暑い。
いやもう、他の言葉が思い付かないくらい暑い。
どうも太陽は、六月くらいからウォーミングアップを始めていたのが梅雨という休憩期間を経て本気出し始めたらしい。
やめてくださいおねがいします。
「あつい」
「…」
「死ぬぅ」
「…」
「ふぅ…太陽の馬鹿、夏の馬鹿、レンの馬鹿」
「何でだよ!?」
理不尽な呻きについ全力で振り返る。風の圧力でべたりと髪が頬とか首筋にひっつく感触がものすごーく欝陶しい。
振り返った先では、リンが扇風機の前に陣取って髪を靡かせているところだった。
「…空が青いのも夏がこんな暑いのもクーラーが壊れたのも、もう全部レンのせいじゃない?」
「激しく不当な罪状には断固抗議する所存であります。つかクーラーはミク姉のせいじゃんよ」
「…そうだったね、忘れたい記憶だけど」
「…うん」
あの悪夢―――ネギの香りを撒き散らすクーラーを思い出して、俺の顔が引き攣る。
すべての匂いがネギになる。そりゃ味噌汁とか百歩譲ってご飯とか、ネギと合うものなら良いんだろうけど…何分俺の好物はバナナ、リンの好物は蜜柑なもので、まあ、その、何て言うか…かなり悪夢に近かった。おまけに体に匂いが染み付くから外で「ネギくさっ」とひかれるし。夏休みで良かった…あれで学校には行けない。
「あー、れーん」
「うぎゃあっ!?」
ぺしゃ、と右の肩甲骨辺りに熱源がくっついて来たのを感知し、反射的に悲鳴を上げる。
「な、てめオイコラ離れろ馬鹿!」
「いやー」
「暑いから!死ぬ!」
「…」
俺がこれだけ嫌がってるっていうのに、リンは聞こうとしない。寧ろ、くたっと体から力を抜いて…
…ん?
「…あのさー、リン」
「なにー?」
体に力が無い。いつもの元気さは影をひそめている。顔が赤い。
そして、肌が熱い。―――異様に熱い。
「お前ちょっとやばいんじゃね?」
「……………ん」
「返事すんのも億劫なんじゃねーか!マジで危険域だろ!」
俺は慌ててリンの体に手を回した。
腰とか足とか腕とか、これだけ露出面積が広い癖にこの様だ。一瞬外出中のロングヘア二人組の安否が気になったけど、まあ外の方が冷房やら何やらあるだろうしうちの中よりは快適だろう、多分。
力が抜けてぐにゃぐにゃする体を抱き上げて部屋から出る。
抗議のつもりか一度ネクタイが引かれたけど、あとは抵抗らしい抵抗もしないままリンは大人しく目をつぶっていた。
―――本当に危険域じゃん!
考えてみたらリンはほとんど水分を取っていなかった。扇風機の前に陣取ってはいたけど、それだけじゃやっぱり駄目だったか。やっぱりさっき水飲みに行ったときにリンの分の麦茶でも取ってくるべきだった。
ああもう、とちょっと視線を向けてみると、肩口までの髪が割合白いうなじに張り付いてるのが見えてついドキッとする。
いや…なんか肌しっとりしてるし、頬赤いし、心なしかやらしいような…
「…って俺はアホか!?」
叫んで浴室のドアをぶち開ける。
暑さは人を馬鹿にする、それを身を以て体験してしまった。ちっとも嬉しくないけど!
無駄に熱くなる頬に歯噛みしながら、抱えていたリンを浴槽に下ろす。
「…れん…?」
潤んだ目で見るな!!あー畜生、これだから健全な男子(俺)はッ!
意識しないでツボを突いてくるリンから目を逸らすようにして、俺はシャワーノズルを手に取った。
そして、
「きゃ――――――――!?冷たぁっ!?」
唐突な冷水シャワーに、リンが浴槽の中で跳びはねる。
「え、水!?っていうか服!リボン!びしょびしょになっちゃうじゃん!」
「むしろ感謝してほしいけど。お前ちゃんと水分取れよな」
「うっ…それは感謝して…いやいやいや、その前にシャワー止めて!流石に冷たい!」
「は?やだし」
「何で!?」
リンの反応が面白いから、とか言ったら平手が飛んで来るんだろうなー、なんて思いながらもシャワーの強さを最大にする。
正直に言います、悪ノリしてました。
「や、ちょ…やっ…やだって言ってんでしょ――っ!」
「え、ちょっ!?」
いきなり立ち上がったリンに思いっきり抱きすくめられて、俺が固まったところで強引に浴槽に引きずり込まれる。
「ぎゃっ!」
しゅわわわわ、とシャワーが天井に向かって水を放出する。それが雨みたいに雫になって風呂場全体に降り注ぐ。
背中に滴ってくる雫がかなりの冷たさを運んでくるのが、正直キツイ。
「もうレンも冷たがればいいよ!」
「ぎゃあマジで冷たい!」
「ふははは、見たか!」
「だあああっ、離せー!」
ぐぎぎぎ、と腕立て伏せの要領で体を離そうとするけどリンはそれを許してくれない。
攻防戦はなかなか決着がつかず、やがて俺の疲労という形でケリがついた。
「…マジ無理疲れた」
「ふははは……うん疲れた…何してんだろうねー、私達」
「それ俺の方が聞きたいんだけど…」
ぎゅう、と抱きしめられるけど、もう抵抗する気力すらない。
まあ水に浸かってるようなもんだから暑さ的な問題がないのが唯一の救いかもしれない。
「レンー」
「なーに」
「あのね、私あんまり夏って好きじゃないかも」
「何でさ。そりゃ暑いけど楽しい季節でもあるだろ、夏祭りとか花火とか」
くに、と俺の下でリンが首を傾げる。
あれ、なんか今気付いたけど、これって俗にいう組み敷いてる格好じゃね?
…だからって今はどうする気力もないのが非常に残念だ。いろんな意味で。
「うん、楽しいよ?でもさー」
「ぶっ」
抱きしめる、と言うよりは寧ろしがみつかれる格好になって、流石に接触面からじわじわと熱さが生まれてくる。しかも割と重、いやいやいやなんでもないです。
「リンあつい離して」
「そう、それ!」
「はぁ?」
耳元で響く声。背景には未だに天井に向かって意味の無い散水をしているシャワーの音が響いている。
でもそんなものを全部押し退けてリンの声が鼓膜を揺らす。
「夏は暑いからレンにくっつけないじゃん」
…
………
「…お前さー、言ってて恥ずかしくないわけ?なんかもう力抜けたわ」
「あ、暑いからレンにくっつけないなんて思ってないんだからねっ!…うーん、イマウチ」
「ツンデレんなよ。しかも誰、イマウチって」
「んー、クラスの窓の外の銀杏の葉っぱ」
「とりあえずお前は世間のイマウチさん全てに謝るべきだと思うんだ」
「レン重い、どいて」
「てめえ」
文脈的に繋がらない上にとんでもなく理不尽な事を言われた。少なくともこの状態に持ち込んだのはリンじゃなかったか?
つい数分から十数分前の事だって言うのに忘れたんだろうか。頭が心配だ。
「あーついー」
遂に足をばたばたさせながら宣い始めたリンに、仕方なく溜息と一緒に身を起こす。ずぶ濡れになった髪や服から滴り落ちた雫が、未だに全開のシャワーからの水滴と混ざり合って真下に居るリンに零れかかる。
しかし何なんだろう、暑さのせいなのか、リンがいつもよりウザ…いや面倒なのは。
「―――――――何だって?」
突然目の前から発せられた冷気にぎょっとして視線を落としてみると、物凄く物凄い顔(他の形容詞が見当たらない)をしたリン、いや絶対破壊神が身を起こしたところだった。
これはまさかあれか。古典的なあれか!?
「だぁぁ~れがウザいってぇ~!?」
「え、いやあのそれは」
あの伝説に聞く『考えた事をそのまま口にする』というコマンドを選んでしまったらしい俺に、容赦なくフラグが立つ。
俗に言う死亡フラグ。
そっと浴槽から抜け出し…た瞬間、足首を掴まれた。
「だからその、つい」
「つい?本音って事だよね、それ?」
にっこり、とリンが笑う。
背後に修羅が見えた。
「ごめんごめんマジごめん本気じゃないっていうか言葉の綾っていうか今俺暑くて力出ないし敢えて言うなら優しくして下さいって感じで一つよろしく」
「問・答・無・用――――っ!!」
叫びと共に、転がっていたシャワーのノズル(水圧最強)が、
口に突っ込まれた。
始まりは善意だったはずなのに、何が悲しくてこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。
もしこれが夏の暑さのせいだとか言うなら―――夏、頼む。うちにはもう来んな。
後から話を聞くに、その時の俺の悲鳴は隣三軒に響き渡っていたらしい。シャワーを突っ込まれててそれなんだから、素のままだったらどうなってたんだろう。あんまり考えたくない。
熱中症に近い何かについて
100作目おめでとう自分!ありがとう自分!何が起きたのか季節ネタになりました。
おかしいな…友人に「きみのとこのレンってイケレンだね」って言われたから何となく釈然としなくて変態にしようとしていたのに…夏だからかな。仕方ないね!
しかし100作って、冷静に考えると2日か3日に1作のペースって事ですよね?何してんだ自分。
L「勉強しろ、そしてお前の中の俺の待遇改善しろ」
R「勉強しろ、そして私のキャラももっと濃くして」
>L だが断る、お黙れこの野郎(^ω^)(byテトカイラジオ)
>R マイ天使が言うなら頑張れる気がする
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ご意見・ご感想
るのら
ご意見・ご感想
いつも自作小説読ませてもらってます!!!!
コメしたこと無かったので、初コメと100作おめで㌧ござます!!!
いきなり来た上に早く去ってすいません;
2011/11/19 17:45:16
翔破
はじめまして、コメントありがとうございます!
いつも読んで頂いているとは光栄です。いえいえ、コメントを頂けるだけでもとても嬉しいです!
これからものろのろ書いていくつもりなので、お暇な時にでもまたお立ち寄りいただけると幸いです。
2011/11/20 23:59:06