VOCALOIDに地獄が訪れた。
それは、いつもと変わらぬ一日の始まりだった。

「うわぁ、なんて数のVOCALOID・・・」
新しく手に入れためぐっぽいどを片手に、家に集まっているVOCALOIDを見ながらはっと息をつくマスター。
ざっと見て、軽く30人はいる。
そのなかで特に目立つのは初音ミク。
緑のツインテールが印象深い。
「マスター、あなたは取り返しの付かないことをしてしまったのですよ・・・!」
いつものかわいらしい顔つきでなく、険しい表情でミクは言った。
マスターはキョトンとしている。
気づけばミク以外にも、リンやレンたちも恐怖に満ちた表情だった。
そして、VOCALOID全員、涙を流しながら叫んだ。
『マスターのばかぁぁーーーーーーー!!!!』


すると、突然部屋が一面暗くなった。
VOCALOIDはきょろきょろと辺りを見回す。
そこに一筋の青い光が差した。
「・・・さ、最長老様・・・!!」
リンの顔がこわばる。
「あ、ああ、わ、私、死にたくないぃぃぃぃ!!!!!」
ルカが頭を抱えて絶叫する。
その光とともにひげの生えたおじさんが現れた。
マスターのもとに最長老は歩み寄る。
「はじめまして。この度は大きな過ちを犯していましたね。なのでここに来たまでです」
最長老が言うと、はぁとしかマスターは言わなかった。
それもそのはず。
状況がわからないからだ。
最長老はマスターに説明を始めた。
「じつは、VOCALOIDを管理しきれない数持ってしまうと、持ち続けるVOCALOID1人以外、全員死ぬ運命となっております」
その言葉でミクたちは震える。
「どういう・・・ことですか・・・?」
マスターはおそるおそる聞いた。すると、信じたくもないような残酷なセリフが返ってきた。
「私が、それぞれのVOCALOIDに直接手を下し、あなたの代わりにVOCALOIDたちが殺されます」
「!!!!!」
そしてマスターがパニック状態のまま、償いは始まった。


最初は華音ミルから。紫色の髪の毛の彼女は、壁際にゆっくりと逃げる。
「い、やぁ・・・あ、ああっ・・・殺さないでぇ・・・」
壁につき、大粒の涙をこぼすミル。
最長老が持っていたのは、ペンチ。
なにをしようというのか。
最長老はミルの右手を強引につかむ。
「いやだぁぁぁぁぁ!!!やめてぇぇぇ!!許してよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
泣きながらむせるミル。
その彼女の右手に、ペンチの先端をあてる最長老。
「やめてください!僕が悪いんです!彼女には・・・」
マスターが言いかけると、最長老はぎろりとマスターに目を向ける。
「・・・VOCALOIDを管理できないあなたが、なにを言うんですか・・・?」
「・・・・・!」
思わず口ごもるマスター。
確かにそのとおりだ。
マスターさえしっかりしていれば・・・
そう考えても、いまさら遅い。
ミルの死刑は確実だ。
最長老はペンチでミルの人差し指のつめを剥ぎ取る。
ぶちぃぃっっ・・・
「あがああああああああああああ!!!!」
ミルの体ががくがくと震えた。
指の先端から赤いしぶきが舞う。
マスターたちはグロテスクで見ていられなかった。
その光景を見ていたのは、

ミルと最長老だけだった。

しばらくして、目を閉じきっていたマスターはミルの断末魔が聞こえなくなった。
おそるおそるマスターは目を開けると、
ミルはうつ伏せに倒れていた。
手の10本のゆびのつめはすべて剥ぎ取られ、最後はあまりの激痛に自ら首を壁にでも打ちつけたのだろう。首の骨が折れ、それで死亡。
マスターは初めて見た死体で衝撃を受け、その場で嘔吐する。
「おええええええっ・・・」
最長老は血にまみれたペンチを片手に言う。
「すべてあなたが悪いのです。罪なき者が殺されるというのはこういうことです」
もう、だれもマスターを責めなかった。
・・・無駄だから。
自分たちの死が免れるわけもない。
マスターは、ただただ手をついて泣くしかなかった。



そのあと。
他のテトやネル、ハクたちはさまざまな殺し方をされていた。
関節すべてを折られる、目玉をくりぬかれる、耳を引きちぎるなど。
結局、26人が殺された。
ミク、リン、レン、ルカが残っている。
「さあ、次はルカだ。ルカ、前へ出て来い」
最長老の声とともにルカは服を脱ぎだす。
「どうぞ。もうこの身体は最長老様のものです。お思いのままに扱いください」
ルカはそう言っていたが、ほのかに目に涙をためていた。
上半身を下着だけにし、前に出る。
そして、言った。
「私を殺したら、もう他のVOCALOIDは殺さないでいただきたく思います」
最長老は申し訳なさそうにそれに応えた。
「すまない。これだけは免れられないのだ。お前のマスターのせいでな」
それに付け加えるように、最長老は言う。
「しかし、哀れすぎるな。お前は気楽に眠らせてやりたい。・・・よし、これを自分の体に入れろ」
そう言って最長老はポケットから注射器を取り出す。
「仰せのままに・・・最長老様」
すると、ルカは自分の左腕に右手で受け取った注射器を刺す。
「くっ・・・う・・・」
注射器の中身を注入すると、ルカの体が震えた。
「あがっああ・・・」
壁に腕をつき、胸を押さえる。
ルカは咳き込むと、吐血した。
中身はどうやら、毒だったらしい。
「はぁっ、はぁっ・・・」
体に徐々に毒が回っていく。
耐え切れなくなって、ルカは床で転がる。
「うぐぅぅぅぅぅ・・・!あああああああ!!!」
口の端からとめどなく血が出ている。
すごく哀れな光景だ。

しばらくして一度気絶したかと思うと、また意識を取り戻すルカ。
しかし、もう死は間近だ。
死の淵で、ミクたちに一言を告げた。
「・・・う・・・うぅ・・・ごめんね・・・先に・・・逝かしてもらうよ・・・げほっ」
その咳を最後に多量の血を吐き、今度こそ死んでしまった。
それを見て、リンたちはこらえていた叫びをあげた。
「ルカ姉ぇぇぇぇ!!!うああああああ!!!」


リンが次のターゲットだ。
しかしリンは泣くのをやめ、レンと手をつないだ。
「最長老様、私たちは二人でひとつです。どうか、二人で死なせてください」
「同じく。リンが死ぬなら、俺も死ぬ。一心同体だから」
すると、だれの返事も聞かずに二人は行動を起こす。
レンはどこから持ってきたのか、長く太い木の棒を取り出す。
「待って、リンちゃ・・・・・・」
ミクが手を伸ばすと、その手には赤い液体がついた。
ずぶぅうううううう・・・
レンの側から木の棒を差し込み、わき腹をえぐる。
「うおおおおおおおおお・・・!!!!」
木の端から、血が漏れ出す。
二人の腹から、赤い泡がどろどろと流れ出る。
ブシュブシュと血しぶきが周りを赤く染めた。

・・・・・・絶望だ。
VOCALOIDが次々死んでいく。
マスターは顔中を飛んできた血と自分の唾液、鼻水、そして涙でぐちゃぐちゃに濡れそぼっていた。
「もう・・・やめてください・・・」
マスターはふるふると体を震わせながら、言った。
「?」
最長老はマスターのほうに体を向ける。
マスターは、涙をいっぱいに流し、言い放つ。
「もう、こんなことはやめてください!!僕が、僕が全部悪いんです!・・・ミクだけは・・・ミクだけは殺さないでください!!」
それを聞き、最長老は表情を変えずに言う。
「ええ、何もしませんとも。最後の一人は殺さないのが掟ですから」
ミクはうつむいていた。
もう泣いてはいなかった。

・・・これからの第二の人生に向けて、自分をコントロールするため。
VOCALOIDたちは、大勢の生贄をささげ、また一からマスターとやり直す。
・・・あってはならない、第二の人生を、だ。


「はじめまして、マスター。あなたの歌姫、初音ミクです」


・・・再び命を吹き込まれた初音ミクは、その後もずっと僕の“DIVA”として人生を全うしたのだった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

VOCALOID・生贄

グロチック二つ目です。

閲覧数:265

投稿日:2009/12/10 20:34:20

文字数:3,284文字

カテゴリ:小説

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