キャプテンのカイトは、センターサークルの中に入り、ボールに足をかけた。
キックオフの笛を待つ。
「ピーッ!」
主審の笛で、カイトはボールを足で軽く操り、メイコの足下に転がした。
今彼らがいるのは、サッカーの日本大会の決勝戦の延長戦。男女混合チーム同士の戦いである。
かなり何でもありな試合になるのは目に見えている。
実際、今フィールドに出ているメンバーは、普段は全員揃わないような最強メンツだ。
一位通過でも二位通過でも海外大会に進めることは進めるのだが、有利度が違う。
そのため、カイトやメイコのいるボカロチーム『VCLD』も、敵対する亜種チーム『YATB』も、相手を倒そうと必死だった。
ちなみに、VCLDもYATBも「全てのスポーツをまんべんなく」のスポーツクラブなので、サッカー以外の競技にも出場してたりする。
しかし、控えがたくさんいるYATBに比べてメンバーがそもそも少ないVCLDは不利だ。
その少ないメンバーでサッカーも野球も、いろいろなスポーツの大会で成果をあげているのだからさすがである。
そしてVCLDが優勝を狙っているのには、もう一つの理由が。
「この大会で優勝したら、スポンサーがつく……?」
「そうだ。今まで無くて困っていたお金が、入ってくる」
マスターと呼ばれている、監督のその一言で、みんなはガッツポーズをし、本気で練習を始めた。
そして今に至るわけである。
「めーちゃん、パス!パス!」
声を張り上げたのは、フォワードのレン。足の速さには定評があり、笛が吹かれた瞬間、前に飛び出していた。
メイコがロングキックでレンに浮き球のパスを出す。
それをレンは綺麗なトラップで足下に抑え、瞬時にルックアップ。
しかしドリブルで上がろうとしたときに、敵三人に取り囲まれ、小さく舌打ちする。
「レン!」
声をかけたのは、同じくフォワードのリン。
さすが双子、息ぴったりのパスを見せる。
が、シュートまではいかなかった。
「させないぜ」
リントが読めたようににやっと笑い、リンからボールを奪う。
リントはリンのドッペルゲンガーのような存在の、亜種チームのディフェンス。
「帯人!」
綺麗にパスを通し、帯人にボールが渡る。
でもその隙を与えないのはグミだ。
カイトに似ている顔が二人。帯人とカゲイトはどちらもミッドフィルダー。
それを、カイトに似ていると言って躊躇したりしないのがグミだけだからだ。
「ざーんねーん!」
さらりとボールを奪い、帯人に対する嫌がらせのようにカイトにウィンクし、かと思えばノールックでメイコに横パスを出す。
ちなみに帯人はカイトのことが好きでわざわざカイトと同じミッドフィルダーになったぐらいである、あっさりと逆上する。
「お前っ!」
グミに体当たり。
それをグミはあっさりとかわし、審判に手を振った。
「ファール!てか私怨でファールってさ……」
「ノーカウントだ!」
審判は笛を吹かない。でも帯人にファールという意識を充分植え付けたようだった。
メイコが、ゴールががら空きなのを見て、ロングシュートを放つ。メイコのロングシュートは精度がいいので評判だ。
右の角に吸い込まれそうになったボールは、しかし亜種チームキーパーで、キャプテンであるハクの手によってはじかれた。
「……痛いじゃないの」
ゆったりとそれだけ呟くと、落下してきたボールを足でミートさせ、ディフェンスだけど上がっていたカイコまでぶっ飛ばす。
「ハクちゃんありがとう!」
カイコが、カイトと同じ軽い動きで、ボールを操り、フォワードの位置まで一気にあがる。
カイコはカイトのドッペルゲンガーのようなものである。
「ルカっ!」
メイコが叫びながらそっちに走ると、ルカはもうすでにカイコの前に回り込んでいた。
徐々にサイドライン際に押し込んで行き、背後からメイコにボールを奪わせる。
「……巨乳集団」
レンがぼそりと呟くと、リンに思いっきり頭を殴られた。
「いってえっ!」
「どうせ……どうせ、胸無いもん!レンのばかあああああああ」
「リン!パス出すよ!」
メイコからイアに渡ったボールは、空いたスペースに蹴り込まれた。リンが瞬時に頭を切り替え、スペースにダッシュ。
しかしなかなかシュートには行かない。
「ヘイヘイヘイリンこっちこっち!」
ディフェンダーのミクオが足を伸ばした瞬間レンがコールし、ボールをつなぐ。
ミクオはボカロチームのマネージャー、ミクのドッペルゲンガー。
「レン!」
「リン!」
お互いに名前を呼んだ瞬間にパス。
それを読んでいたかのようにメイトがレンの前に回る。
メイトはメイコのドッペルゲンガー。
「がくこ!」
がくこはボカロチームキーパー、がくぽのドッペルゲンガー。
メイトががくこめがけてボールを蹴ると、がくこは綺麗な紫色のポニーテールを揺らしてボールに走って行った。
「ブロスちゃん、行くよー」
ブロスとはブラックロックシューターの省略である。
ブロスの左目が少し青く光る。
「了解した」
ブロスはボールをもらうと、とんでもない早さでペナルティエリアまで駆け上がった。
誰も追いつけないことを知っている、ど真ん中突っ切り。
レンと並ぶ俊足のリリィですら追いつけない。
ブロスの左目が燃え上がるように青くなった。
「決める」
素早く、無駄のない予備動作で右足を振り抜く。
ゴール寸前ですとんと落ちたボールは、しかしがくぽの足によってはじかれた。
「それぐらいは、読める」
そのボールを力強く蹴り、中盤のカイトへ。
カイトは自由自在にボールを操り、流れるように前へ進んで行く。
両チームの中で、一番ドリブルが得意なのがカイトだ。
「カイト兄さんっ!」
「帯人働け!」
帯人がカイトに向かって突進していく。
抱きつこうとした帯人を軽く手で振り払い、厳しいネロのマークをかわしたところで、ミクオに阻まれる。
「奪うよー。カゲイト!」
ミクと似たような、少しおっとりした話し声。
カイトはぎょっとして、すぐにボールを追った。
しかしカゲイトからボールを奪えないのがカイトの難点である。
「グミ!」
「はいはーい。そんぐらい読めますよー」
カゲイトがボールに触れた瞬間、グミはするりとボールを奪った。
しかし帯人とネロとがくこの三人に囲まれ、舌打ちする。
「一旦戻す!」
ディフェンダーのピコにボールを送ると、ピコは眠そうな顔を上げ、ワンタッチでネロをかわすと、勇真にボールを回した。
勇真が即座にイアにパスを出す。
「ナイスパス!」
イアがカイトにボールを回すと、即座にリンはミクオの前に回った。
カイトの弱点はミクオとカゲイトである。その二人を押さえておけばほとんど大丈夫だ。
しかしそこで、カゲイトが倒れてしまう。
「カゲイ……」
「カイトさん、いただきますよ?」
カイコがあっさりとカイトからボールを奪い、前線のネルまで一気に送る。
「さんきゅ、カイコ」
がくぽが飛び出したとき、ネルはそのままゴールにボールを叩き込んだ。
審判の笛が鳴る。
「YATB、ゴール!延長戦前半終了!」
ボカロチームの面々が小さくため息をついた。
「ミクちゃん、そんな座り方しちゃダメだよ~」
みんなが戦っている裏で、レンカはミクに笑いかけた。
レンカはレンのドッペルゲンガーであり、亜種チームのマネージャーだ。
「……レンカうるさい」
「えぇ、なんで。酷いなぁ」
「レンカは可愛いからいいじゃない……」
柔らかい亜麻色の髪やアクア色の綺麗な目はレンそっくり。
……そう。レンの女装したときの姿によく似ているのがレンカである。
「ミクちゃん可愛いじゃない」
「レンカのが可愛いじゃん……」
「そう?ありがと」
えへへ、と照れたように笑う姿も女っぽい。
ミクは落ち込んでため息をついた。
「あら……決まっちゃってる」
「あれれ。がくぽさん大丈夫かしら?」
レンカはがくぽのことを気に入っている。
喜ぶ素振りを少しも見せず、レンカは首を傾げた。
「多分……ネルは、強いから」
ミクとネルは子供時代からの知り合いだ。
「そか。ネルが強いだけか」
「うん」
ミクとレンカは笑い合って、立ち上がった。
「じゃ、励ましに行こうか」
「そうだね」
休憩時間が終わり、延長戦が再開する。
「選手交代!14番、カゲイト選手がシテヤンヨ選手に代わります!」
「「「「「「「「「「「ええええええええええええええ!?」」」」」」」」」」」
ボカロチームの驚きも無理はない。
登場したのはシテヤンヨ。
人体を改造されたらしく、基本、胴体は足である。その時点ですでに意味がわからない。
「人間じゃないやんけ……」
メイコの呟きも最もだ。
しかし、カゲイトの代わりということは、相当強いのだろう。
カゲイトは病弱だがカイトと並ぶ中盤戦での実力者だ。
「ハンドしなさそうだし」
「確かに」
リンとレンが頷いた。
そのまま試合は動き続け、しかしどちらも一点も入れられずに苦しい戦いが続いていた。予想通り、シテヤンヨが強かったのもある。
……いや、むしろ、シテヤンヨの姿にびっくりしてボールを放す選手が多かったのである。
ボカロチームが焦り始める。
「金が!」
勇真の一言が一番みんなの内心を的確に表していた。
「ラスト、一分」
ルカが冷静に宣言する。
「賭けるか?」
「賭けよう」
「だって海外大会には進めるし」
「金に賭けよう」
「負けても平気だし」
「うん」
「最後だ」
「一点入れるよ」
「本気出すぜ」
キーパーキックになったときに、みんなはがくぽの周りに集まり、小声で一言ずつ交わした。
その間、三秒。
「「「「「「「「「「「絶対勝つぞ!!!!!」」」」」」」」」」」
全員で同時に叫ぶと、がくぽは前にボールを飛ばした。
その瞬間、勇真とピコを残して全員がハーフラインより亜種チームの陣地に入る。
今まで守り重視の陣形だった為か、亜種チームが僅かに動揺する。
その隙をついて、綺麗にルカががくぽのボールを受け、リリィに回す。
「ナイス、ルカ!」
リリィが、ど真ん中を突っ切る。ブロスと同じように。
ブロスは慌てて止めに入ったが、遠すぎた。
「シュート!」
リリィが放ったボールは、ハクの手によってはじかれ、ネロに渡った。
メイコとルカが下がろうとしたとき。
「下がんな!」
ピコが対応するように走っていたシテヤンヨと帯人をカバーし、勇真がネロに突撃する。
斜め前からの綺麗なスライディングで意表をつき、ネロのボールを奪うと、ピコが全力疾走でフリースペースに走り込み、勇真のボールを受ける。
かなり危険な賭けだが、ボカロチームは見事に成功させた。
ピコが放ったボールは綺麗な弧を描いて、レンの足元に収まる。
「……外してたまるかあああああっ!」
力ずくで、レンはゴールにボールを押し込んだ。
ハクはボールに触れたが、その勢いに負け、自分ごとゴールラインを割ってしまう。
その瞬間、審判の笛が鳴った。
「VCLD、ゴール!延長戦終了、1対1!これよりPK戦に入ります!」
ボカロチームは肩を抱き合って喜び、亜種チームは深いため息をついた。
「マスター、どうします?配列」
「うーん……とりあえず、キーパーがくぽな」
がくぽが黙って頷いたとき、レンカがふらりと現れた。
「がくぽさん、お疲れ様です~あ、飲み物いります?あとこれ」
細々と、レンカががくぽの身の回りの世話を焼いていく。
がくぽは何も疑問に思う余地がなかったらしい、普通に世話を焼いてもらっていた。
「……さ、考えよう」
マスターがあきれたように呟く。
ちなみに、レンカは向こうチームの面倒はまだ見ていなかったらしく、ミクが慌ててフォローに走っていた。
「絶対外したくないのはメイコとレンとリンだな。あとは微妙だが……ハクはかなりの技術者だから、力押しをレン以外に入れた方がいいよな。となると、イアか?あともう一人……バランス的にはグミか勇馬だな。どっちがいい?」
勇馬は首を横に振った。
「最近は、グミの方が精度がいいから……」
「え。ハクさんは精度関係なさそうだけど」
「いや。ハクの弱点があったはず」
ああ、とメイコが頷いた。
「確か、右下」
グミが小さく頷いた。
「それだったらあたしの方がいいのかな」
「うん。グミ、がんば」
マスターがふうん、と頷く。
「じゃあ、順番は~……メイコを最後に入れるとして……イア、最初に吹っ飛ばせ。次がリンで、レンで、グミ、メイコだ。よし」
そして笛がなり、がくぽとキッカーの五人はフィールドに出て行った。
ボカロ対亜種!サッカー大会<前編>
長かった。とにかく長かった。
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