「母さん、ねえ母さん」
子どもは、リンは楽しげに問うた。
「この森の奥には、何があるの?」
「とっても、楽しい場所よ」
にこやかに答える、緑の髪の長い、女。
「じゃ、じゃあ、お菓子もあるかな?大好きなお菓子も、い~っぱい食べられる?」
「ええ、今日は特別よ」
「ほんと!?わぁい!!!」
無邪気に喜ぶ娘を、どこか翳りを帯びた顔で見つめる父。
隣りを歩く彼に、息子である少年は問うてみた。
「父さん」
「!な、なんだい、レン?」
若干、というには余りある程、挙動不審な態度。それを見、少年は、
「この先に、神様はいる?」
――――問いを、変えた。
「さ、さあ・・・父さんには、分からないや」
『父さん。
どうしてそんなに、悲しそうに笑うの――?』
本当の質問は。
胸の奥に、仕舞い込んだ。
父と母が出かけると言い出したのは、今日の朝。
夜にしか行けない、”素敵なところ”へ行こうと。
けれど、レンは気付いていた。
父と母が、とても悲しそうな笑顔だったことに。
「さあ。着いたわ」
「?何もないよ~?」不思議そうなリンに、
「申し少し待てば、現われるわよ」と母は言い含める。
「レン!もうちょっとしたら、お菓子がたくさん食べられるんだって!!」
鼻歌交じりに告げる、双子の姉。
「そっか」としか答えられない。
父さんと母さんが、俺達をどうするのか、分からない。
でも。
これじゃ、まるで―――
「それじゃあ、私達は先に帰ってるわね」不意に告げる、父と母。
「え!?なんで~?一緒にお菓子食べようよ~」
ごねる姉を、
「子どもしか入れないところなの。おいしいミルクを用意して待ってるから、ね?」なだめる母の目は、なぜか涙に濡れているように見えた。
「それじゃあ、ね」
「ばいばい」
手を振り、見えなくなって行く二人。
その背にリンは「お土産持って帰るからね~!」と、笑顔で手を振り替えしていた。
レンは。
―――これじゃあまるで、ヘンゼルとグレーテルみたいじゃないか―――
そう、呟くことしか、出来なかった。
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