繁華街の一角にある店。所謂隠れ家的な店として根強いファンが絶えないバーだ。賑やかな外とは対照的に、落ち着きのある照明とBGMがゆったりした雰囲気を引き立たせている。カウンターに戻った所で丁度携帯に着信があった。

「すみません、ちょっと裏で電話して来ます。」
「いってらっしゃい。」
「もしもし?流船?」
「頼流、今何処?」
「何処って、バイト中。今日はバーの方だから遅くなるぞ?どうかしたのか?」
「いや、大丈夫なら良い。あ、今日友達の所泊まってく。」

どこか流船の声は上擦っていた。余所余所しいと言うか、白々しいというか、何かを誤魔化す様な気配がした。

「どうした?」
「え?」
「なめるな、お前がそう言う口調の時は絶対何かあるだろ。言ってみろ。」
「…今日家に帰らないで…。」
「え?」
「幾徒って奴の迎えがそっちに行くと思うから、そしたら言う通りに着いて来て。
 ちゃんと話すから、俺の事信じて…。」
「…流船。」
「…………………。」
「お前はちゃんと安全な場所に居るんだな?」
「うん…。」
「判った、店長に話しとく。後でちゃんと話すんだぞ?」
「うん…ありがとう…。」

少し弱々しい流船の声が心配ではあったが、一先ず電話を切った。家に帰るな?一体どう言う事だ?考えた所で見当も着かない。流船の言っていた迎えとやらを待った方が早いか…。

「ゼ~~ロ~~~?」

間延びした声が聞こえた。ふと見るとキョロキョロ辺りを見回しながら、女の子が歩いていた。正直この時間、この辺りは治安が悪い。女の子一人がフラフラしていれば直ぐ酔っ払った奴等に絡まれる。

「ゼロ~~~?ゼ~~ロ~~~?」
「あの…ここら辺女の子一人だと絡まれるから危ないですよ?酔っ払いとか変質者
 とか多いんで…。」
「え…じゃあ貴方変態…?」
「流石に初対面に変態と言われたくはないんですけど…。」
「一人じゃないわ、ゼロを探してるの。」
「猫か何かですか?さっきもダンボールとかゴミ箱とか見てたみたいですけど。」
「失礼ね、ゼロは私の双子の弟よ。」
「真っ当な人間は普通ダンボールやゴミ箱の中には居ないと思うんですけど。」
「…居るかも知れないじゃない。」
「電話すれば良いじゃないですか。」
「…ああ、そっか。」

何なんだこのピントボケた女は…バカ?天然?まともに関わると疲れそうな気が…。

「ねぇ。」
「はい?」
「充電切れちゃった。」
「………………………。」

どうしろと?貸せと?何を?携帯?充電器?金?いや、金は貸せないな。多分戻って来ないだろうし。

「充電器貸しましょうか?スタッフルームなら充電出来るかと…。」
「え?中入れと?…やっぱり変態?」

そろそろ怒って良いだろうか…。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

コトダマシ-16.…居るかも知れないじゃない-

だめだよ

閲覧数:69

投稿日:2010/10/16 13:23:47

文字数:1,144文字

カテゴリ:小説

クリップボードにコピーしました