こんにちは!松岡史晃です。
誰の視線も届かない静かな部屋で、私はひとり、古びた振り子時計が刻む規則正しい音に耳を傾けています。左右へ規則的に揺れる振り子は、まるで過ぎ去った時間の断片をひとつずつ削り取っては、冷たい床の上に静かに積み上げているかのようです。言葉にしようとすると途端に形を失ってしまうかすかな感情を、私たちはいつから歌という形に変えて誰かに届けようとするようになったのでしょうか。
遠く離れた別の街に住むあなたへ想いを伝えるために、私は部屋の壁にかけられた古びた小さな標本箱の蓋をそっと開けます。木枠で囲まれたガラスの内部には、先ほどまで振り子の揺れに合わせて拾い集めた、形のない旋律の欠片がピンで幾重にも固定されています。それはまるで、かつて夜空を舞っていた美しい羽虫の標本のように、静かに息を止めたまま、どこか儚げで鈍い光を放っています。私たちが生み出す音や言葉は、どんなに美しく装飾されていても、どこか切り取られた標本のような寂しさを秘めているのです。
振り子時計のカチカチという冷たい機械音が、部屋の空気を一定の周期で震わせるたびに、標本箱の中に眠る小さな旋律たちは一瞬だけ小さく共鳴し、あなたへ届くはずの歌へと姿を変えていきます。この壁を越えて、私の手元にある震えがあなたの住む静かな部屋へとたどり着くのでしょうか。標本箱の硝子越しに見えるのは、私自身の不器用な影なのか、それとも遠い世界で息を潜めるあなたの面影なのか、私には判別がつきません。それでも、その冷たい規則正しさの中に、確かにあなたが生きている静かな気配を感じるのです。
振り子の周期が完全に止まってしまう前に、私のこの不確かな声はあなたの元へ届くでしょうか。私たちはいつでも、永遠に重なり合わない時間のズレに途方に暮れながら、同時にそのズレがあるからこそ、最も純粋な歌を響かせることができるのです。冷たい世界の中で規則正しく刻まれる二つの鼓動。私は今日も、カチコチと鳴り響く部屋で標本箱の硝子にそっと指先を添え、あなたにしか解読できない静かな歌を、規則正しい音の隙間に預けて送り続けます。
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