「ミク、聞こえますか」
「ルカ、どうしたの」
「狂音獣が現れました。メグミさんの捜索はいったん中断して、狂音獣の方へ向かってください」
「わかったわ。とりあえず場所を教えて」
「場所は……」
 カナデンジャーの秘密基地、『オクトパス』から初音ミク達に指示を出した巡音ルカは、部屋の中にいる咲音メイコと雅音カイト、弱音ハクの方に向き直った。
「ハクさん、ご覧のとおり、狂音獣が現れました。今の状況では、メグミさんの捜索は後回しにせざる負えません。ここは、貴方がガクトさんと会ってください」
 ルカの指示にハクは首を振った。
「無理よ。いまさらどんな顔してガクトに会えって言うのよ!」
「今は、そんな事を言っている場合じゃない」
 メイコは強い口調でハクを叱咤する。そして、メイコはハクに向き直った。
「ガクトも同じよ。貴方を一人にしていた事を後悔しているかもしれない。だったら、貴方が会ってあげるべきよ」
「……」
「頼む。今、ガクトと話ができるのは、君しかいないんだ」
 カイトからも懇願され、断れなくなったハクは、
「わかったわ」
 と言って、すぐに広間から出ていった。
「…………」
「少し、強引だったけど、こうするしかないのよね」
 メイコは迷いを振り切るように言い聞かせた。


「メイコ、やっと来てくれたのね」
 ミクはメイコ達の到着を待ちくたびれたかのように、迎えた。
「敵はどこ?」
「あれよ。シスター・シャドウは『マッド・ギミック』って言ってたけど」
 ミクが指差した方には、両手がマジックハンド、目がスコープ、あとは人型ロボットのような容姿の狂音獣だった。
「一気にたたきましょう。こちらとしても、あまり時間をかけてはいられません」
 ルカはすぐさま、左腕に付けられたメロチェンジャーに手を伸ばした。
「速攻なら任せて!」
 レンはダガーを構え、狂音獣が炒る方向に目をやった。
「レン、先制攻撃で狂音獣からザツオンを遠ざけて下さい。メイコとミクはマッド・キャッチャーを集中攻撃。後の3人は援護に回ります」
「わかったよ。ルカ姉」
 リンはすぐさま拳銃を出して構えた。
「よろしいかしら。コード・チェンジ!!」
 ルカの掛け声で、全員が変身する。
「さあ、行くわよ!!」
 メイコとミクは、すぐに敵に向かって走り始めた。


「なんでこんな時に」
 メグミは遠くにあるビルの屋上でカナデンジャーと狂音獣の戦いを見ていた。
 仇討をしなければならない2人がやってきて、意気が上がっていたところに、狂音獣が現れたのだ。
「何で邪魔が入るのよ」
 メグミとしても、狂音獣と協力してまでカナデンジャーを倒そうとは思ってはいない。しかし、カナデンジャーと協力して狂音獣を排除しようとも思わない。
「もう一度、戦略を練り直した方がいいかしら……」
 メロチェンジャーに手を伸ばしかけたが、そのままその場から去っていった。


「ミク姉、危ない!!」
 リンは銃でミクの死角から放たれたザツオンの攻撃を排除する。
「増えろ、ザツオン」
 シスター・シャドウが声を出すと、ザツオンが次々と分裂し、マッド・ギミックを守るようにメイコとミクに近づいていった。
「きりがないわね……」
 メイコも剣でザツオンを排除するが、あまり数が減っているようには見えなかった。マッド・ギミックはその腕を伸ばして、突然、メイコの腕を大きなアームでつかんだ。
「しまった!」
 ザツオンに気を取られていたメイコは、アームを振りほどこうとしたが、突然、そこから電流が流れ始めた。
「メイコ!」
 ミクは拳に力をためると、マッド・ギミックの腕を破壊しようとするが、今度はシスター・シャドウの鞭がミクの腕に絡みつく。
「私を忘れてもらっては困るのよ」
「……放せこの!」
 威勢が良かったのはそこまでだった。ミクの体に強烈な電流が流れ始めた。
「どこまで耐えられるかな?」
「う……」
 次第に体に力が入らなくなり、ミクは倒れそうになる。
「そうはさせません!」
 ルカが2人の間に割って入り、鉄扇でシスター・シャドウの鞭を切断した。その直後、ルカの体が後ろからアームにつかまれた。
「ルカ!」
「ルカ姉!」
 リンの放った弾丸と、カイトが放った矢がマッド・ギミックの腕を切断する。体が自由になったルカは返す刃でメイコをつかんでいたアームを切断する。
「助かったわ、ルカ」
 メイコがマッド・ギミックから目を離した、その一瞬だった。
 マッド・ギミックの胸部からアームが伸び、今度はその先端がドリルとなってメイコの右腕を貫いた。完全に不意を突かれたメイコは叫び声を上げることもできなかった。
「……メイコ」
 レンがブレイブ・ロッドで腕をアームを切り落としたが、メイコはそのまま変身が解除されて倒れてしまった。
「そんな、こいつまさか!」
「驚いたか! やれ、マッド・ギミック!!」
 シスター・シャドウの合図と同時に今度は胸や脚からアームが伸び、その先端には銃やドリル、剣が姿を見せていた。
 周辺からはザツオンが集結しつつあった。
「メイコ、しっかり!」
「う……体が、しびれて……」
「……メイコがこの状態じゃ……ルカ、撤退しよう」
 カイトはすぐさまメイコを背負い、ルカに進言する。
「わかりました。不本意ではありますが、いったん撤退しましょう」
 ルカはすぐさま合図を出すと、全員が一目散に逃げ出した。
「カイト、ごめん」
 メイコの声にカイトはわざと気がつかないふりをした。


「…………こんな形で、会うとは思わなかった」
 ハクはカイトに教えられた病院を訪れていた。屋上には幸い、誰もおらず、ハクはガクトと2人きりになっていた。
「ガクト……はっきり言って。私の事、恨んでるでしょ?」
 車いすに座ったままのガクトにハクは自嘲気味に聞いた。
「そんなことはない。私の事は仕方がなかった。4人が一緒に心中するならば、私一人が犠牲になればよかった」
「馬鹿よ」
「ハク?」
「貴方は、どうして1人で死のうと思ったの……」
 ハクの顔を直視したガクトは、何も言えなくなった。
「私を一人にしないと言ってくれたのは、貴方じゃなかったの!」
 批難とも、哀願ともとれる言葉がガクトの胸を刺した。暫く、2人は黙ったまま、梅雨明け前の、ひどく湿っぽい風に吹かれていた。
「……メグミさん、またあなたのところに来るかしら?」
「…………来たら、必ず連絡しよう」
 ガクトはそう言って、その場を去ろうとした。
「その必要はないわ」
 ガクトの目の前にいたのは、メグミ本人だった。


「メイコ、大丈夫か?」
 いつも傷の手当てをするハクがいないため、ミクとカイトが手当てをしていた。戻ってきた当初は傷の痛みに耐えきれずに声をあげていたが、薬が効いてきたのか、やがてメイコは眠りに落ちた。
「カイトさん、よろしいですか?」
 傷の手当てが終わった後で、ルカが部屋にやってきた。その後ろにはリンとレンもいる。
「ガクトさんとメグミさんの事を教えていただけませんか?」
「わかった。神威兄妹の事を話をしておこう」
 カイトは4人を前にして過去の戦いを話し始めた。 
「ガクトは、あの戦いの時に両親を騒音獣に殺され、その復讐のために俺たちに加わってくれた。始めのうちは一人で無理をしたりして、なかなかチームとして戦う事が難しかったんだけどね。でも、ガクトにとっても、唯一の肉親である妹のメグミを守ってやりたいという気持ちも強かったと思う。当然、俺達にはその事を表だって口にすることはなかったんだがな」
 カイトはふと、メイコの様子を覗いていた。まだ薬が効いているのか、眠り続けていた。
「メイコがやきもち焼いて、ハクとガクトが一緒にいる時にイライラしてたのは覚えてるけどね」
「そうだったんだ。見てみたかったな」
 ミクは意外だといった表情でメイコの姿を見た。
「そんなことがあったんだ」
 リンは少し笑みを浮かべていた。レンも同じ思いなのか、少し笑ったような表情を見せる。
「まあ、あの頃はみんな若かったし、それに、戦いだけの青春だったからな」
「じゃあ、カイトはどうだったの?」
 レンから素朴な疑問が提示される。
「え、そ、それは……秘密だ」
 普段はめったに見せない、焦った表情を浮かべたカイトに、ミクとリンがかみついた。
「ずるい」
「メイコと何かあったんじゃないの?」
 ミクとリンが口々に不満を述べる。
「ほら、その、あれだ」
 そんな事を言っていると、突然、アラームが鳴り響いた。横になっていたメイコもその音に驚いたのか、体を起こした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

光響戦隊カナデンジャー Song-16 アヴェンジャー・メグミ Aパート

お待たせしました。カナデンジャー16話です。
引き続き、Bパートをアップします。

閲覧数:91

投稿日:2014/03/22 09:16:11

文字数:3,557文字

カテゴリ:小説

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