イヴ~孤独な歌姫~
その牢獄から見える世界は霧で包まれた歪な光景。
真っ白と言ってよいほどに濃い霧が立ち込めているため、たった一つのガラス窓から見えるものは何も無いに等しかった。
「暇・・・」
その不思議な音程を帯びて発せられた声は、部屋の中に反響し頭に残るような余韻を残して消えた。
締め切られた静寂の空間で声を露にしたのは、部屋の壁紙と同じ色をした純白のソファーに身を預けた緑の髪が印象的な整った顔つきの少女だ。
だらりとソファーからはみ出しそうなくらい出た簡易の白いドレスを纏った細身の体は、今にも床に向けて叩きつけられそうな格好をしていた。
一言で言うと『だらしない』格好をしている少女なのだが、狭く締め切った部屋にはあいにく誰も少女のはしたない格好を注意するものは居ないようだ。
その様子を横目で観察していた少女は、唐突にソファーから身を起こすと、
音を立てることをせずにこの部屋にたった一つ造られた出入り口へと足を忍ばした。
其処には外とこの部屋をさえぎるドアがある。
外から掛けられた鍵によってドアは開くことを知らず少女をこの部屋に閉じ込めていた。
少女は考える時間も必要とせずその自由を奪う憎らしいドアの間際に今まで寝そべっていたソファーを移動した。
これでこのドアは、外からも中からも開けることが出来なくなった訳なのだが、
少女の顔には不思議と笑みさえ浮かべられていた。
「甘いのよ。この私を閉じ込めようなんて!」
残すたった一つ出口である窓を開けながら満足げに発せられたその言葉は誰の耳にも届くことは無かった。
四階の部屋からシーツやカーテンなどのありったけの白い布を縛って作られた簡易のロープで警備の薄い窓からの逃走は成功に終わった。
こんな逃走劇を何度も行っているのだが、自由を手に入れた少女の行く手はいつも同じだった。
町外れの高い崖の下の谷間。
深く壁を作るように存在する森を抜けた先の聡明な水色の水を張った大きな湖。
逃走した身である少女は普段人の立ち寄ることの無い町外れのこの場所がお気に入りだった。
そう、今日もいつもどおりそこに居た
特にすることは無い
それでもあの部屋に居るよりは心が軽くなる
自分のたった一つの存在理由を忘れることができるから。
だから少女は普段場所に来ると暇をつぶすため歌を歌う。
本当は自分の声が嫌いだった。
それでも仕方なくこの歌を歌っている
気がついたら知っていた。
そんな曲を誰もいない湖のほとりで歌う。
薄いピンク色の唇からはじく出される言葉は不思議な旋律を刻む。
そのメロディに色をつけるように小鳥のさえずりが湖のほとりに響き渡っていた。
だれもが耳を傾けて聴き居るような音だった。
イヴ~孤独な歌姫~
小説初投稿です。
ちょっと、
いや、かなりシリアスになる予定。
二話目
http://piapro.jp/t/3pF5
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じん
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