「急がないとーー」
 真夏の八月。
 時刻は午後1時半。
 ヘルフィヨトルは慌てながら荷物をまとめる。
 彼女はこれから旅行に出るところだ。
 だが、荷物がまだ全然まとまっていない。
 着替えの服を詰め、日用品をしまい、財布を確認する。
「ふぅ~~」
 ようやくまとめ終え、ヘルフィヨトルは一息ついて額の汗をぬぐう。
 荷物は大きなトランク一つにバックがふたつ。
 女性が一人で運ぶには多すぎた。
 だが、ヘルフィヨトルは驚いた様子も困った様子もない。
「あとはこれを」
 そう言ってヘルフィヨトルはポケットから直径2センチほどの小さな白いボールを取り出した。
 それをポイっとトランクやバックに投げた。
 すると、瞬く間にトランクやバックが消え、ボールは直径3センチほどの立方体に変わっていた。
 色はそれぞれ赤と黄色と青になった。

 その摩訶不思議なものもヘルフィヨトルが作った道具「ポポット」。
 大きなものも瞬く間に収納してしまう便利グッズ。
 もはやヘルフィヨトルは発明家と言ってもいいかもしれない。

「これでOK」
 三つのブロックを腰の専用の場所にセットし、財布だけをポケットにしまって、笑顔で頷くヘルフィヨトル。
 だが、時間は相当押していた。
 急いで家を飛び出す。
 タクシー馬車を捕まえて飛び乗る。
 20分ほども乗ると目的の場所についた。
 と言ってもただの街のはずれである。
 これから別の街に向かうのだ。
 旅行先は海を越えた向こう。
 その為には船に乗らなければならない。
 だが、海を渡るほど遠くに行く船が出る港はなかなかない。
 この辺にはそのような港はないのだ。
 だから、遠くの街の港に行く必要がある。
「人は……いないですね」
 あたりを見回し、人がいないことを確認するとヘルフィヨトルは腰からポポットをひとつ取った。
 立方体のそれは水色だった。
 地面に軽く投げる。
 するとそこにバット変な長方形の板が現れた。
 両端だけ少し上に曲がっている。
 形だけ見れば現代のスケートボードのようなものだが、肝心のタイヤがついていない。
 地面に落ちている空のポポットを拾ってポケットにしまうと、ヘルフィヨトルはその板に乗った。
 そして、片方の足で板の上にあるボタンらしきものを踏んだ。
 瞬間。
 板が、文字通り、浮き上がったのだ。
 そしてすごいスピードで飛行し始めた。

 それもヘルフィヨトルが発明した道具である。
 名前はコーセンザス。
 板の宝石に込められた風魔法がボタンを踏むことで放出され、その効力によって少し地面から浮き…………説明はいいだろう。
 とりあえず猛スピードで飛ぶことができるのだ。
 ただ、これは一般人が見れば大変な騒ぎになる。
 だから街では使えなかったのだ。

 長い道をひたすらに進む。
 人は全くいない。
 一時間半ほど飛び続けていると、目的の街のかなり近づいた。
 コーセンザスを止めて降りると、ポポットの中に戻す。
 ヘルフィヨトルは街まで歩くと、またタクシー馬車を捕まえて港に向かう。
 港に着いたのは午後4時。
(少し早かったかな?)
 などと考えつつ、ヘルフィヨトルは乗船を待った。
 乗船が始まったのは5時。
 お金を船員に渡し、ヘルフィヨトルも乗り込む。
 その大きな帆船は現代の大型船に等しいもので、設備もしっかり整っていた。
 日も傾き始めるころ、その船はようやく出港した。
 ひさびさに乗る船に心を躍らせながら海を見ていると、船員が夕食の案内をした。
 もう夕食の準備が出来たらしい。
(海も見ていたいけど、とりあえず夕食にしよう)
 そう思い、ヘルフィヨトルは船のレストランに行った。

 夕食は別料金のバイキング形式だった。
 ヘルフィヨトルはお金を払うと皿を取って料理を取り始める。
(とりあえずこんなものかな?)
 ヘルフィヨトルの皿の上にはパスタやロールキャベツ、ローストビーフなど。
 席に着くと、早速食べ始める。
(うん、やっぱりおいしい!)
 その味にヘルフィヨトルは笑顔で食べ終えた。
(あとは……)
 立ち上がり、今度はスイーツのコーナーに向かう。
 小さなチーズケーキと同じサイズのチョコレートケーキ、それとメロンを取り、ヘルフィヨトルは席に戻った。
 それらをゆっくり食べ終わると、今度はコーヒーを一杯注いだ。
 のんびりとそれを飲む。
 すると、
「皆様、もうそろそろ閉店の時間でございます」
 という船員の声が聞こえてきた。
(もう?)
 などと少しは思いもしたが、仕方ないのでコーヒーを飲みほし、ヘルフィヨトルはレストランを出ていった。
 部屋に戻り座り込む。
 船はあまり揺れることもなく航海している。
(何をしよう……)
 悩むヘルフィヨトルはふとあることを思い出す。
「そういえばお風呂、あるんでしたっけ?」
 ヘルフィヨトルは帆船の宣伝の紙に書いてあったことを思い出しながら呟いた。
 公衆浴場も常備されている船などそうそうなく、まさに豪華客船というべきかもしれない。
 ヘルフィヨトルは着替えとタオルを持っていってみることにした。
(うわぁ!?)
 入ってみるとそのすごさに感嘆する。
 湯船は横に長く、三つに区切られていて、手前に来るにつれて温度が下がっていく仕組みになっている。
 荒い場も仕切りを真ん中に挟んで両側にそれぞれ4人、計8人が洗えるようになっていた。
 街の公衆浴場と比べるととても小さいが、船にこれほどの浴場があるのはすごい。
 これにさらに同じサイズの男湯もあるかと思うと驚きで目を見張る。
 
 長湯は苦手なので、ヘルフィヨトルは早々にお風呂を終えた。
 とは言っても時刻はもう9時を過ぎていて、寝ている人もたくさんいた。
 だが、ヘルフィヨトルはというと、まったく眠る気がしなかった。
(なんでだろう?)
 自分に疑問を投げかける。
 彼女は、いつもはけっして遅寝ではない。
 だが、船では恐ろしいほどの遅寝になる。
 そして起きるのはいつも通りの時刻か、それ以前。

 これを計算式にすると。
 遅寝+非遅起き=寝不足

 …………そんな計算はどうでもいいとして。
 今日も彼女は例外ではなかった。
 眠くなる気配もないのでもちろんベッドには入らない。
 武器や道具のデザインを考えたり、看板に出て風に当たったり。
 そんな風に自由気ままに夜を過ごす。
 起きている人は徐々に少なくなっていく。

「ふぁ~~~~」
(眠い……)
 あくびをしてそんなことを思ったころには、ほとんどの乗客はもう夢の中だった。
(私もそろそろ寝ないと)
 ようやく寝ることを決めて広げていたペン等をしまいだす。
 道具を片づけ終え、ベッドに入ったときにはすでに1時を過ぎていた。
 さて、明日彼女が目を覚ますのは果たして何時だろうか?

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

ヘニョン旅行記 第一幕

第一幕です^^
見ての通り、つまらない作品です><
今後も特に事件もなくほのぼのした雰囲気が終わりまで続きます。
まあ、なので、シリアスとか苦手な人にはいいかもしれません^^
事件本当にないので(たしかなかったはずw)気楽に読んでくれるとうれしいです。


読んでくれた方一言「読みました」だけでもいいので感想を残してくれるとうれしいです。


読者の皆様にワルキューレが微笑むことを

閲覧数:117

投稿日:2009/08/17 22:06:27

文字数:2,844文字

カテゴリ:小説

  • コメント9

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  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    ご意見・ご感想

    すごいですよね!
    私もほしいです
    あ…………ヘルフィヨトルって私?

    由来はないですよw
    その場で語呂で作ってますwww

    2009/09/02 17:01:59

  • ばかぷりんす。

    ばかぷりんす。

    ご意見・ご感想

    ポポットすげええ!!

    いいですねポポット!!私も欲しいです>w<!!
    コーセンザスも普通の車より乗り心地がよさそうです^^

    この道具たちの名前には何か由来があったりするんですか?

    それでわ続きいってきまーす!

    2009/09/02 14:22:28

  • ヘルケロ

    ヘルケロ

    ご意見・ご感想

    「ヘニョン」はとある人の私の呼び方です^^
    「ヘルフィヨトル旅行記」だと何か堅苦しいし長いので「ヘニョン旅行記」にしましたw

    2009/08/21 18:57:09

  • 吏都

    吏都

    ご意見・ご感想

    ぇ、あー!
    本当だ!主人公さんの名前とヘルフィヨトルさんの名前が同じ!笑
    ほわー!
    じゃぁ、これからまた読むのが100倍楽しくなります♪←私的に

    2009/08/21 18:53:57

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