ある日の午後、商談を一件終えて駅まで歩いていました。
夏の終わりのような、まだ少し熱を含んだ風が吹いていて
自動販売機の缶コーヒーを片手に、なんとなく空を見上げました。
その日の商談は、不思議なくらい自分が何も話していませんでした。
いや、正確には話したのですが、ほとんど質問ばかりしていた気がします。
「最近、一番困っていることは何ですか?」
「その数字が伸びない理由は、どう思われていますか?」
そんなやり取りを続けているうちに、お客様が急に笑って言いました。
「話しているうちに、自分で答えが見えてきました。」
その一言を聞いた瞬間、頭の中で何かが静かに切り替わる音がしました。
営業という仕事を始めた頃は、自分が正解を持っていなければいけないと思っていました。
相手を納得させる言葉を探し、完璧な提案書を作り、少しでも良い答えを差し出そうとしていました。
でもどうやら違ったようです。
探していたものは、自分の鞄の中にも、パソコンの中にもありませんでした。
ずっと相手の中にあったのです。
営業という仕事は答えを渡す仕事ではなく、相手が自分の答えを見つける時間を
一緒につくる仕事なのかもしれません。
駅前の信号が青に変わり、人の流れがゆっくり動き始めました。
缶コーヒーはもうぬるくなっていましたが、その日は妙においしく感じました。
少し遠回りをして帰ろうと思いました。
急ぐ理由もありません。
今日もまた、一つだけこの仕事の面白さを拾えた気がしたからです。
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