「辛い。」


無意識に、声が出ていた。

ここは屋上。今年で3年間通ってきたことになる、中学校の屋上。

自分は特に、辛いことがあったわけではない。自然と声が出ていた。

でも、辛いという言葉を否定はできなかった。 



―――ここから飛び降りたら、そう思わなくなる。

心の中で、何かが囁く。 いやそれはダメだろう、と自分に言い聞かせる。

でも、囁きは終わらないどころか、どんどん近くで聞こえるような気がした。

―――落ちろ。それが、自分の求めているものだ。

違う。 そんなもの求めていない、・・・はずだ。

囁きは止まらない。 囁きの声は、どこかで聞いたことあるような気がした。

―――お前は、生きていて楽しいか?

楽しい? そんなわけない。


あぁ、そうか。 そういうことか。
やっと分かった。 自分はこの世界に存在する意味、価値がない。つまらない。
それが、とても辛いのだ。
だから、ここから落ちれば・・・楽になれる。

そうだ、落ちよう。
決心した瞬間


ガチャ

「・・・え?」

自分ではない何者かが、尋ねるように声を出す。

「おい!お前、何してんだよ?!」

どうしてそんなに、驚いているんだろう? と思ったが、それもすぐ消えた。

なんせ、私はここから飛び降りようとしていたのだから。

「・・・別に。」

冷めた口調で返す。 無感情であるかのように。

「別に、ってお前。答えになってねえぞ?」

答える気すらないのに、そんなことを言われても困る。 だが、そんなことは言わない。

言ってしまえば、何かが終わると思ったから。

「ああ、そうね。ここから飛び降りようとしただけよ。」

「飛び降りようとしただけって・・・ 何かあったのか?」

何もないのだ。 自分でも不思議だと思う。

「何もないの。自分でも不思議なくらい。 ところであなた、誰?喋ったことある?」

身に覚えがないので、聞いてみる。

「そうか・・・ ああ、俺は清水優也。喋ったことは、なかったと思う。 そっちは?」

清水優也 聞いたことがあるような気がする。

「清水君ね。分かったわ。 私は、伊藤亜紀。今は一応2年2組。」

清水は、驚いた顔をした。 まるで、秘密のお宝を見つけた子供のように。

「・・・え?伊藤亜紀?」

自分に、疑問・・・驚きをもったみたいだ。

「そう、だけど? 何?何か知ってる?」

問い詰めるような口調で自分は言う。

「俺の、幼馴染だからさ。伊藤亜紀って奴が。」

鍵が合った気がした。何かが開く、始まるような感覚。

「え? 優也なの・・・?本当に・・・?」

まさか、と思っていたけれど。 本当にその通りとは思っていなかった。

「ああ、俺だよ。亜紀。」

懐かしい台詞。 小さなころよく言ってもらった覚えがある。

「優也・・・・・・あれ?」

自分はなぜか涙を流していた。 おかしいだろ。自分で思った。





優也は、涙をこぼさないように無理に笑い、私に告げる。


「約束、守れなかった。」

私はすべてを悟った。







続く


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

屋上にて。

屋上で出会う、二人。 それをきっと、奇跡と呼ぶ。

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投稿日:2012/03/17 00:30:04

文字数:1,301文字

カテゴリ:小説

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