真っ暗な中、あちこちで赤い炎がめらめらと燃えて、巻き上がる煙で息が出来ない程だった。言魂で火を消しながら何とか進むとフラフラと歩く人影があった。
「おい!大丈夫か?!」
「ゴホッ…ゲホッ…!」
「この先は火が消えてるから、煙を吸わない様にして避難を…。」
「ヒッ…!ヒィイイイ!!!!」
咳き込んでいた男は引き攣る様な声を上げ飛び退くと、煙が立ち込める通路の一点を目を見開いて指差した。
「化け…物が…!た…助けてくれぇえええええ!!!」
「え…?」
走り去った男の指差した方を見た時、ざわりと全身に寒気が走った。こんなにも火が燃えて、むせ返る様な熱さなのに、あまりにも異質…あまりにも異常としか感じなかった。
「ひはっ…!ひゃははは!!ひゃははははははははははははは!!!…お前なんかの為に僕は
狂わされたんだ…。お前なんかが居るから、お前なんか守るから、この子こんなに
壊れちゃった。馬鹿な子!なんて馬鹿な子!お前なんかの為に!お前なんかの為に!
ひゃはははははははははは!!ひゃーっははははははははは!!」
狂った様に笑いながら、黒い男は引き摺る様に持っていた『それ』をこちらに投げて寄越した。重く生暖かい感触が腕に圧し掛かった。え…?!人間…?!
「うぅ…あ…ぅ…。」
「だ、大丈…っ!」
綺麗な長い髪は血と煤で染まっていた。脚はあちこちが黒く変色して腫れ上がっていた。引き裂かれた服から覗く肩には刃物で斬り付けた様な傷痕が幾つもあった。閉じた瞳はただ涙を流していた。それでも手には青白く光る銃をしっかりと握り締めて離さなかった。
「聖…螺…?」
震えと涙が止まらなかった。あんなに綺麗だったのに…あんなに無邪気に笑ってたのに…自分が怪我してまで俺を庇って…泣きそうな顔で拒絶して…。
「そんな玩具もう要らない、ちっとも言う事聞かないんだもん。だから…ひゃは…!
壊しちゃった!」
「…前…が…?お前がやったのか…?お前が…お前が聖螺を…!!」
「ひゃははははははは!!ひゃっははははははははは!!!壊れちゃえば良いんだ!皆、みーんな!
壊れちゃえば良いんだ!」
「ど…して…!何であんな…!…聖螺を…!…っ!…ぁぁああああああああああああああ!!!!」
壊してしまいたかった。どちらの血か判らなくなる程殴り続けた。燃え盛る炎の迫る中で、狂った様な笑い声の響く中で、涙で滲んだ世界で、悔しくて、悲しくて、許せなかった。
「…めんな…聖螺…。」
激しい怒りと、悲しみと、悔しさと、だけど愛しい思いが混ざり合って涙が零れるまま、赤く染まった手で聖螺を抱き締めた。
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