#14「転生者」
_____
……
アツヤ「なぁ、お前だよな。ここの空間の主は」
目の前に1体、あまりにも巨大な鍵盤のバケモノ。たとえ強力な調律員でも1人で相手することは出来ないだろう。
アツヤ「かかってこいよ… こっちはお前を倒す策が出来てんだよ」
ここから先にこいつをいかせたら、ヤヨイが危ない。ここで仕留めなければ、二人とも生き残る術はない。
アツヤ「あの子を守る為なら… この体、くれてやる!!」
自分の人生を全て投げ打っても、守るべき理由があった。
___最後くらい、好きだって言ってやりたかったよ。___
リン「こんな所に隠し通路があったの!?」
ヤヨイ「男子達がよくイタズラで使ってた。でも見つけるのは簡単だからすぐ先生に見つかるようになっちゃってね」
この学校は全体通して、1階の床下はかなり空洞になっている。人が充分這って動けるくらいの
空間で、大ホールの舞台裏に出口がある。
ヤヨイ「ここ少し重いの。私じゃ開けられなくて」
レン「カナタ、二人がかりで押し上げるよ」
カナタ「上に何も乗っかってないね。いくよ」
舞台裏まで辿り着いた。ここはバケモノ達には見つかりにくいため偵察にはもってこいだ。
レン「さてさて、本命のデカいやつはどれかな…って、えぇ!?」
恐る恐る覗いてみると、実に理解し難い光景が広がっていた。
ミク「バケモノ同士が乱闘してる…?」
まず間違いなく1番デカい鍵盤のやつは確認出来た。しかし、なぜかそれより一回り小さいバケモノがそれと乱闘してる。
カナタ「どういうことだ… バケモノ同士で縄張り争いする事はないって資料に書いてあったぞ!?」
リン「本来汚染されたマジカルノートが中枢になってそれぞれのバケモノ達に指示を出してるはず。同士討ちさせるような指示は普通出さないよ」
ミク「まずマジカルノートの場所が分からないし、そもそもここはマジカルノートの浄化が間に合わなくて崩壊した場所だってシャンランさんが…」
今からマジカルノートの浄化は不可能。いかに迅速な浄化が必要とされているかを思い知らされる。
メロピィ「この辺りから人間の気配はしないね。アツヤ君無事だといいんだけど…」
すると、ミクがとんでもないことを言い出す。
ミク「ウダウダ言っても仕方ないよ。ここはいっそ、漁夫の利であのデカいの倒しちゃおう!」
一同「えっ!!?」
レン「つまり、あの一回り小さいのと共闘するって事!?」
カナタ「確かに、よくよく考えれば結構長い時間あのデカイのを足止めしてたんだ。消耗してる今なら倒せるはず」
リン「足止めしてる方も相当強いよ?デカい方倒してもアイツが残ったらちゃんと倒しきれるかな…」
不安は残ってしまうが、奴を倒したら生存率は一気に上がる。リンもレンも、薄々気づいてた。
レン「やるっきゃないよな… 小さい方に狙われたら俺が相手しておく。ミク、頼んだよ」
ミク「うん!」
カナタ(もしかしてシャンランさんは、この為に俺達を別行動にしたのか…?)
一行は舞台裏から飛び出した。夜になるまでに決着をつけなければ…
オルガン「グイィィィィィィィ!!!」
デカい方は恐らくオルガンに取り憑いたもので、それを止めていたのは狼の姿をしたバケモノだった。
ミク「やっぱりだ!!あの小さいのが足止めしてくれてたんだ!!」
リン「でもそんなことってありえるのかな… 普通なら2体揃って暴れ回るはずなのに…」
レン「とにかく、俺が陽動で行くからミクはデカいの1発ぶち込んで!!」
作戦開始。レンの持ち味はスピードと回避能力、初見の敵の動きも大体見切れる。
リン「召喚!チャリティキャット!!」
リンの召喚獣は敵の動きを鈍くする。ミクがダメージを与えやすいようにオルガンの方に魔法をかける。
ミク「アシストありがと!喰らえ、【オーバードライブL】!!」
戦闘経験が少ないミクの最大の強みは、膨大な歌唱エネルギーによる一撃の重さ。隙を見せた敵の急所に滑り込み、溜めていたエネルギーを解き放つ。
オルガン「ギエエエエエエエエ!!!」
ミク「よし、あと数発キメたら倒せるかも!!」
ヤヨイ「無事かな、アツヤ君」
カナタ「だめだ、見つからねぇ。人の気配も周りに感じない。」
ステージ裏に避難しつつ、カナタは周辺の音を聴き分ける。本人曰く、目で探すより耳で探す方が早いらしい。
カナタ「アツヤ君ってどんな人なんだ?」
ヤヨイ「実は、お兄さん達みたいに調律員なんです。はぐれる前は小さい連中は倒してくれてて… 私が無事なのもアツヤ君のおかげなんです」
カナタ「なるほどね。だから大ホールのバケモノを自分で倒すために……… ん?」
一瞬ステージの方を見て固まる。ミク達の戦闘を見ていてずっと不思議に思っていた事だった。
カナタ「なんで気づかなかったんだ…まさか、アツヤ君ってあいつなんじゃないか!!?」
オルガンを最初に足止めしていた狼のバケモノ。よくよく思い出してみたら、ミク達に1度も襲いかかってない。
もしも彼が音憑きの転生者だとして、自我を保っていられるのか?強い精神力を保って自分の意思で動けるのか?
つまり、「ヤヨイを守りたい」という覚悟を抱いて自分の体を捨てたのだ。
カナタ「皆、その狼は味方だ!!!一旦デカいの倒せ!!!」
カナタは1度大ホールのステージのよく見える場所に移動し、伝言する。
レン「ちょっと待てよ!!それって…」
リン「どっちにしたって作戦に変わりは無いんだ、このまま続けるよ!!」
2人のサポートのお陰でミクの最高火力を叩き込む。
ミク「あと一撃!!」
しかし、吹き飛ばされた鍵盤のバケモノの視界に別の人物が入り込んだ。
レン「ちょっと待てよ、そっちは…!!」
狙われたのはヤヨイだった。吹き飛ばしすぎて3人とも追いつかない。ヤヨイと同じ場所にいたカナタは近くにあったアンプを手に取るも、投げるのにも間に合わない。
ミク「ヤヨイちゃん!!!!」
気がつくと、オルガンのバケモノが倒れていた。
とどめを刺したのは、狼のバケモノ…
つまり、アツヤだった。ヤヨイを守る本能とでも言うべきか、ヤヨイを見つけた時から回り込んでいたのだ。
倒した後も、狼のバケモノは襲って来なかった。ヤヨイの所に歩み寄る。
ヤヨイ「アツヤ君、ごめんね… こんな体になってまで私の事守ってくれてたんだね… グスッ」
全てを知ったヤヨイは足元に抱きつき泣き崩れた。壊れた音を纏った異形の姿に怯えながら、それでも彼の優しい面影を感じる。
ミク「アツヤ君が自分から音憑きになって、この狼に…?」
リン「それより、アツヤ君酷い怪我だよ!回復してあげなきゃ…」
リンが治療道具を取り出していると、アツヤの音憑きが急に走り出した。
ヤヨイ「ちょっと、どうしたの!?」
ミク「そっちには何も無いよ、どうするの!?」
最初にミク達がこの空間に連れ込まれた時から、ありとあらゆる手段を使っても破る事が出来なかった校舎の障壁。
彼は全身全霊を込めて窓枠に飛び込む。激しいノイズ音と衝撃音を鳴らしながら、障壁を突き破った。
音憑き「グルルルルルオオオオオオオ!!!」
あまりの衝撃にミク達は何が起きたか分からなかった。次に目を開けた時には、そこにアツヤはいなかった。
ヤヨイ「どういうこと…?アツヤは、どこいったの…!!?」
みんなを閉じ込めていた障壁に、大穴が空いた。
ミク「…行こう。アツヤ君が命懸けて君にヤヨイちゃんを守ってくれた事、無駄にしちゃいけない」
ミクも、涙をこらえられなかった。それでも前に進まなければいけない…
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