miss-you
第二話 彼女の名前と記憶
「ただいまー。って、誰かいる訳じゃないけど。」
「おじゃまします。」
彼女はぺこんとおじぎしながら俺に続く。
「うぉ、ちょっとそこで待っててくれ。あ、玄関の鍵閉めといてくれよ。」
「うん♪」
彼女を土間に待たせておき、タオルを取りに風呂場へ。ついでに湯船の蛇口をひねっておく。
「ほらよ、この上を歩いていけ。風呂場までタオルしいてあるから。」
「ありがとう♪」
彼女はそう言うと風呂場へ向かった。俺は、次の行動に移る事にした。
一人暮らしを長くすると、自炊くらいは自然に出来る様になる。毎日台所に立つ主婦にはかなわないが、それなりのものを作れる自信はあるつもりだ。彼女は何が好きなのかよく解らないが、宗教的な事の可能性も考えて野菜で料理する事にした。
一方その頃…
私は湯船につかりながら、私をここに招き入れてくれた彼の事を考えてみた。言葉遣いや態度は乱暴なところもあるけど、私を気遣う行動は最初から変わっていなかった。興味本意でとか悪意があるなんて感じじゃない、本当に優しい人なんだと思った。さて、体も暖まったし、出る事にしよう。
湯船から出て、タオルを取ろうとドアを開けた。
「えっと、これに着替えろって事なのかな?」
風呂場に入った時にはなかった、見慣れぬ洋服がたたんで置かれていた。
「わあー、大きい♪」
おそらく彼が普段使っているであろう、パジャマの様なひらひらした洋服が二枚づつ置かれていたので、着込んだ。私の濡れた服や床にしいてくれたタオルは、洗濯機にいつの間にか入れられていた。
「ふう。こんなところだろう。」
彼女が風呂に入っている間、料理と洗濯をすませた。彼女の着替えをどうしようか悩んだが、まさか裸のままにしとく訳にはいかないから、夏物の寝巻きを二枚づつおいておいた。一着だと、寒いだろうから。
「わあ、いいにおい♪」
おいしそうなにおいにつられて、くぅとおなかが鳴った。もしかしたら、私が記憶をなくす前にした食事はだいぶ前の時間なのかもしれない。とりあえず、においの方向に行く事にしよう。
「おっ、きたきた。おい、こっちだこっち。」
「はぁい♪」
「うぉ。」
ぐあ!だめだ、正視できん!かわいい顔してると思っていたが、まさか湯上がりの姿がこんなに色っぽいとは。
「うぉ♪」
「それはもういいから!ほれ、座れ座れ。」
「はあい♪」
彼女は俺が作ったご飯に目を輝かせながらおとなしく向かいの席に座った。
「よし、じゃあ食うか。おかわりもあるからな。」
「わぁーい♪いただきまーふ♪」
彼女はかなりおなかをすかせていたらしく、数回おかわりをした。女性がどのくらい食べるかなんてよく解らなかったから小さめの器を使ったのだが、俺が使う大きさの器でも大丈夫な様だ。
「ふー、食った食った。」
「おいしかった♪」
「それはどうも。さて、腹も膨れた事だし、話すべき事を話しておこうか。」
そう言って、俺は自己紹介をした。いまさらな感じもするが、やらないよりはいいだろう。
「で?本当に何も覚えていないのか?名前も解らないんじゃ、なんて呼べばいいんだか解らないぞ。」
「うーん、さっぱり覚えていないよ。あっ、でも名前はケイだった様な気がする!」
「ケイ、か。ん………
~[星の精神世界]~
…何だ、ここは?辺り一面がモノクロの世界だ。時折ノイズが走っているな。霧の様なものが漂い、俺を包んだ。
ふいに男の子の視点になる。目の前には幼い女の子…なのか?目は髪の毛に隠れて見えていない。背景は古い民家…か?ノイズが多すぎてよく見えない。
せいちゃん遊ぼ♪
行かないで、…(名前を呼ぶが、雑音にかき消される)
な、何だ?映像が離れて…いや、俺が離れてるのか?ち、ちょっと待て、いったい何なん───
……は?」
「何かしたの?」
「…いや、何でもない。」
さっきの映像は何だったんだろう?
「…まあ、名前はそれでいいだろうな。で?ケイはどうするつもりなんだ?」
そうだ、当面の問題から片付けないと。過去の自分を探すにしろ、新しい人生を歩むにしろ、仕事や生活する場所がなければ何も出来ないだろう。そりゃ、ケイを拾ったのは俺だから俺が面倒見るのが筋なんだろうが、それだってケイの意志があればの話だ。
「んー、ケイはここにいる事にするよ♪手がかりのない過去より、新しい未来の方から確保しなきゃ♪」
コイツ、意外に堅実派だ。
「それに、せいちゃんのおいしいご飯が食べられるし♪」
「それが目当てかッ!そしてせいちゃん言うな!」
「そして夜になるとせいちゃんは私に襲いかかるのだった♪」
「実は最初からそれが目当てだったのさッ!…ナンチャッテ。」
「ふ~~~~ん。へ~~~~?ほ~~~~。」
「ウ、ウソジャナイヨ?ホントダヨ?ネコミヲオソオウナンテコレッポッチモオモッテナイヨ?」
「じとーーーー。」
「ぐッ…、お、俺だって健全な男子なんだい!ばっちり思いましたよ!悪いか!」
…悪い事だよな、うん。
「私は…、かまわないよ♪」
「え…」
「せいちゃんとなら、かまわないよ♪」
「ぇ、ちょ……っ……ま、」
[次回予告]
もー、せいちゃんってば大胆♪私の記憶がないのをいい事に、あんな事やこんな事しちゃうんだから。そんな訳で次回は「せいちゃんは私に夢中☆」「アルバムは重要機密」「私はスター」の豪華三本を続けて送っちゃうよ♪
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