時が、止まった気がした。

 目を閉じたミクを抱き上げると、力の抜けた身体がだらりとカイトに寄りかかる。全く動くことは無く、腕の中で、象牙のようなミクの肌から徐々に熱が失われてゆくのをカイトは感じた。
 死んでしまった?まさか。
 致死量には達していないはず。そうカイトは思ったが、しかし毒は毒。少ない量でも体質によっては死んでしまうこともあり得るのではないか。
 腕の中でぴくりとも動かないミクの姿に世界が色を失ってゆく。酷い喪失感がカイトを襲った。
 記憶の中のミクの姿が目の前に浮かんでは去ってゆく。
光の中無邪気に笑う姿が、悪戯がばれてしゅんとしている姿が、不思議そうに首をかしげている姿が、眠そうにしている姿が、泣きじゃくる姿が、怒っている姿が。
先ほどの、花開くような美しい笑顔が。
消えてしまわないように、記憶の中のミクにカイトは手を伸ばした。しかし、それは儚くも崩れ落ちてゆく。
失ってから思い出した。
失うのはこれで二度目なのに。なんて愚かな。とカイトは嘲笑を口の端に上らせたが、それは慟哭となる。
本当はミクの傍にいたいくせに。絡まる鎖に囚われたままでいたかったくせに。
慟哭が、響く。
「ミク、、、っ。」
カイトの頬に涙が伝う。

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鳥篭と蔦9~カンタレラ~

閲覧数:609

投稿日:2009/06/15 20:07:15

文字数:528文字

カテゴリ:小説

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