北西大小野物語 第一話 『D日和』
主な登場人物
G:バンド、Far-therのサブリーダー。挙動不審などの奇怪な行動をとる。(Bass)
Y:Far-therのリーダー。彼らの日々の言動に腹を抱えている。(Vocal,Keyboard)
D:Gの天然行動に突っ込みを入れる秀才。(Guitar)
O:唯一の永世中立人。居なくなる事が多いため、みんなに寂しがられているのを本人は知らない。(Drum)
S:バンド『メタモン状態』と『Far-ther』を掛け持ちする。時たま辛口な一言を発しみんなに驚かれる事も。(Drum)
朝、9時。
眩しい日差しをくぐり抜けてやってきた。
自転車置き場に鍵をぐるぐる巻きにした状態の自転車を止め、玄関で上履きに履き替え歩いてすぐの場所にある部室の扉を開‥‥けなかった。まだ誰も来ていない。
畜生、部室の鍵取ってくるの面倒くさいぜ。
ふと私は最悪の事態を考えた。
「まさか今日の練習忘れている訳じゃあないだろうな。」
焦燥感にかられて電話をかけた。
ただし学校の中は携帯厳禁なので最寄りの女子トイレから発信した。
畜生、ここは寒いぜ。
長い長い呼び出し音の末、ようやく奴は応答した。
「もしもし。」
Gだ。
「練習あるの、覚えている?」
「うん。今出るところ。」
おせーよ。
「二人には連絡した?」
「うん。」
「じゃあ私先に鍵取って部室に居るから。」
「じゃあまた後で。」
電話がオワタ☆\(^0^)/
部室に行ってから3分弱。
扉の開く音がした。
「おはよう。」
Gかと思ったらDくんだった。
「おはよう。」
私も挨拶を返した。
二人でアンプやマイクのセットをしていると、再び扉の開く音がした。
「あ、D来てたの?」
「Gに電話した直後すぐに来たよ。」
Gはすまなさそうな顔をしながら言った。
「やべえ、俺Dに『早く来い』ってメールしちゃった。」
「G、送んなよ。」
「だからごめん。」
Dくんは怒っているのかいないのかよくわからない口調でGと会話をしている。
まあいつものことだけど。
―――――30分後。
「合わせない?」
Gが持ちかけてきた。
「何合わせんの?」
Dくんが尋ねる。
「‥‥『HELLO』でよくない?」
「じゃあ合わせっか。」
Dくんは私の方を見て開始の1,2,3,4を促している。が、そんなことはお構いなしにGは物凄くズレた速さで拍子をとっている。
やっぱりDくんはこう言った。
「Gうるせー!」
約4秒後にGのリズムは停止した。
「じゃあいくよ?」
(1,2,3,4!)
『HELLO』
(福山雅治)
Vocal&Guitar:D
Bass :G
Keyboard :Y
Drum :O(本日欠席)
一曲合わせ終えると、それぞれはまた個人練習へと戻った。
そして数分置きに合奏と個人練習を繰り返していった。
再び合わせていると、
♪こーいがーはぁーしーりーだーしーたらぁ~
G〇〇〇(←個人情報保護のため伏せてます)ズ~レてる~
サビを歌っているDくんが突然替え歌でGに忠告した。一旦そこで演奏は終了した。
「どこから合わせる?」
Dくんが問う。
「二番のサビからやらない?」
が、しかしここでもまたGはダメだった。
私が拍をとってもGはやはり遅れて入ってくる。
結局、二番の頭からやることにした。やっと合わせることができた。
練習が終わり、片付けも終わったので私は言ってみた。
「ゼリー食べる?」
二人は喜んで‥‥いたと思う。
「味3つ種類あるけど、どれがいい?」
二人とも私の質問には答えずにただただ奇怪な行動に出るのみだった。
何故かDくんはくじを引くかのように、林檎味を引き当てた(気持ち悪い笑顔で)。Gは普通にゼリーを取り出したものの、なんで葡萄はグレイプと言うんだろう‥‥、と戯言を呟いている。
三人で玄関を出て自転車を取りに行こうと、私とGは走り出した。全力疾走で。
猛スピードで鍵を外し自転車に乗ると、Dくんの方角へ競い合うように漕ぎ出した。
「‥何で二人走ってたの?」
Dくんは苦笑いを浮かべている。
「いや、なんとなくノリでやっちゃっただけ。」
三人で歩きながら喋っていると、話題が運動会の話となった。
「俺の弟リレーのアンカーで走ったさ。」
「ええ~?Gからは想像できないわ~。」
「Gって陸上部やってたもんな。」
Dくんは珍しくGをフォローした。
「あ、そっか!陸上部だったって前に言ってたっけね!?」
どうも私はGが陸上部だったということを忘れてしまう。
(奴は顔が童顔なため、陸上部らしくあまり見えないからである。)
学校の門の所まで行くと、Dくんが珍しくこう言った。
「TSUTAYA行かない?」
誘われるままに私とGは彼について行った。
TSUTAYAでDくんが買い物を終えて出ると、今度はボストンベイクに寄っていいかと聞いてきた。
そして三人でパンを買って、自転車の鍵を解除していると、
Dくんはテストの話を持ってきた。
「定期テストの勉強、もう始めた?」
「うん。一応、漢字とかは。そういえばDくんって凄いよね。どうやればテストで名前載る事ができるの?」
私達二人はDくんにテストで上位に入る秘訣を訊いてみた。
「じゃあ、定期テストで名前載る方法を教えてあげる。それはね‥‥‥、」
短い沈黙の後、Dくんは言った。
「カンニングだ。」
「っていう冗談は置いといて、その方法は、『一夜漬け』だから。」
私はホッと肩を下ろした。
「びっくりした。本当にカンニングやってんのかと思った。」
「あぁでもたまにやるよ。あ、これわかんねえって時。」
やんなよ!!
自転車に乗った我々は、Dくんの家の方面へ向かった。
五分強してから、Dくんの家の前に着いた私達は、先ほど買ったパンを食べながら長々と喋り始めた。
「G、なんかおいしい話して。」
Dくんの要望に北嶋は応じた。
「えっと、昨日俺は弟の運動会に行って、それから家族で食べに行った。」
本当に美味しい話だな。
Dくんは運動会について語り始めた。
「小学校の運動会ってさぁ、何で土曜日にやるか知ってる?」
私は首を横に振った。
「あれってね、土曜日に中止になっても日曜日にできるようにっていうただそれだけの理由で土曜日になったんだよ。」
「ええええ何それ?」
「ふざけているでしょ?」
「一週間くらい延びてもいいのに。」
「北海道なんてまだ5月は肌寒いのに。」
だよなー、などと意気投合していると、先ほど言ったのと一字一句違わない台詞をDくんは言った。
「G、なんかおいしい話して。」
Gはええ!?という顔をし、少し考え込んで口を開いた。
「んーんと、俺は、小一の時に、教室でゲロを吐いた事がある。」
それってまずい話じゃないか。おいしい話というよりは。
そしてやっぱりDくんは言った。
「G、なんかおいしい話して。」
「ええ~!俺もう帰るわ。」
「お願い!あと一つだけ。」
「‥‥‥!‥‥俺の家の周りって凄いよ。中学校行ってない人とか戸籍ない人とか徘徊する老人とか。―――――今から数年前の話なんだけどさ、家族で夕食食べている時の時間に、外から若い女の人が『助けてー!!』って叫んでいる声が聞こえたのさ。そして俺ん家に『かくまってください!』ってピンポン押してきたんだ。」
「その時どうしたの?」
結末が気になってしょうがない。
「俺の父さんが出てかくまってやったよ。」
「うーわ、お前の親父サイテーだな。」
Dくんが突如言った。
「どうせその女の人が美人だったから家に入れてやったんだろ、ホントサイテーだわ。」
「人の親父想像でだけで勝手にサイテーにすんなよ。」
Gはにやけながらそう言った。
「そういえばさ、俺中学卒業した後卒業旅行にアメリカに行ったんだ。その時千歳まで行く途中、パスポート忘れていることに気づいたんだけど、面倒くさくて戻らなかったんだ。んで空港に着いて審査する時、俺は家族からパスポート借りて審査のとこ入って行ったんだよね。したら『顔が違う』って言われて、いやそんなことないですよー、って答えてたら、別室に呼ばれてものすごく怒られた。」
Dくん、すごいことやらかしたな。
「で、その後家まで取りに戻ったの?」
「‥‥‥嘘だよ。」
はい?
「そんな危ないことやるわけないじゃん。」
すげー大規模なフィクションを語ったな!!
話題も尽きた所で、私とGはDくんと別れて環状通東駅方面へと向かった。
特に話をする訳でもなく、私たちは一緒に自転車をこいでいた。
(ただ、Gが蛇行しながら自転車を運転してたのがかなり気になったけど。)
環状通に出るとGと私は左右それぞれ曲がり別れた。
「じゃあね。」
「じゃあね。」
自転車を駅の自転車置き場に駐輪し、地下鉄駅へ下って行った。
今日のDくんは、すごい暴走だった。
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