走る。走る。とにかく走る。

なぜだ。なぜおまえは行ってしまった。

吾輩の前から消えないでくれ。

吾輩の……俺のもとから消えないでくれ!!






急に、木々が開けた。吾輩は急ブレーキを変え、前を見た。

そこには、小さなさびれた神社があった。そしてその祠には、猫の形を模したご神体が安置されていた。

間違いない。ここが猫神神社だ。

吾輩は駆け寄り、声の限り叫んだ。


「神よ!! 猫の神よ!! 吾輩の名はロシアン!! 麓町の野良猫の長を務めるものだ!!」


吾輩は一息ついて、再び叫んだ。


「神よ!! 頼みがある……吾輩のことを、猫又にしてはくれぬか!! 吾輩は……猫又の流歌にふさわしき男になりたいのだ!!あ奴に釣り合う男になりたいのだ!! 去ってしまった流歌に……もう一度会いたいのだ!! そのためにも、猫又の体が必要なのだ!!」


しかし何も起こらない。神はいないのだろうか。それとも―――吾輩の身勝手な願いなど、叶える気にはならないのだろうか。

吾輩は再び叫ぶ。もう―――ここしか頼るところがないのだ!!


「頼む!!!神よ……!! この吾輩の―――俺の名でも体でも命でも何であろうと捧げる!!あいつに再び会うためならば―――この俺のすべてをささげる!!だから頼む……神よ…………!!!!!」


叫んで叫んで、叫んで―――――。

辛くて辛くて、辛くて―――――。

願って願って、願って―――――。


その時、奇蹟は起きた。



―――体でも命でも何でも捧げる。そういったな?―――



吾輩ははっとして、再びご神体を見た。

そこにあったのは、ご神体ではなかった―――――薄い金色の光に包まれた、九つの尾をもった巨大な猫の姿だった。


―――ロシアン……と申したか。貴様、己がどれほど身勝手で愚かな願いをしているか、分かっているのか?―――


吾輩はその圧力に押され、思わず後ずさった。


―――猫又とは、生まれ来る猫の中でも選ばれた者だけが、さらに様々な苦難を乗り越え、百年の時を一度たりとも心折れることなく生きることによって成り得ることのできる、この九尾猫の次に高位なる猫ぞ。貴様、まだ生まれいでて十年もしておらぬだろう。そんな若輩猫が、猫又になろうなど、文字どおり百年早いのだよ―――

「く……確かに身勝手なのはわかっている。だがしかし……!! 吾輩は……流歌のあのさびしそうな笑顔を……見てしまった……!! 本当は一緒にいたいのに、自分のプライドが許せなかった……その葛藤に、寂しさを感じていたんだ!! ルカをこれ以上……悲しませたくはないんだ!! 頼む!! 神よ!! 吾輩を―――――俺を猫又にしてくれ!!」


九尾猫はしばらく黙っていたが、やがて大きく身を乗り出して吾輩の眼を覗き込んだ。

どこか恐ろしかったが、吾輩は避けてはならぬと思い、逆に見つめ返した。

覗き込んでいた九尾猫は、再び体を戻すと、一つ息をついていった。


―――なんだ、普通猫かと思いきや、貴様も猫又の素質を持っているではないか……―――

「え……!?」

―――通常猫又の素質を持つ者は、己でその素質に気付けるはずなのだが……深い意識の底に眠っているのか……だとするとこ奴……まさかあの伝説の……?―――


九尾猫はぶつぶつとつぶやいていたが、くるりと振り返って話し出した。


―――いいだろう。貴様は特別に余の力を持って体内の猫又の力を覚醒させてやる。だがしかし、その代償として貴様にある呪をかける―――

 「の……呪?」

―――貴様は一生、死ぬことができない。初めはそれが心地よく感じるだろう。だがしかし、すぐに同じ時を生きる者がいない孤独さに打ちひしがれることになるだろう。そしてその呪は、貴様が追い求める雌猫又に出会い、番うまで決して解けることはない。その呪のもと、貴様の猫又の力、引き出して進ぜよう……―――

「おお……神よ……感謝する……!!」


突如、九尾猫の九本の尾がざわりと揺らいだ。


―――ではこれより、貴様の体内の猫又の力を表面に引きずり上げ、定着させる。行くぞ!!―――


九尾猫の九本の尾が伸びあがり、そして地を這って、吾輩の体を突き刺した!!


「ぐううおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

―――心配するな。この姿は意識体のようなものだ―――


しかしそれでも、身をずたずたに引き裂かれるような痛みが襲った。


―――痛むだろう。だが耐えよ!! それが貴様が、百年間かけて味わうはずだった、苦難の痛みよ!!―――


九本の尾が、どんどん体に滑り込み、そして何かをつかんだ。

その瞬間、吾輩の体を新たな焼け付くような痛みが襲った。


「がああああああああああああああああああああああっ!!!!!」


九本の尾を通して、碧い焔が噴き出した。そしてその焔が、吾輩の体を包み込み、そして再び入り込んで――――――――――






この時、九尾猫は尻尾でつかみ取った「力」を見て、こんなことを考えていた。


(―――「月光」の力……!! やはりこ奴の力、あの「碧焔」の猫又―――)


それが何を意味するのか。その時も今も、吾輩は、まだ何も知らなかった。





突如、吾輩の体から、光が発せられた。碧い光はやがて焔となり、そして強く弾けた。

吾輩は地面に降りたった。いつの間にか、九本の尾は抜き去られていた。

吾輩は自分の体を見てみた。

二本の尻尾。尻尾と足に絡みつく碧い焔。近くの水たまりに写して見た額には、三日月模様。そして碧眼。

間違いない。その体は、流歌と同じ猫又そのものであった。

九尾猫は静かに吾輩に話しかけた。


―――貴様は見事、猫又の力を手に入れた。同時に貴様は、決して死ぬことの出来ない呪を受けた。これから先貴様は、首を落とされようと頭をつぶされようと心の臓を貫かれようと、瞬く間に再生し死ぬことはできない。肝に銘じておけ―――


その言葉とともに、九尾猫はふっと掻き消えた。

吾輩はそのまま走りだした。





―――まったく。面白い奴だ。しかも確か、流歌は「山吹焔」の猫又だったな……。くくく……これからあの二頭の行く末が、見ものだな―――





軽い。軽い。体が軽い。

行きとは大違いだ。木々を駆け抜け飛び越え。これが流歌の見ていた世界か!

流歌のように飛べるだろうか。よし、飛んでみよう。

吾輩は焔を吹き出しながら、軽く地面を蹴った。

ふわり……と体が浮き上がり、吾輩は空へと飛びあがった。

まだ慣れずにくるりと一回転したが、なんとか空にとどまった。

見れば、今日は満月だった。月がいつよりも近い。


「ふふ……ふはは……ふははははははははっ!! 流歌!! どうだ!! 俺は猫又になったぞ!! お前にふさわしい男になったぞ!! 戻って来い!! 流歌!! ここにいるぞ!! 流歌!!」


狂喜のあまり叫んだ。だがその声は、闇に吸いこまれていった。

ふとむなしくなった。そして、何かを失った気がした。


「ウ……ウオ…………ウオオオオオオオ―――――――――――――――――ッ!!!!!」


一人叫んだ、猫又初めての夜だった。





「ほんとにいくんすか!? ロシアンの兄貴!!」

「もうその名で呼ぶなと言ったろう、クロスケ。吾輩は猫である。名前など必要ない。ロシアンなどという軟弱な猫は死んでここにはいないのだ。文句は受け付けん」


吾輩は生まれ育った町を離れ、旅に出ようとしていた。一番弟子の黒猫・クロスケを筆頭として、吾輩を慕う猫たちが、朝から引きとめようと躍起になっているのだ。


「だ……だけどどこに行ったかもわからないのに、流歌の姉御を探すなんて無茶じゃないですか!?」

「だからどうした。何のために吾輩が猫又になったと思う。あいつを追うためだぞ」


そうだ。無茶だとわかっていながら、吾輩はこの姿を選んだのだ。


「もうお前たちは、吾輩のことは忘れて、自分の猫生を全うしろ。いつまでも吾輩の幻影を追うでないぞ。では、さらばだ!!」

「ちょ、ちょっと待って兄貴、兄貴ぃ――――――――――!!!」


吾輩は軽やかに飛び立った。そして一気に加速して町を離れ、山を越えていった。



どこにいても見つけ出してやる。そして必ず、認めさせてやる。

吾輩がお前にふさわしい男であることを!!





   ☆         ☆         ☆         ☆         ☆


あれから300年……結局吾輩は、流歌に出会うことはなかった。

もちろんまだあ奴が死んでいると決まったわけではないが、世界各国を周って出会えないのだ、もしかするともうこの世にはいないのかもしれない。

だがしかし、吾輩はもう一人の「ルカ」に出会うことができた。

彼女のおかげで、吾輩は300年前に失った自分を取り戻せた。

不思議な縁だ。「流歌」によって失った自分を、「ルカ」によって取り戻すとはな。

おや、あれに見えるは……ふふっ、またルカがとっ捕まえた犯人を滅多打ちにしているのだな。どら、ちょっくら野次馬に行ってくるか。

諸君、また会おう。





そんな様子のロシアンを、地上から見つめる一つの影があった。


「ロシアン……本当に猫又になったのね……。しばらく観察させてもらうわ……あなたが私にふさわしいかどうか……」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

猫又ロシアンの過去~ロシアン、猫又になる~

ロシアン、猫又化-――――!!
こんにちはTurndogです。

惚れた女のために猫又になってしまうロシアン。
なんという一途な男でしょう。
でもあの親衛隊はいったい……ww

そして!!そう、この話はまだ続きがあるのです。
いやもちろんこれ自体はこれで完結ですよ?そのことについてはしるるさんが一番よく知ってるはず(他人任せか
碧焔、山吹焔、そして最後の影。
全ての謎が明かされるのはっ!?
……今書いてるのを含めて、マイページで4作あとかな?ww
最初に書いたころに比べだいぶ進んだなぁwww

閲覧数:93

投稿日:2013/06/17 23:41:46

文字数:3,951文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    その他

    これは旧コラボにあったやつの完全版ですねw
    クロスケは追加されました?前のにいましたっけ?

    個人的にクロ娘が好きww←身内ネタ

    ひねくれたしるるさんは、改訂版なだけに素直にポイントをあげたくない
    というか、ターンドッグさんには厳しい←ルカさんに言われたため
    でも、三話分なので……
    【ターンドッグは壊れた一人用冷蔵庫(2)、壊れた手回しラジオ(1)を手に入れた】

    ↑これは「dogとドッグ」の中でネルちゃんに直してもらった場合、二つともポイント五倍になりますww

    2013/06/18 00:14:24

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      そゆこと!
      クロスケはさっき付け加えましたwwあと前にゆうぼんコラボで柊希さんに注意された約物を正しました。

      壊れたwwww
      その冷蔵庫棚だよねどう見ても棚だよね!www
      しかもネルちゃんに直してもらったら変な機能付いてくるから5倍かなぁwwwどうだろう。
      改造されてなんか妙な機能がついてきた場合どうなるんですか?www

      2013/06/18 00:23:19

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