その一方、屋根の上から飛び立った烏はと言うと、城の外周を滑空した後に、明かりの点いた高い小窓の一室を潜り抜けて入るのだ。烏が入った場所とは、レオナルドが召使として女王に与えられた個室である。
着地してからすぐ様、レオナルドは姿を烏からヒトへと変えていく。
「…………」
彼女は酷く動揺していた。胸打つ鼓動も息遣いに合わせて素早くなり、同時に柔和な白い肌を持つ額へ汗をかいていた。なんとか気持ちを落ち着かせようと、ベッドの上へ寝転がり深呼吸をするが、なかなか落ち着かない。
噂通りだったとは言え、疑った相手は確かに“何か”と繋がっていたからだ。レオナルドが目撃したのは、大臣の老人と人目に付きにくい闇なる影と表現しよう。密かに這い寄る底知れぬ恐怖心が、レオナルドに芽生えようとしていた。
不安定な心理状態になった時である。自室の扉が『コンコンコン』っと鳴った。
「…………」
──まさか、カムパネルラさんが自分を追ってきたのでは──とレオナルドは心の声で呟いていた。ノックの音に対し、足音を立てず無言のまま扉の傍へ近付いていく。
追ってきたならば……戦わねばならない。レオナルドは右の掌に魔力を込めて、もう片方の手をドアノブに掛けた。
「扉を開けよレオナルド。妾である」
「……リアーナ?」
どうやら、カムパネルラが来た訳ではなさそうだった。まだ不信感を募らせてはいるが、レオナルドの手はドアノブを回すのだった。緊張により汗ばんだ手で扉を開くと、部屋の外から見えたのはリアーナの姿である。
「ほんとうにリアーナだよね……?」
見えた女王であるリアーナの姿は、衣装をジョンブリアンカラーのマーメイドドレスからパジャマ姿へと変わっていた。忙しい王室の業務が終わって夕食後に、入浴を済ましてから着替えている。
まだ、19時を過ぎたばかりの時間帯ではあるが、早く寝間着姿になるのも、仕事が終われば一国の女王から年相応の少女へなったことを示していた。
「そうであるに決まっておろう。その言いようじゃと、なにかあったようじゃな……」
「うん……。今から、ぼくの部屋にミスティークを集めよう」
「わかった」
レオナルドの様子をひと目見て、リアーナは事情を察した。すぐさま、手紙をだして万年筆で文字を書いていく。手紙を2枚書き終えると今度は、飛行機の形へ折っていき、それを部屋の窓から飛ばしたのだ。
手紙はリアーナが持つ魔法の力で緩やかに飛んでいき、送り主の元へ素早く届けられていく。
すると……手紙が届けられた2名が、すぐにレオナルドの部屋へと来てくれた。
G clef Link 元騎士団長6
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