・・。』
「これか?」
大佐が言っているのはこの雑誌のことだ。
『何に使うんですか?まさかタイトさん、そういうものに興味が?』
「いや、そうじゃない。これは陽動に使えるんだ。」
『よ、陽動・・・ですか?』
「ああ。これを道端においておけば、兵士の注意を引きつけることが出来るかもしれないだろう?」
『なるほど・・・・・・考えましたね。』
どうやら納得してくれたようだ。
『で、タイトさん。最後に残った、それは必要ありません!』
「この、煙草か?」
『そうです!今すぐ帰してきなさい!』
「いや・・・なんとなく拾ってみただけなんだが。そんなに必要ないか?」
『必要ないどころか、むしろ悪影響です。いいですか、煙草というものは、ただ自分の健康を損ねるだけで、何もいいことはありません!』
「それは、人間の話だろう。」
『話を最後まで聞きなさい。それは肺に煙を吸い込むことで、肺をニコチンのタールだらけにしてしまうものです。最終的には、肺癌になってお陀仏ですよ!』
「だから、それは人間の・・・。」
『とにかく、絶対に吸ってはいけませんよ!』
「・・・・・・了解。俺も無理にとは思わん。」
無線を終えると、俺は通り抜けた橋を後にし、再び森の深くへと入っていった。
報告によれば、あと三百メートルも無い場所だ。
本当に目の前なのだ。
そこは、恐らく今までより遥かに強固な警備で固められ、侵入さえ困難だろう。
だが、俺はやらなければならない。
そこで任務を達成し、生きて生還する。絶対に
そして、また、君に・・・・・・。
キク・・・・・・。
時刻は九時を経過していた。
空挺部隊の突入まで、あと、二時間。
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