―――――それは、拙者がヴォカロ町を去って半年ほどした時の事でござった。
「……む?」
町はずれに、見覚えのある女を見かけた。
金色の長髪、歌手風衣装、そして背負った大鉾。
「……リリィ殿?」
「ん? ……ん!? がくぽ? がくぽか!?」
「おお!! こんなところで会うとは、久しいでござるなリリィ殿!!」
「お前こそ!! なんか毒気抜けたみてえになってんぜ!!」
リリィ殿の言葉はあながち間違いでもなかっただろう。ヴォカロ町の面々と戦って以来、拙者の心は何か憑き物が落ちたように晴れ晴れとしていた。
一方のリリィ殿も、顔つきが優しくなっていた。
「大方、ヴォカロ町について彼奴らと戦い、温室で育った弱々しい奴等ではないことを確かめ、『マスターノート』を渡せたというところかな?」
「ぅおおぅ……すっげえな。正解だよ。さすが読みが深いな!!」
「ははは!! どうだリリィ殿、ここであったのも何かの縁、少し飲んで行かぬか。この近所にいい酒場があってな、日本酒も洋酒も様々置いてあるのだ」
「そいつあいいな!! 行くか!!」
『はははははははははははははははははは……………!!』
拙者らの話は弾んだ。
二人ともヴォカロ町に行き、ボーカロイド達と戦ったという共通点があったからか、誰の力が強かったとか、誰と話したら面白そうだったかとか、酒の力も手伝ってたっぷり5時間近く話し込んでいた。
そんな中で――――――――――
「そういやさ……がくぽ、この町で暴力団が大暴れしてんの知ってるか?」
「ふむ……? 暴力団でござるか? 拙者は数日前に来たばかりでござるから何とも……」
「そっか……なんでも『黒猫組』とかいう暴力団でな、一か月前ほどに突然現れて、一週間前ぐらいから急激にその数を増やして町を好き放題にし始めたんだ。中には複数の富豪が殺されたって噂もあってな……」
「それはまた物騒な……しかしいったいなぜ……?」
「それがわかりゃ苦労しねーよ……あ、マスターもう一杯ウォッカを」
カラン、と氷が音を立て、リリィ殿の目の前にグラスが置かれた瞬間―――――
『てめえら全員動くなあああああああ!!!!』
がさつな声とともに―――――酒場の扉が蹴破られた。
『なっ!!?』
入ってきたのは100人以上の黒服の男たち。全員が全員、銃や刃物などの得物を携帯済みだ。
「なっ、なんですかあなたたち!!警察を呼びますよ!!?」
マスターが咄嗟に伏せながら携帯電話を手にした瞬間―――――
「動くなと言ったろ―――――が!!!」
《――――――パァンっ!!》
―――――銃声と共に、マスターの頭が砕け散った。
『きゃああああああああああああっっ!!!』
『うわああああああああああああああ!!!』
他の客の悲鳴が響き渡る中で―――――リリィ殿だけは、目に怒りの炎が宿っていた。
当然―――――拙者も同じだ。
「……がくぽ」
「何でござるか、リリィ殿」
「……あたしは右を殺る。がくぽは……左を殺ってくれ!!」
「……承知っ!!!」
拙者が腰の楽刀に、リリィが背中の大鉾に手をかけた瞬間。
「そこの二人!!刃向うつもりなら今すぐ殺して―――――」
―――――叫んだ男は、その台詞を最後まで言うことはできなかった。
リリィ殿が瞬時に音波術『サウンドマッスル』を発動―――――驚異的跳躍力と驚異的な腕力で、男の頭を町の彼方に吹っ飛ばしたのだ。
主を失い、力なく頽れる胴体。そこで初めて仲間が気付く。彼は殺されたのだ―――――と。
『うわああああああああああああ!!?』
「叫んでる余裕があったら……あたし等をぶっ殺してみやがれ!!!さっきのマスターみて――になあああああああああああああ!!!!!?」
大鉾『鬼百合』を抜き払い、次々と黒服をうち砕いてゆく。
「怯むな!!!頭すいかにしてやれや!!!」
「その余裕は―――――無いと思えっ!!!」
周りからリリィ殿を銃で狙おうとする奴等を、次々と楽刀が切り裂いてゆく。
その時―――――
「これならどうだっ!!!?」
「なっ!!?」
声に反応して振り向くと―――――黒服の一人がバズーカを抱えていた。
「くっ!!!」
咄嗟に突っ込み切ろうとするが――――それよりも早く、リリィ殿に向かってバズーカが発射された!!
直後に首を飛ばせたが、弾はリリィ殿に向かって一直線だ!!
「リリィ殿!!バズーカがいくぞ―――――!!」
「!!」
咄嗟に振り向いたリリィ殿。鬼百合を地面に突き立てて―――――
「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
重低音の叫び声をあげる。地面が弾け飛んで、舞い上がった破片が壁を作り―――――
直後、爆炎がリリィ殿と、襲い掛かろうとしていた数人の黒服を包み込んだ。
「くっ……!!」
しばらくして、煙が晴れてゆく。
リリィ殿自身は無事だったが―――――その顔色は真っ青で冷や汗を垂らしていた。
見ると、ガードした鬼百合に亀裂が走っている。貫通後爆発を想定されるバズーカを、防ぎきることができなかったのだ。
(まずい……リリィ殿は鬼百合が使えないと本性の臆病が表に出てきてしまう!! ここはしばらく拙者が時間を稼ぐしか―――――)
そう思ったその時だ。
『うああああああああああああああああああ!!!!これっ……くらいで……負けるもんかああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』
顔面蒼白、目に涙をため、足もふらつくというのに―――――立ち上がり、向かってゆく!!
「『鬼百合の……葉吹』!!!!!」
裂帛の気合いとともに―――――その身を回転させて突っ込み、黒服どもを切り刻んでゆく。鬼百合の刃が軋むたびに、顔色が悪くなってゆくが、それを気にさせないほどの気迫で切り刻んでゆく。
目の前にいた黒服は全員蹴散らされた。あと数人―――――だがそこでリリィ殿はへたり込んでしまう。
「く……う……!」
もはや病人ではないかと疑うほどの顔色だ。あの状態で、20人近くを一撃で蹴散らしたのか……。
よく戦った、リリィ殿。お主も拙者同様、あの心優しき者たちがいる町で大切なことを学んできたのだな。
あとは―――――任せろ。
「楽舞剣術玖の太刀!!奥義!!『楽舞破皇斬』!!!!!」
怒り狂う黒き龍が、残兵を呑み込んだ。哀しい鳴き声を上げながら。
「おい」
全てが終わった後、唯一息のあった黒服の胸ぐらをつかんで、脅しかけた。
「貴様らの目的は何だ?」
「……金……だ……『黒猫組』の親方は……金を欲している……!!」
「なぜだ!?」
「……しらね……な……自分で聞いて……ミロ……」
そこまで言って、黒服は事切れた。
「……がくぽ。そいつ、なんだって?」
「……金だそうだ。そんなもののために……人を殺すか!!拙者とて同じ道を歩みかけた……だがこいつらはそれ以上の外道だ!!!」
リリィ殿も目を伏せる。拙者は立ち上がって、店の中へ入った。
マスターの亡骸を葬るため、その亡骸を抱えて外に出ると、リリィ殿も出発の準備をしていた。
「拙者はマスターをどこかに葬った後、『黒猫組』を追ってみようと思う。お主はどうする?」
「あたしは……すまねえ。あたしだってこいつらをボコボコにしてやりたいとこだが、鬼百合がこんな状態じゃ、とてもじゃないが戦えない……さっきだって、あいつらへの怒りでぎりぎり立ってられたようなもんだ。ヴォカロ町のネルに、こいつを直してもらいに行ってくるよ」
「そうか……」
「……あたしの分まで、頼んだぜ。がくぽ。……じゃあな」
「……ああ、さらばだ、リリィ殿。また会おう」
リリィ殿は駅に向かって、拙者はマスターを葬るために墓地に向かって歩き出した。
黒猫組が2313年5~7月の間に起こした事件は2000件を超えるが、6月から起きた事件すべてで、黒猫組の組員と戦い、時には太刀で相手を切り殺す紫の髪の男の姿が目撃されている。
八又町警察署では、黒猫組が壊滅した今でもこの男を重要参考人として身柄を確保するよう動いているという。
漢の正義、少女の勇気【蒼紅の卑怯戦士~ボーカロイド達の慰安旅行間の物語】
紫色の武士がくぽと怪力娘リリィのその後です。
こんにちはTurndogです。
ルカさんが悪之介にぶち切れし、カイトが卑怯の神髄を無駄に披露し、ロシアンがクロスケと馬鹿みたいな死闘を繰り広げる裏で暗躍していたがくぽ。
その理由は行きつけの酒場のマスターの死。
ルカさんたちの浄化の力凄すぎです。あのがくぽがこんないいやつに!
そしてリリィ。鬼百合を手放しただけで歩けなくなっていたリリィがこんなに強い子に!バカイトの癖に影響強いなww
因みにリリィはルカさんたちが町を離れた後ネルの店を訪ね、口止め料付きで修理を依頼したらしい。
そりゃやっぱ顔合わせにくいよねww
蒼紅の卑怯戦士はこちら
http://piapro.jp/t/M-rb
慰安旅行はこちら
http://piapro.jp/t/l41F
コメント1
関連動画0
ご意見・ご感想
しるる
その他
これはいいつなぎ、というか本編を知っているからなんだろうけどw
リリィちゃんはいい子
そして、弱気なのも好き←
やっぱ、グミちゃんとリリィちゃんが好きだなぁ
【ターンドッグは、ユリの花(5)を手に入れた】←花瓶付き
2013/06/18 22:06:20
Turndog~ターンドッグ~
そもそも本編関連以外の短編を出せる気がしない←
あれか、百合の花で4ポイント花瓶で1ポイントか!(花瓶低いな
2013/06/18 22:22:25