突入しようとした矢先、施設の数箇所から火の手が上がった。警備班やスタッフ達にも少なからず動揺が広がる。
「幾徒…これヤバイんじゃないの?」
「先ず消防車だろ。」
「あ!待って!人が…!」
施設の裏手から作業服の人がバタバタと逃げ出すのが見えた。数名の警備班で彼等を拘束させ事情を聞く事にした。
「中学生?!」
「うん。えっと、今年一年生。」
「俺は大学生、いきなりバイト帰りにぶん殴られてここに連れて来られたんだよ。」
「私は会社帰りだよ、おかしな服の奴に囲まれて訳も判らんまま此処に閉じ込められたんだ。」
どう言う事だ?これと言って共通点も無さそうな奴等をさらっては監禁?しかし見た所健康そうだし、危害を加えられた様子も見られないし、文字化けにしては字も無いし落ち着いている。
「なぁ、中で一体何してたんだ?」
「いや、よくわっかんねぇよ、時々おかしくなる奴とか出たけど、白衣の奴が連れてって
ちょっとすると元に戻って来たりとか。」
「僕は…ぬいぐるみ…?みたいなのを捕まえてって言われて、それ捕まえるお仕事
手伝ってた。」
「お前達この男を見なかったか?黒い翼みたいな羽が生えてるらしいんだけど。」
「あ!知ってる知ってる!コイツぜってぇ危ないクスリとかやってんじゃね?って皆で
話しててさ。」
「そうそう、ギャーギャー騒いで部屋で女の子ぶん殴っててさ、俺等時々それ止めんの
手伝ったもん。」
「女の子…?」
「うん。髪長くって綺麗な子なんだけどさ、その黒い奴がガンガン殴るもんだからもう
傷だらけんなっちゃって…。」
止める暇なんて無かった。ずっと思い詰めた顔で、祈る様に震える手を強く握り締めて、誰よりも、何よりも走り出したかったのが痛い程に判ったから…。
「――ゼロ!!」
闇の中で火の手が上がって、黒い煙で何も見えないのに、躊躇わずに飛び込むのを、止められるなんて思わない。
「俺が援護します!」
「流船!待て!くそっ…!芽結!先輩!外壁から火元へ!確認次第消火開始!警備班は
要救助者の保護と医療班への連携確保!鳴音!本部へ応援要請!各自単独行動はするな!
総員直ちに行動開始!」
「はい!」
だけど心にはずっと引っ掛かってる事があった。誰が、何の為に火を点けた?逃げる為?それとも壊す為?それとも…。
「計算通りに行かなくて残念だったなぁ、王様。」
「え?」
何が起こったのかよく判らなかった。声に振り向いただけ、ただそれだけだった。
「ど…し…て…?」
自分の胸から金属が生えている様な、奇妙な感覚…火が点いた様に熱い…痛みはもう判らない…流れ落ちる血が…目の前を…真っ赤に染めて行く…何だろう…すごく寒いんだ…駄目だ…眠っちゃ駄目だ…皆を…守らないと…教えないと…。
「どうして…?まぁ…自分の血でも恨むんだな…闇月幾徒。」
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