キーンコーンカーンコーン♪
いつものように学校のチャイムが私のいる教室に鳴り響く。
制服を着たサイドテールの女の子は次の授業の為にノートと教科書を準備していた。
しばらくして『バァン!』という音と共に入り口のドアが勢いよく開かれたかと思うと、覆面を被った男達が教室に入って来る。
クラスが武装したテロリスト集団に占拠されたのだ。
「動くな、抵抗しなければ手荒な真似はしない…。」
首謀者らしき男が荒々しくも落ち着いた声で生徒達に命令する。
こういう時は相手を刺激せず大人しくしておくのが無難なのだ。
彼女はそう考え、目立たないようになるべく体を縮こませ、寝ているようなフリをした。
そんな時である、唐突に誰かが私の名前を叫んだ。
「カノンちゃん戦って、みんなを守る為に、魔法少女になって戦ってよ!」
(ええっ!?)
驚いてカノンと呼ばれた少女は机に突っ伏した顔を上げる。
クラス中の期待の視線が私に注がれているのが分かった。
(みんな何を言ってるの…?私は普通の女の子だ、魔法の力なんてない。)
そして教壇を見ると、覆面の男が銃口をゆっくりとカノンの方へ向ける。
『それ以上先に進むな!行ってはならん、引き返せ。』
そんな声が聞こえたかと思うと、彼女は青ざめた表情で『ガタッ!』と席を立って教室から飛び出していた。
「なにあれ?天才の妹だって聞いたのに、大した事無いんだ…。」
必死に廊下を走っていると後ろの方からクラスメイト達の嗤っている声が響いてくる。
私は泣きべそをかきながら校門を通り闇の中を家へと逃げ帰った。
そして誰かを探すように、カノンは自分の部屋へ駆け込んでいく。
「A子ちゃん助けて!みんなが私の事いじめるの!!」
次の瞬間、その目に写った光景に私はゾッとした。
部屋の中ではメイド服の少女がタンスを漁っており、その手にはなにやら空色の服らしきものが握りしめられている。
そしてA子は、信じられないという顔でこちらを見つめつつ口を開いた。
「カノンさん、やっぱり貴女が『青いタイツの男』だったんですね…。」
視界が暗転し、私は額に嫌な汗をかきながら目が覚める。
「ハァ…ハァ。ゆ、夢か…。」
布団から起き上がり部屋を見渡すと、既にカーテンの向こうからは朝日が昇ろうとしているのが分かった。
そうだよ、高校時代にはまだA子は家にいない。
それに学園がテロリストに占拠された事もなかったハズだ。
カノンは朦朧とした意識の中で思わず耳を押さえる。
だけど…。
『天才の妹なのに、大した事ないんだ…。』
残響するその台詞を思い出して、彼女の目からは大粒の涙が零れた。
『ガタガタガタッ!』
突然勉強机の方から何かが暴れるような音が聞こえカノンはビックリして横を向く。
見ると机の引き出しが空いており、そこから何か目を光らした一本角の小さな人型が出てきた。
「ロボタ!?貴方何やってるの!」
名前を呼ばれて振り向いた機械人形は可愛く首を傾げてとぼけるような仕草をする。
「ガガ?」
私は試しにほっぺたをつねりこれが夢で無い事を確認した。
ロボタはピョンと引き出しから床へ飛び降りると、トコトコと歩いてカノンの方へやって来る。
そしておもむろに手に持っていた一輪の花を彼女に差し出した。
「これを…私に?」
それは薄いオレンジ色の綺麗な花だった。
「ガ!」
そう言って彼はカノンにプレゼントを押し付けると器用にドアを開けそそくさと部屋を出ていく。
バタンという扉が閉まる音を聞きながら、私は謎の花を手に持って呆然とベッドに腰かけていた。
それから半日余りが過ぎ、カノンは花瓶に生けたオレンジの花をまじまじと見つめている。
「一体なんの花なんだろう?」
そう思って写真を撮り、スマホの植物検索アプリを使って探してみたが、上手い事データが出てこない。
候補となる品種は幾つか提示されるが、それらはどれも目の前の不思議な花とは一致しなかった。
よく分からないが、きっとロボタは自分を元気づける為にわざわざこの花を探してきてくれたのだろう。
私の机の引き出しに空いた、あの異次元のゲートを超えて…。
「あれ?これはトキジクの花じゃないですか、本当にあったんですねぇ。」
カノンの部屋を訪れたA子が珍しそうに覗き込んでくる。
「トキジク?」
聞き慣れない名称に、私は彼女に聞き返した。
「虹の向こうの楽園に生えているという伝説の木の花ですよ。」
そう言って彼女はお腹のポケットから小さなノートを取り出す。
「その根元には竜が守る財宝があり、木には常世の実が成る…と、ここに書いてあります。」
A子が開いたページを見てみると、確かに花瓶に生けてあるのと同じ花のイラストが描かれていた。
それは姉の鼓リズムが以前彼女に託したという㊙ノートである。
「へー、おねぇちゃんこんなの描いてたんだ…。」
恐らくロボタも前に姉からこのノートを見せて貰って、その花の事を覚えていたのだろう。
「それじゃ私はこれから買い物に行ってくるので、カノンさんは留守番をお願いしますね。」
言うだけ言って、A子はさっさと部屋を出ていった。
「うん、気をつけてね。」
彼女を見送ると、私は机の上にノートPCを取り出して大学の研究課題に取り掛かる事にする。
「トキジクの実かぁ…。」
20分ほどが過ぎ、集中が途切れたカノンがそう呟いて花瓶に目をやると、
ふと下の方でインターホンが鳴るのが聞こえた。
『ピンポーン♪』
先日の面倒事が思い浮かび、出来れば応対に出たくないなぁ…と私は憂鬱な気分になる。
だが家にはカノン以外の人間はいないらしく呼び出し音が何度も鳴らされていた。
『ピンポーン、ピンポーン。』
仕方ないので意を決して彼女は一階に降りて玄関へ向かう。
「はいはーい!」
すると何度も鳴っていたインターホンがピタリと止んだ。
「開いてますよー。」
入り口のドアに向かって声を掛けるが誰かが入って来る気配はない。
たぶん待ちくたびれて帰ってしまったのだろう…とカノンは部屋に戻ろうと踵を返す、その時である。
『ガチャリ』
背後の方で扉を開く音がして何者かが入って来たらしかった。
すぐさま私が振り向くと、玄関には奇妙な姿の人物が静かに立っている。
それは全身を青色のタイツに身を包んだ、筋骨隆々の大男であった。
「⚪×△~~!!?」
声にならない叫びを上げながら彼女は鳥肌を立ててその場に硬直する。
「ガガガ!」
家の奥から出てきたロボタが動けないカノンを守るように前に出た。
「いつここに来るべきか、ずっと迷っていました…。」
男はそう言うと、ゆらりと身体を動かし少しずつ近づいてくる。
私は恐怖で固まりかけた体でどうにか数歩ほど後ずさった。
「だけど今日、ようやくその決心がついた。」
青いシルエットの彼は自身の心境を喋りながら丁寧にロボタの前へ跪く。
その様子はまさに感無量という感じで、胸に手を当てながら優しく澄んだ声で次の言葉を発した。
「初めまして父さん、貴方の息子です。」
つづく
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