これから殺されると言うのに少女は恐れる風も無く、むしろ喜んでいるようにも見えた。その表情に女はかるく眉を上げた。と、女の背後に立っていた青年が息をのんだ。
「君は、、、。」
覆面姿の青年の姿に少女は微かに首をかしげる。が、すぐに合点が言ったようにああ、と苦笑した。
「青き死神。とはあなたの事でしたか、カイト。」
覆面なんかしていたら、折角の色男が台無しですよ。そう茶化すように少女は言う。その言葉を受けてか、青年は覆面を取り、ばさり、と足元に投げ捨てた。
「私が、こんなものをつけてまで他国の反乱に手を貸したのは、リンを殺すためだ。」
そう怒気をはらんだ声で青年は少女を睨みつける。
「レン、リンは何処へ行った。」
青年の問いかけに、少女は喉でくつくつと笑った。
「リンは私の事。何を言っているんですか?」
くつくつと笑う、少女にしかし青年は頭を振った。
「違う。お前はレンだ。そうだろう?」
「どういうことだ。」
そう女が問いかけると、青年は違うんだ。と苦々しげに言った。
「こいつは、レンはリンの、女王の双子の弟だ。リンが逃げる為にレンと入れ替わったのだろう。」
青年の言葉に、女は鋭い眼差しを目の前の少女に向けた。
少女は、女の眼差しをやっぱり強い瞳で受け止めた。その眼差しの強さを女は知っていた。
命を懸けてでも、護りたいものがある者の瞳だ。
「本当に、貴方は悪の娘ではない?」
「いいえ。私が悪の娘。」
女の言葉に少女は当たり前のように答える。その言葉に、青年がふざけるな。と声を荒げた。
「私は、、、俺は、ミクの仇を討つために此処まで来たんだ。彼女を殺すよう命じたのはリン。彼女の国まで滅ぼしたのは、リン。この国の王だ。」
そう吐き捨てるように言う青年に、少女は、ああ。と低い声で呟いた。
「あの娘を殺したのは、僕だよ。」
僕が殺したんだ。そう念を押すように少女は言った。
「リンは、あの娘を助ける道もちゃんと示した。でも、娘を殺す道を選んだのは、僕だ。」
だから、リンは、悪くない。
そう少女は静かに言う。その言葉に、青年が何故、と呟き崩れ落ちるように座り込んだ。
そんな青年に少女は一瞬、揺らいだ視線を投げてから、女に向き直った。女を見据えるその眼差しはしかし、もう揺らいではいなかった。
「悪の娘は、僕だ。リンは酷いことはなにもしていない。民が苦しんでいるのを見てみぬふりをし、王に、リンに何も伝えなかったのは、僕だ。リンの笑顔を護るために僕はなんでもやったから。、、、僕には殺される理由が山とある。」
そう言って少女はにっこりと笑った。
その姿に、女は切っ先を少女に向けたまま、深いため息をついた。
この国は既に傾いていた。愚かな王が続き、民は圧制に苦しんでいた。いつ壊れてしまっても、可笑しくは無かった。
そう、この子でなくても良かったのだ。
しかし悪の娘は死ななくてはならない。
憎しみは、血を求めている。
「今、ここで首を落とす?」
そう問いかけてきた少女に女は頭を振った。
「いいえ。処刑は民衆の前で。貴方の最後は晒さなくては、だれも納得しない。」
女の言葉に、少女はそうだよね、と頷いた。
そして、最後の砦である王宮は解放軍の手により、制圧された。
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