しゃなり　通り過ぎゆく　彼のひとはよもぎ色の帯
色めかし菖蒲の袖　翻すは百合のようで

縹の色無地を召し　闊歩するはいとうつくし
恋うことさへ赦されぬならば　ただ夢で逢へることを

願ふだけ、あなたへ　（あかつきのけしきを）
ご覧じ入れやう　（独り眺むること）
此程までにも　（思はざりし）
愛しあなたさま、嗚呼！

何時何時まで待てど　つゆ伝はらじはこの想い
気付かぬと云ふなら　あなた　愛で殺すことも　厭はぬ！

真白に霞みゆく姿　追ひかけて辿り着きしは
賽の河原　石積むやや　ゆゆしき其の影こそ我が姿

尸に掻き曇らん　（地に堕ちし天さへ）
腕は頽れ　（抱きいますがりしは）
掬ひたまひける　（あなたさまと）
ここに果てまいか、嗚呼！

指折り数えたる　日も千々に破ること易し
今震える指で　その襟に触れ涙はらはらと

何時何時まで待てど　つゆも実らじはこの想い
叶はぬと云ふなら　あなた　愛で殺すことも　厭はぬ！



（読み/現代仮名遣い）
しゃなり　とおりすぎゆく　あのひとはよもぎいろのおび
いろめかしあやめのそで　ひるがえすはゆりのようで

はなだのいろむじをめし　かっぽするはいとうつくし
こうことさえゆるされぬならば　ただゆめであえることを

ねがうだけ、あなたへ　（あかつきのけしきを）
ごらんじいれよう　（ひとりながむること）
これほどまでにも　（おもわざりし）
かなしあなたさま、ああ！

いついつまでまてど　つゆつたわらじはこのおもい
きづかぬというなら　あなた　めでころすことも　いとわぬ！

ましろにかすみゆくすがた　おいかけてたどりつきしは
さいのかわら　いしつむやや　ゆゆしきそのかげこそわがすがた

しにかきくもらん　（ちにおちしてんさえ）
かいなはくずおれ　（だきいますがりしは）
すくいたまいける　（あなたさまと）
ここにはてまいか、ああ！

ゆびおりかぞえたる　ひもちぢにやぶることやすし
いまふるえるゆびで　そのえりにふれなみだはらはらと

いついつまでまてど　つゆもみのらじはこのおもい
かなわぬというなら　あなた　めでころすことも　いとわぬ！



（意訳/文法はあまり厳密にしてません）
しゃなりと風流にも通り過ぎていったあの人はよもぎ色の帯を締めて
色っぽい菖蒲の描かれた袖を翻して歩く様は、さながら百合の花

縹色の色無地を着て闊歩するお姿は大層立派で御座います
恋することさえ赦されないのならば、ただ夢の中であなたに逢えることを願うだけです
（夜明けを独りで眺めるお姿など思い描かないで下さいまし）

ご覧に入れましょう、私がどれほどあなたを愛しているのか！

どれほど待ってもこの想いはちっとも伝わらない
気付かないと仰るなら、あなたを愛だけで殺すことも厭わない！

白い霞の中に消えゆく姿を追いかけ、辿り着いたのは賽の河原
石を積むあやしいやや子、その影こそが私の姿で御座いました

屍の一つでいとも容易く掻き曇る天下、力無き腕をとり私を救って下さったあなたさま、
（地に堕ちた天でさえその胸に抱いてしまわれるあなたさま、）
共にここで果てようか、嗚呼！

指折り数えた日も容易く破り捨てられる
震える指であなたの襟に触れたら、涙が零れてきました

どれほど待ってもこの願いはちっとも実らない
叶わないと仰るなら、あなたを愛だけで殺すことも厭わない！