目の前が赤く見える。多分流れた血が目に入ったんだろう。全身の感覚がぼやけて何も判らなくなって来る。

「相楽博士!大変です!外に凄い数のBSが…!」
「うるさい!あんた達で何とかして頂戴!」
「な…何をしてるんですか?!そんな物で殴ったら…!彼は大事な献体ですよ!!」
「うるさい!うるさい!こんな奴殺してやるわ!あの小娘も…皆、皆、私を認めない
 奴等は死ねば良いのよ!」
「博士!…おい!誰か!誰か居ないか!!すぐ彼の治療を!」
「放しなさい!放せぇえ!」
「大丈夫ですか?!」

拘束衣が解かれても身体は直ぐには動かせなかった。だけど眠る訳には行かない…後少し…後少しだけ保ってくれ…!

「先生!無茶です!動かないで!」
「スズ…ミを…頼む…スズミを…。」

もう何時間経つだろうか、開け放ったドアから歌声が響いてる。

「助けないと…止めてやらないと…。」
「しっかり…!掴まって下さい!」
「邪魔をするな!!」
「うわっ?!…さ、相楽博士!!落ち着いて下さい!!」
「止め…ろ…!」

家を出るその日、日記帳の最後に一枚の写真を挟んだ。文化祭か何かの時の物で、俺と啓輔がバカみたいに笑ってる写真。苦しくて、悲しくて、どうしようもない気持ちを書き殴った。ただ『助けて』と。

「お前のせいだ…お前のせいだ!お前が死ねば良いんだぁ―――!!」
「…っ!!」

絶叫と同時にガラスが砕け散った。思わず瞑った目を開く。黒い髪…黒い翼…忘れる事の無い林檎の香り…。




「啓…輔…?」




震えて擦れる様な声をやっとの思いで搾り出した。

「相変わらず女で苦労してんのかよ…馬鹿騎士。」
「…啓…輔…!」
「おっと…!」

ふらついた身体を啓輔はしっかり抱き止めて支えると、そのまま肩を引き寄せて言った。

「啓輔…!」
「騎士…ごめ…ごめん騎士…!俺がお前助けてやんなきゃいけなかったのに…!」
「啓輔…啓輔…!」
「お前の事何も判ってなかった…苦しんでるのに助けてやれなかった…!」
「…啓…輔…スズミが…スズミが…!啓輔…スズミ助けて…!」
「判ってる、絶対助ける。約束したろ?林檎のお礼に俺が騎士を助けてやるって。」

そう言うと啓輔は笑った。あの頃と変わらない、優しい笑顔で。

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  • 非営利目的に限ります
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BeastSyndrome -107.林檎のお礼と小さな約束-

あの時からずっと大好き
林檎と君がずっと大好き

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投稿日:2010/07/10 04:32:32

文字数:949文字

カテゴリ:小説

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