揺れる街。回る傘。
花はとうに草臥れて、雨が降る午後六時、
僕は日暮れから逃げている。
もしいつか君に会えたとして、
僕は君を笑えないよ。
だって、あんまりにも涙が零れていくから。
遍く情景に身を委ね、いつか忘れてしまっても、
僕は君を思い出す。花を眺むみたいにさ、ただ。
夜がさんざっぱらに追い詰めた心の隅っこの小さな灯。
それに縋って生きている僕も、大概しょうがないよな。
とりあえず今のところは、
僕の負けってことでいいから。
揺れる影、笑う顔。
傘もとうに草臥れて夜が来た。
花明かり、君が僕の道標。
路地の奥、貸本屋、彼は一つ指を立て、
「探すなら、追うこと」と僕に本を差し出した。
──『恋しいなら、さよならの合図くらいしなよ』
文字の羅列ですら遠く。
「あんまりだよ」
涙も滲んでしまうくらい
流れる文脈に身を委ね、今更君を知りたがっても、
雨音に零れた何かを取り戻せるわけでもないのに。
めくるめく生涯のひとひらをこの目で読んだところでさ、今に頼ってしまうよ。
君はどうだい? まだ向こうかな。
とりあえず今のところは、
僕の負けってことでいいけど。
笑えないよな。笑えないよな。笑えないよな。
咲えないな。
雨よ止んで、雨よ止んで!
君をどうか助けて。
晴れを呼んで、晴れを呼んで!
君よ、まだ死なないで。
思い出しか、思い出しか、
思い出すしか、もうないから。
遍く傷心の落涙を今更押しつけはしないけど、
命の代償の数を見誤った君は罪だよ。
いつか春爛漫の幻も、落ちて、消えて、目が覚めるから、
その前に一つくらいは僕の文句も聞いておくれよ。
遍く情景に身を委ね、いつか忘れてしまっても、
僕は君を思い出す。雨に打たれようがただ、ただ。
いつかさんざっぱらに散る花にまだ縋って生きているけど、
「それじゃ夏は来ないよ?」なんて、君も大概ずるい人だ。
桜雨。春、終わっていく。
日向が見つかるそれまで、
しょうがないからそれまでは、
君の勝ちってことでいいから。
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