一方、神波と雅彦は大学の敷地内のカフェテリアに来ていた。先行する雅彦がカフェテリアの中で人の少ない区画を選んでいる。二人の前にはカフェテリアでコーヒーとつまめるお菓子がおいてあった。
「それじゃ、話をしようか。準備はいい?」
「はい」
そういうと、雅彦はポケットから何かの装置を出す。しばらくすると発光を始めた。
「それは?」
「盗聴や盗撮なんかのクラッキングを防ぐための装置だよ。ここから見ると、何も変わったようには見えないけど、周りから僕たちが何をしているかを分かりずらくするための装置さ。少し離れて僕を見てごらん」
そう雅彦からいわれて、少し離れて雅彦の方をみる神波。雅彦の姿がぼやけているように見える。確かにこれなら、何をしているかを突き止めるのはある程度の困難がつきまとうのは想像できた。
「…凄いですね」
「神波君が離れた時、僕が神波君に話しかけたけど、聞こえなかっただろう?」
「はい、何か言われたこと自体気がつきませんでした。安田教授の唇が動いていたようには見えませんでした」
「その気になれば、この程度の妨害は突破できるけど、実際に突破しようとする動きがあった場合、こちらで分かるから対処は可能だし。…それじゃ、話の本題に入ろうか」
「…レポッシュPさんの話を聞いて、僕がレポッシュPさんと同じことをされた場合に、大丈夫かどうか自信がないんです」
そういわれ、しばらく考える雅彦。
「…レポッシュPさんの場合、高野君からのまた聞きの情報から考えると、結構意地になってしまう所があるように感じられたから、それで余計に傷ついたのかもしれない。もう少し柔軟に対処できればよかったと思っているんだ」
「柔軟に…、ですか?」
「そうだね。自分を通しながら、相手の意見を尊重できるようにできると良いかな。要は落としどころをどうするか、という話になる。これは経験しないと難しいだろうね」
その雅彦の言葉に、顔を曇らせる神波。
「…ただ、神波君には、すでに経験者がいるから、頼ることはできると思うよ」
「レポッシュPさん…、ですか?」
「それと高野君だね。二人の助けを借りて考えていけばよいと思う。最後は神波君自身の判断になるだろうけど。そうやって考えて行動して、その結果を次の行動を考える。その繰り返しになるかな」
「…安田教授もそうだったんですか?」
「ああ、僕自身の経験や、色々な人の話を聞いて考えたけど、万能な解はないと思っている。そうなるとその都度考えないといけない。僕の場合、ミクたちに飛び火しないようにしないといけないから、そこまで考えないといけない。結構難しいよ」
笑いながら雅彦がいう。
(…安田教授も苦労されたのかな)
「…大変は大変だね。試行錯誤するのは嫌いじゃないよ。ミクたちに新しい技術を組み込んでアップグレードするのと似ているかな。それに、何より僕にはミクがいたからね。色々と支えてもらってるし、ミクのために頑張ろう、と思うことも多いよ」
神波が考えていたことが表情に出たのか、先回りしてこたえる雅彦。
「…安田教授にとって、ミクさんはどんな存在ですか?」
「僕にとってはミクは天使だね。僕が初めてミクのライブを見てから、ずっとそうだったよ。それは今でも変わらないかな」
「恋人ではないんですか?」
意外そうな神波。
「…ミクが天使というのは、僕がミクに対して初めて抱いた印象なんだよ。確かにその後で恋人になったし、さらにその後で家族にもなっている。この二つも、ミクが僕にとってミクが僕にとって天使であることと同じ位大事だと思っている。どれか一つを選ぶのは難しいけど、期間の長さならミクが僕の天使である期間が一番長くなるね。神波君みたいに聞かれることが多いから、そうやってこたえているよ。確かに、結構意外とはいわれるんだ。だけど、ミクが天使だっていう人は、ミクが出てきた時から結構いたらしいけどね、初めてそう感じたからこそ、僕はミクや、他のボーカロイドのみんな、そしてミクを含めたボーカロイドを好きなみんなが好きな全ての人を守りたいと思っている。…完全に理想論だけど、今の所その想いはある程度は実現できているかな」
記憶をたどりながら雅彦が言う。
「守る…、ですか?」
「うん、ただ、僕がやっていることは僕が生まれる前からやられていたことを引き継いでいるだけだよ。色々と調べていると、そうやってミクたち、そしてミクたちで創作をする人たち、いや、もっと広く言えばミクたちを知っている全ての人たちの想いがなんとなくだけど分かるんだよ。…確かに、"守る"なんて大層なことをいうと、何様のつもりだと怒る人もいるかもしれないけどね」
笑いながら雅彦が言う。雅彦もまた、何らかの境地にたどりような着いた表情をしていた。
「…そういえば、神波君にとって、君のミクはどんな存在だい?」
話題を変えた雅彦からの問いかけに、考える神波。
「…僕にとっては、天使ではないですが、大切な存在だと思います。レポッシュPさんからもミクを大切にするのが僕の責務だといわれました」
「確かに、彼女を大切にするのはマスターである神波君の責務だろうね。…だけど、そこまで難しく考えない方が良いと思う。二人で支えあって、必要なら他の人の助けも借りていけばいいさ」
そういって微笑む雅彦。その笑顔に引き込まれそうになる神波。
「…それより、聞きたいことはないかい?」
「…えっと、沢山あります。一応絞ったつもりなんですが…」
申し訳なさそうにいう神波。
「…その様子だと絞った後でも沢山ありそうだね。それなら、質問内容を一覧にして出してくれたら、ここでこたえられる話はこたえるし、そうでなければ、後日、僕から回答を送るよ」
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