施設に着いた時辺りはもう真っ暗になっていた。あの後『用事がある』と帰ってしまった菖蒲翡翠の代わりに冰音リヌを送り届けていたら予定より随分遅くなった。少し疲れたけど、まぁ面白い物が見れたし良いか…。
「お帰りなさいませ、あの…社長がお見えです。」
「詩羽が?」
「はい、あの…実は…。」
「スズミ連れて?!…何処行ったかは…?」
「西棟のエレベーターに向かっていましたので羽鉦様の部屋かと。」
「判った、有難う。」
俺の部屋にスズミ連れて…?又何か妙な事でもするつもりなんじゃ…。兎に角行ってみるか。足早に部屋に向かった。双子の兄である詩羽は度を越した悪戯を平気でやる。そして尻拭いはいつも俺だ。何だか頭痛がして来る。部屋に入ったが詩羽らしい人影は無い…と、バスルームから微かに水音が聞こえた。
「詩羽?風呂入っ…おい!何やってる?!」
「ああ、今終わった所。」
「ふざけるな!どけ!」
血の気が引いた。湯を張った風呂に人を押さえ込んでいたら誰だって驚く。詩羽を引き剥がし慌ててその人を湯から引き摺り出す。
「え?!き、木徒?!…おい…!大丈夫か!!しっかりしろ!!木徒!!」
「息してないね。」
「してないねじゃねぇだろ!!」
「ホラ怒る前にどいて。」
詩羽はぐったりとした木徒を抱えるとそのまま人工呼吸を施した。何度か繰り返した時木徒の指がピクリと動いた。
「…うっ…ゴボッ!げほっ!げほっ…!!うえぇっ…!ハァッ…ハァッ…。」
「大丈夫か?!」
「…やっ…!いやああああっ!!殺さないで!!殺さないで!!殺さないで!!ごめんなさい…
ごめんなさい、ごめんなさい!!」
「落ち着け木徒!!俺だ!!」
「ヒッ…!!」
木徒は真っ青になってガタガタと震えていた。歯がガチガチと音を立てる程に。濡れるのも構わずずぶ濡れの木徒を抱き締める。震えた木徒は痛い程腕を掴んでいた。
「どう言うつもりだ詩羽!!木徒を殺す気か!!」
「まさか、俺が欲しかったのはコレだけ。」
手には木徒がしていたヘアピンがあった。頭にカッと血が上り平手で詩羽の頬を殴った。ふざけるにしたって幾ら何でもやり過ぎだ。ヘアピン如きで…。詩羽は溜息を吐いて口を開いた。
「その子、お前の一存で引き取ったんだろう?ならこんな物を付けたまま施設を
うろうろと野放しにするな。」
「あ?何だ?」
「よく見ろ、そのピンの裏だ。」
「裏…?」
「【MEM】の最新型盗聴器だ。体温を感知して動くタイプのな。湯船の中で全部
ぶっ壊したから溺死したとでも思ってくれると助かるんだが。」
「それにしたってやり過ぎだ!!他の方法は幾らでも…!!」
「これに懲りたら…もう悪さはしないだろ?なぁ、ゼブラちゃん。」
「ヒィッ…!!」
「詩羽!!」
歯痒かった。そしてどうしようも無く悔しかった。盗聴器なんて夢にも思わなかった自分に腹が立った。悔しくて、情けなくて、目の前の震える木徒をぎゅっと抱き締めた。
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門音
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おおっ?!…兎に角無事で良かった^^;
どうやらウチの子たちは大変な目に会うのが多いようですね~(自分の小説でも過去に凄い目にあってる子が何人も←まあ私のせいなんですが
でも救ってくださってるのと同じだからOKですw
2010/06/05 18:23:27
安酉鵺
さり気無く唇奪っちゃってますけどね…w(ボソ
2010/06/06 00:24:41