「今日も頑張ってね」
しいちゃんに言葉をかけるのは、植木鉢に植えられたどこにでもある一輪のお花。初めて話しかけてきた日から幾日、お花は毎日しいちゃんにねぎらいの言葉をかけてくれます。
「しいちゃん大好きよ。今日も頑張ってね...」
初めのころは、花が喋るなんて...と不思議に思い病院に行ってみたりもしました。
―『花が喋るって?それは病気だよしいちゃん』
病院の先生は、しいちゃんの話を聞くやいなやそう言いました。
―『お薬出すから飲もうね、しいちゃん』
お医者さんから出されたお薬は全て飲みましたが、それでもお花は変わらずしいちゃんに喋りかけてきます。
「私...しいちゃんが本当に好き。私がずっと側に居るからね」
今日もお花は変わらずしいちゃんに喋りかけてきます。しいちゃんはいつも自分を気遣ってくれるお花のことを少しずつ、少しずつですが、大切に思い始めていました。
「私、しいちゃんが頑張ってること知ってるもの。大丈夫、私はずっと側に居るよ」
つらかったこと、悲しかったことを思い出したしいちゃんは、お花の言葉につい涙をこぼしてしまいました。
励ましてくれる人が居なかったしいちゃんにとって、お花の言葉はとても嬉しく、温かいものでした。
「どうしたの、しいちゃん。どうして泣いているの?大丈夫...大丈夫よ、しいちゃん」
お花の優しくいたわるような言葉に、しいちゃんは、もっと泣き出してしまいました。
そんなある日、病院からしいちゃんに連絡がありました。
前回の受診からずいぶんと経っているから、もう一度診察するために病院へ来てほしい、というものでした。
しいちゃんはもう病院へ行くつもりはありませんでしたが、聞かないフリをするのも悪いと思い、渋々ながらもう一度病院へ行くことにしました。
病院へ行くと、前と同じ先生がしいちゃんを待っていました。
「花の声は聞こえなくなったかい?」
優しい声音で問いかける先生に、しいちゃんは首を横に振って答えました。
すると先生は難しそうな顔をして、
「お薬が効かなかったんだね。大丈夫、今度は違うお薬を出すからね」と言いました。
しいちゃんはそれを聞き、再び首を横に振りました。
先生はさっきよりずっと難しそうな顔をして、しいちゃんの顔をまじまじと見ます。
「しいちゃん、花は喋ったりしないよ。」
しいちゃんは再び首を振りました。
「花の声が聞こえるなら、それは病気だよ、しいちゃん」
しいちゃんはなおも首を横に振ります。
―『しいちゃん大好きよ。大丈夫、ずっと側に居るからね』
お花の言葉がしいちゃんの脳裏をよぎりました。
その瞬間、しいちゃんは訳も分からないまま、またもや泣き出してしまいました。
「...大丈夫、病気は必ず治るよ、しいちゃん」
違う、違うんだ、そうじゃないんだ...
「病気は治るよ、しいちゃん。必ず治るよ...」
おわり
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