さて。
僕はなぜ、ワンピースを着ているのだろう。
僕はなぜ、ここに居るのだろう。
考えたくはない。
だが答えは分かっている。
それは、数時間前のこと___



「このくじが当たった者は、一日わらわのおもちゃじゃ!」
 きっかけは、リリアンヌのそんな一言だった。
 周りを見ると、シャルテットやネイたち、他の使用人仲間も何人かいる。
 またリリアンヌの気まぐれが始まったと内心呆れつつ、それを表に出さないよう彼女に訊ねる。
「あの、おもちゃ…というのは_」
「決まっておるじゃろう?一日わらわの好きなようにさせるのじゃ。異論は認めんぞ」
……好きなように?
 それはどういうことだろうか。誰かに聞きたいと思うが近くに仲のいい相手はいない。
そもそもリリアンヌに聞くのが一番早い気もするが、これ以上聞くと彼女の機嫌を損ねかねない。
まあ彼女の考えることだ。大方一日中遊び相手になるとか、そんなとこだろう。
「それじゃあ、ここから引くのじゃ!」
リリアンヌが叫ぶ。それを合図にみんなくじの箱に集まり、一本ずつ引いていく。
 人数が少ないとはいえ、確率はそれほど高くないはず。これで当たるくらいなら、他に運が使われていて欲しいものだ。
面倒臭そうだし。
 そう思ってくじを引くと___

__先の方に色が付いていた。
「当たったのは誰じゃ?名乗り出ろ」
 他のみんなは何も言わない。と、いうことは……
「…僕です」
「おお、アレンか。…フッフッフ」
……なんか嫌な予感がする。
頬を冷や汗が伝っていく。
「…とりあえずはわらわの部屋に来い。まずはそれからじゃ」
 ニヤ、と笑みを浮かべ、リリアンヌは部屋へ向かって歩いていった。
僕がついて行くべきか考えていると、ふいに声をかけられる。
「アレン、大丈夫?私たちもついていった方がいいかしら」
「ネイか…うん、そうしてくれた方がありがたいんだけど、リリアンヌ様がそれを許すのか…」
「私は一応ついて行くッス。アレンが心配ッスし」
「…じゃあ、部屋の前までついて来て。多分それなら大丈夫だから」
「わかったわ」
「わかったッス」

  ◇ ◇ ◇

 コンコン、とドアをノックし、彼女の返事を待つ。
…と思ったがそんな暇もなくドアが開き、リリアンヌが出てきた。
「ようやく来たか。…む?シャルテットとネイも来たのか。二人とも、入ってきて構わぬぞ」
意外にも二人の入室はあっさり許可された。来たことすら咎められずに。まあ、今日はリリアンヌの機嫌が良かったのだろう。
 僕は「失礼します」と一言言い、シンプルながら細かな装飾が為された部屋に入る。
 部屋の中央まで来ると、急にネイに身体を掴まれた。
「!?え、ネイ…?」
「ごめんなさいね、アレン…」
 いやその一言だけじゃ現状把握できないって!
とか、心の中で叫んでる場合じゃない。
 一体リリアンヌは何をするつもりなのだろうか。怖くなってきた…
 そういう僕の様子を窺うと、唐突にリリアンヌがこう言った。
「アレン、脱げ」
……
…はい?
 気のせいかな。今脱げと言われた気がする。
今度はあからさまに機嫌の悪そうな顔で、リリアンヌは再び同じことを言ってきた。
「だから脱げと申しておるのじゃ。何度も同じことを言わせるでない。
もし抵抗するようだったらネイに脱がせてもらうぞ」
 残念ながら気のせいではなかったようだ。
 数十秒の静寂ののち、シャルテットが心配そうに見てきたのとネイが動き始めたので仕方なく上着を脱ぎ始める。
 本当に何をするつもりなんだろうか…
 上着をたたんで近くに置くと、相変わらず不機嫌な顔でリリアンヌが付け足すように言う。
「もっと脱げ。下着以外全部じゃ」
 我が国の王女様は厳しい方のようだった。
 激しい羞恥に駆られつつも命令に従った。同じことを繰り返すことになるが、恥ずかしいながら首を飛ばされたくはないので命令に従う他なかった。
 シャルテットは顔を背けている。当然だろう。
 もうお婿に行けない…
とありきたりなボケを(心の中で)言うと、リリアンヌがフリフリした感じのドレスを持ってきた。
「よし。アレン、これを着るのじゃ!」
…はい?
……はいぃ!?
 シャルテットとネイに助けを求めようとするが、二人には距離をとられる。
 嫌な予感はこれだったのか…
僕は抵抗すらできずに強制的に女装をさせられましたとさ。

  ◇ ◇ ◇ 

「「かわいい~」」
 二人の声が重なる。今、僕は膝丈のドレスを着て軽く化粧をさせられ、髪は降ろされ何かリボンのようなものをつけられている。
「かわいいじゃないよもう…」
 僕にこんな恰好をさせた張本人は、クローゼットの中を見ながら「これもいいかもしれぬな…」と微笑を浮かべ呟いている。
「いや~アレンってこんなにも女装似合うんスね。意外ッス」
「元から中性的だと思ってたけど、これほどとは…なんだかリリアンヌ様が二人いるみたいね」
 シャルテットの言葉の似合う、という単語に少しムッとしたが、それ以上にネイの言葉が衝撃的で目を見開く。
「え…」
「だって、二人とも顔がそっくりなんですもの。まるで双子みたいに」
 ネイたちは知らないし、リリアンヌ自身も覚えてないが、僕らは双子の…姉弟だ。
だからか思わず反応を返してしまった。リリアンヌに何かしらバレていないかと振り返ってみると、まだクローゼットを見ていた。
相変わらずだな、と顔を緩める。だがそれどころではないことに気づいた。
 リリアンヌがドレスを漁っているということは…
…まだまだリリアンヌの遊びは続きそうだ。

  ◇ ◇ ◇

 その後5着くらい着せ替えられて、今に至る。
途中からネイとシャルテットも乗ってきて、髪をいじったりアクセサリーを付けられたりもした。
 僕は着せ替え人形じゃないぞ…
 そんな女子三人は今どこかへ行ってしまった。
 できれば今の内に逃げ出したいのだがそうすると首を斬られかねないし、何より僕の着てた召使い服が迷子だ。
このままの服装で外に出るのはちょっと…御免被りたい。
僕だってバレなければもう首を落とされても大丈夫かも(混乱)
 ふと、先ほどのネイの言葉を思い出す。
_まるで双子みたいに_
 彼女はどう思ったのだろうか?ただ楽しかっただけなのか?或いは…
 窓から淡い橙色の光が入ってくる。もう夕方か、そう無理矢理だが別のことを考えようとした。
 ガチャ、とドアの開く音がする。音のした方へ視線を向けると、そこにはリリアンヌがいた。
「リリアンヌ…様、なぜ_」
「アレン」
 彼女は僕の言葉を途中で遮り、こう続けてきた。
「見てみろ」
 そう言いながら渡してきたのは小さな手鏡。この手鏡どこかで見た気がするなぁと思いながらも鏡を覗く。
そこに写る自分の姿を見て、やはり自分と彼女は似ている、と思った。
「お主は…」
 急にリリアンヌが口を開く。僕は少し動揺したが、続きの言葉を待つ。
「お主は、どう思うのじゃ?」
「何が、でしょうか…」
「決まっておる。わらわとお主の顔が似ていることじゃ」
「…」
 黙らざるを得なかった。
 正直に言うわけにもいかない。だが、偽りの思いすら言うことはできなさそうだ。
「わらわとお主は本当に似ておるのう。面白いくらいにな」
リリアンヌは口角を上げ、楽しげな様子で言う。
 何故こんな遊びをしたのか?その答えは、僕らの顔が似ていることについての彼女の疑問と好奇心からだったのかもしれない。
「まぁ今日はアレンでただ遊びたかっただけじゃがの」
 そうでもなかった。
 まるで心を読んだかのように的確なタイミングで答えを言われ、何だか拍子抜けした。
「…すまぬな、なんでもない。この話は忘れて構わぬ」
 何だか寂しげにそう言うと、彼女は黙ってしまった。
こんな彼女を見るのは初めてかもしれない。ああは言っても、本当はきっと寂しかったのだろう。
「…あと」
「!…はい?」
 何を言われるのか…心底気まずそうに言うので気になる。
「お主の服…どこかにいってしまったから、そのまま着ていてよい。その服は明日返しにくれば大丈夫じゃろう」
グラッ、と視界が歪む。どうやら考えていたことを現実にせざるを得ないらしい。
バランスを崩して倒れそうになったものの、何とか体勢を立て直し、おぼつかない足取りで扉へ向かう。
「あ…アレン、大じょ…」
「大丈夫です」
明日、変な噂が流れないか不安に思いながらも、僕は自分の部屋へ戻っていった。


そういえば、なぜリリアンヌは鏡を持って来たのか?


  ◇ ◇ ◇


  ◆ ◆ ◆


 ふぅ、と溜息をついて、王女の自室を後にする。
どうやらあの双子はそれなりに仲は良いようだ。
 今の溜息は安堵感からだろうか?それとも、精神的に疲れたからだろうか。
 今日はマリアムがいない。グーミリアもお使いを頼んだので、することがなく二人を観察していた。
「もぅ…エルルカちゃん暇よ?」
 誰も聞いていない独り言を呟くと、曲がり角でアレンと出くわした。
 最初は驚きの表情だったが、次第に紅くなっていく。その様子に既視感を覚えるが、どこで見たかは忘れてしまった。長く生きているせいだろう。
先ほどまで部屋を覗いていたので事情はわかっているが、あえて知らないふりをしてからかうことにしよう。
「え…エルルカ様…あの、これは…」
「あら?アレン、貴方…
…大丈夫よ、秘密にしといてあげる。誰だって人に言えない事はあるものねー」
「ち、違います!」
「大丈夫、わかっているから」
 これもどこかで聞いた気がする。まあいいやと無視をして、話を続ける。
「誤解です!これは…あのっ…」
「じゃあね~」
「違うんですぅ!!」
 もう少しからかいたかったが、これ以上すると怒りそうだし、言い訳として先ほどの出来事を言いかねなかったので辞めておこう。
本人は弁解できなかったと考えてそうだけど。
「どうしよう見られた…絶対変な噂流される…」と呟いているアレンを横目に、次は何をしようかと長い廊下を歩いていく。
 変な噂、というポイントで私の方も弁解をしたいが、否定しづらいし別に構わないので無視。

 そういや、そろそろグーミリアが帰って来る頃だ。ようやく“退屈しのぎ”が出来そうね。

この作品にはライセンスが付与されていません。この作品を複製・頒布したいときは、作者に連絡して許諾を得て下さい。

鏡写しの主従

アレンが女装するだけのお話です。
文章の書き方に違和感を覚えつつも、上手く修正できる気がしなかったのでそのままにすることにしました。
読みやすくする工夫も意味をなしてない気がする…
気をつけはしましたが、どこか引っかからないか怖いです。(´;ω;`)

見ての通り駄文ですが、読んだ人が楽しめれば幸いです。

閲覧数:267

投稿日:2018/09/24 12:22:37

文字数:4,239文字

カテゴリ:小説

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