「あれ?羽鉦さん早かっ…。」
「……………。」
「初めまして、紫陽香玖夜と申します。お見知り置きを。」
「へ?あ、はい!こ、こちらこそ…。」
「羽鉦、お前ロリコンだったのか。」
「お前にだけは言われたく無ぇよ。」

あれから香玖夜は帰れと言っても聞かなくて、放って置く訳にも行かないので結局ここに連れて来てしまった。来る途中ではジロジロと見られ、施設内ではスタッフにクスクス笑われ、挙句ロリコンにロリコンと言われる始末!妙なのに懐かれちゃったなぁ…。

「あの…。」
「何?」
「違ってたらごめんなさい!左手…怪我…してませんか?」
「え…?」

確かに左手は少し痛めていた、だけど手当てをする程でも無かったので放って置いた軽い打撲だった。

「…何で…?」
「私、昔から鼻が良くて、友達にはよく『犬~』なんて呼ばれてたんですけど、
 香水とかアロマとか作る人になりたくて…香りって結構侮れないんですよ?
 怪我したり、疲れてたり、あ、寝不足の時とか付けた香水の香りまで元の香りと
 変わっちゃったり…、あ…ご、ごめんなさい、一人でペラペラ喋っちゃって…。
 判らない…ですよね?こんな事。」
「いや…。」

そう言うと香玖夜はホッとした様に嬉しそうな笑みを零した。考えてみれば、16歳の女の子がいきなり結婚させられそうになって、家出して、人に追い掛けられて、気が張り詰めてない訳無かったんだろうな。そんな時助けられたんじゃあ、懐きたくもなるかも知れないな。

「…!羽鉦さん…?」
「よしよし…怖かったね…もう怖い人追いかけて来ないから、ね。」
「…うっ…!…ふぇ…っ!」
「よしよし、よしよし。」
「ふぇえええん……!えっ…うぇっ…!うぇえええええええ…!!」

立ち尽くしたまま香玖夜は小さな子供みたいに泣き出した。16歳なんて実際まだ子供みたいな物か。顔も目も真っ赤になる程泣きじゃくって、折角の綺麗な顔も台無しで、だけど何だか凄く真っ白で可愛らしかった。

「ま、しょーがない、かな。」
「…ふぇ…?」
「家の事と、桂木の事、何とかするから少しだけ待ってなさい、ね?」
「羽鉦さん…?」
「ほら、もう泣かない。君も落ち着けば頭も冷えて俺以外の奴に目が行…!」
「…子供の戯言だと思わないで下さい…一目惚れは直ぐに冷めるとか、気の迷いだとか、決めないで下さい…!」

あ…また…この瞳…。真っ直ぐでひたむきで…マズイ…この瞳…一度見たら逸らせない。

「ちょ…香玖夜ちゃ…っ…!痛っ…?!」
「女避けです。」

流石に女は下手に寄って来なさそうだけど。首に歯型…16歳のやる事じゃないっての。

「とんだ16歳だな…。」

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  • 非営利目的に限ります
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BeastSyndrome -57.牙を持たない獣-

ガブッ!(`・皿・)

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投稿日:2010/06/19 08:23:35

文字数:1,116文字

カテゴリ:小説

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