『はぁー・・・どうしよう・・・今日、傘持ってきてないよぉ・・・』
今日あたしの部活は休み。
友達は部活。
一緒に帰る人も居ない上、急に降り出した雨の中傘を持っていないあたし。
一体どこまで運が悪いんだろう・・・。
そんなことを考えながら靴箱で立ち往生していると、もう誰も残っていないはずなのに、後ろから足音がした。
振り向くとそこには、彼女の学年で凄く人気の美術部員、土矢 清輝がいた。
あれ? 美術部って今日休みだっけ・・・?
「わー、雨降ってるなぁ、やっぱ。 オレ、雨嫌いなんだよねぇ・・・野々下は?」
『え? あ、あたし??』
いきなり話を降られるとは思いもせず、まともな返事が出来ない。
そんな彼は、お前しか居ないじゃんと笑ってこっちを見ている。
かれんは顔が火照ってくるのが分かった。
彼女は、清輝のことが、好きだから。
『あ、あたしも、嫌い、かな』
ドキドキしながら返事をすると、そっかーという声が返ってきた。
放課後の靴箱で好きな男子と2人きり。
もしかして、清輝も傘持ってないのかな、と思いチラッと見ると、その手には傘が握られていた。
なんだ。 傘持ってるじゃん・・・
ちょっとしょんぼりする。
きっと帰っちゃうんだろうなー・・・
しばらく、2人で雨空を見上げる・・・
「・・・じゃ、帰ろっか、野々下」
唐突に言われた言葉。
『え? だ、だってあたし、傘持ってないから雨止むまで帰れないよ』
あるじゃん、ここに、と自分の持っている傘を持ち上げる。
『だ、だめだよ! それじゃ清輝が濡れちゃうじゃん!!』
そう言ったら、コツンと軽く頭を小突かれた。
あたしが間の抜けた顔をしていると、清輝は呆れたように言った。
「誰が貸すって言ったんだよ。 一緒に帰んの」
固まってるあたし。
・・・よーく考えろ、あたし。
きっと今のは空耳だ。
“一緒に帰る”なんて言ったはずが・・・
「野々下、どしたの? 早く帰んないと遅くなるぜ? ほら、来いよ」
クイッと手を引っ張られる。
為す術もないまま、あたしは清輝の傘の中。
『ぁ、、うん//』
あたしと清輝は、蒼い傘の下に肩を並べて通学路を歩いた。
きゃー どうしようっ//
清輝と2人で、しかも相傘で帰れるなんてっ///
「野々下ってさ」
『ん? 何?』
一人心の中で興奮していたかれんは現実へ戻る。
でも、清輝の次の言葉で、今度は頬を染めるのだった。
「おっちょこちょいで可愛いよな」
『?!////// え?! ちょ、何言ってんの?!』
あたしは、ビックリとドキッていうのが重なって、傘から出てしまった。
雨は土砂降り。
イコールあたしはびしょ濡れ・・・のはずだった。
腕をクイッと引っ張られたかと思うと、次の瞬間あたしが居たのは、誰かの温かい胸の中。
・・・え? 腕の、、中??
「傘から出たら濡れるだろ」
耳のすぐそばで聞こえたのは、男子にしては少しだけ高い清輝の声だった。
あたしは状況を理解した。
『ちょ、清輝?!///// な、なんでこんな・・・ッ////』
「いいじゃん、別に。 もう少しだけ、このままでいさせて。」
清輝の腕の中で、恥ずかしくてジタバタしていたあたしだけど、清輝の声を聴いて暴れるのを止めた。
清輝の声が、あまりにも寂しそうな声だったから。
『・・・清輝? 何かあったの?』
「オレさ・・・今度、転校するんだ。 親の都合で」
自分の体がピクッとなるのを感じた。
多分、ヤだよ、逢えなくなるのはイヤだよって、心が言ってるんだろう・・・
それを聞いたとき、本当はね。
泣きたかった。
けど、なんだか、自分のプライドが許さなくって。
『そ、、そうなんだ・・・ 清輝も大変だね』
出てきたのは同情の言葉。
でも、違う。
あたしはこんな事が言いたいんじゃないのに・・・
「ホント、いい迷惑だよな。
・・・転校したら、こうやって好きな奴と会うことも出来ないんだぜ?」
・・・え?
あたしは耳を疑った。
今、、何て??
「オレさ、野々下のこと好きなんだよね、ずっと前から。
でもさ、お前って超鈍感だから気付いてくれねーの。
それにオレ、野々下から恋愛対象として見られてなかったし・・・」
『そんなことない!!』
清輝が、え?、とこちらを見る。
かれんは勢いで言ってしまったことに頬を染めながらも、言葉を続けた。
『あたし、、、あたし、清輝のこと好きだよ!!///
だから、転校なんてしないで!! あたしから離れていかないで!!!』
無意識のうちに抱きついてた。
手に握っていた蒼い傘は地面へ落ちる。
2人に降るのは止むことのない雨・・・
気持は通じたのに、引き離されてしまう2人の悲しみの涙のように・・・。
「よかった・・・ありがとう・・・」
清輝はそれだけ言うと、濡れるかれんを優しく抱き返した。
雨は止むことを知らない。
冷たく、長く、2人を濡らす・・・。
「オレ、もう行かなきゃ」
清輝は悲しそうな目をしてかれんを放した。
かれんには、その“行かなきゃ”と言う言葉が、明日は聞けない気がした。
『待って・・・』
「・・・ごめん。 気持が伝わって、よかった・・・」
清輝はそれだけ言うと傘を残したまま走っていった。
『どう、して・・・』
初めて人を好きになった。
初めて気持が通じた。
初めて、失恋した・・・
恋って切ないんだね・・・
雨空を見上げるかれんは今は独り。
その頬に流れる冷たく蒼い雫は、彼女の涙なのか。
それとも、空が泣いているのか。
そのどちらでもあるように、かれんの心には、ただただ雨雲がたれ込めていた・・・。
「・・・なぁ、白蘭」
《なんだ?》
「なんでかれんは泣いてるんだ?」
《夢でも見てるんだろ》
「夢、か・・・」
紅燈は、綺麗な寝顔に零れ堕ちる冷たい涙を拭ってやった。
一体何の夢を見てるんだろうな・・・
遠い、遠ーい昔のこと。
まだ彼女が何も知らず、平和で楽しく暮らしていた頃。
初めての恋は実らず、最初で最後の儚い夢と消えた。
それからというもの。
彼女は、必要以上に人を愛することを怖れた――――――…。
コメント0
関連する動画0
ご意見・ご感想