りんごは泣かなかった。真っ赤な目をしたまま今は眠っているネムリをじっと見ていた。掛ける言葉が見付からなくて重苦しい沈黙が続いていた。

「びっくりしたでしょ?」
「え…?」
「ネムリね…ネムリすっごく料理上手いんだよ?クッキーとかお菓子とかお店の
 より全然美味しくってね、私が待ちきれなくて食べちゃうんだよ。」
「……。」
「それでね、それで、低血圧でよく寝坊して、私がよく起こしに行ったりしてね、
 それでも二度寝とかしてるんだよ?」
「りんご…。」
「いっつものんびりしてて、ボケボケしてて、私が何かすると綿飴みたいに笑って
 くれて、でもすっごくすっごく優しくて…!」
「りんご!」

堪らなかった…泣くのを堪えているのを見ていられなかっただけかも知れない。一体どれだけ辛かっただろう。自分一人が助かってしまった事、友達が変わり果ててしまった事、今迄たった一人で…。

「ちょ、使土君セクハラ…大声出すよ?」
「出せよ。」
「はぁ?何言って…。」
「泣いとけ。」
「ば…馬鹿な事言わないでよ!ネムリがこうなったのは私のせいなんだよ?!ネムリ
 だって言ってたじゃない!私のせいだって!私なんか居なければ良かったって!
 なのに泣ける訳無いでしょ!判った様な事言わないで!」
「…見てられない…。」
「放せ!放して!馬鹿!痴漢!変態!」
「お前のせいじゃない。」
「放せ!」
「お前のせいじゃないよ。」
「違う…!違う…私が…私が…!ネムリ…私…私の…!」

りんごは意地なのか声を上げなかった。しがみ付いて顔を埋めたまま何度もドンドンと胸を叩いた。

「騎士さんに彼女診せに行こう?な?あの人なら治してくれるかも知れない。」
「で…でも…!め…迷惑…!か…掛けっ…掛けて…!」
「迷惑じゃないから。まぁ…ちょっとサンプル採ったりはするかもだけど…。」
「うぅ~~~っ!」
「痛っ!いててて!大丈夫だって!」
「…ネムリ…治るの…?」
「断言は出来ないけど…でも少し位なら何とか出来るかも知れない。俺からも
 騎士さんに頼んでみるから、な?」
「…使土君…!」

泣いてるりんごを宥めるのに構ってて、俺は何も気付かなかった。自分が発した言葉の重さも、その意味も。

「…騎士…ね…。ふふふ…。」

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BeastSyndrome -79.彼女の笑顔-

病室で何て事してやがる

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投稿日:2010/06/26 15:55:24

文字数:951文字

カテゴリ:小説

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