私何でバスに乗ってるんだろう…?そしてゼロ一体今頃何やってるんだろう…?
「聞いてる?」
「え?何?」
「…だから、名前。彼女のフリなのに名前も知らないんじゃ話にならないだろ?」
「え~っと、じゃあ山田太郎で…。」
「公衆の面前で両手を繋いで満面の笑みでそう呼ばれるのに耐えられるなら構わない。
因みにその場合もれなくお前は女装癖のある『男の娘』又は精度の高いニューハーフ
辺りだと誤解され、俺は周りからゲイ扱いされS町二丁目辺りを戦々恐々と歩いて、
何かあったら真っ先にお前を恨んで…。」
「水影レイと申します。」
「…良い名前。」
「どうも…。」
この人陰険だと思うのよね…。そして『鬱陶しい子が居るから今日だけ彼女のフリをして』って…確かにお金払ったりとかより良いけど、そんなのした事無いし、自慢じゃないけどイチャイチャするのとか苦手なのよね、『はい、あーん♪』とか強要されたら蕁麻疹出そう、街中のバカップルとか正直よくやるわよね、としか思わないし…。
「あれ?蕕音先輩、来てたんですか?ちょっと課題で質問が…。」
「おぉ、丁度良かった!ちょっと今度の試験範囲でさ~!」
「頼流~!手伝って~!」
何か、この人歩く度にあっちこっちで手伝ったり質問受けたりしてる…教授みたい。一段落した所でやっと休憩っぽく中庭のベンチに座った。目の前に缶コーヒーを差し出され大人しく受取る。
「お疲れ。」
「え?私着いて回ってるだけだけど良かったの?」
「充分。普段誰かと二人で居たりしないし。」
「一杯質問とか受けてたもんね。」
「勉強自体は好きだから。」
「ふーん…。」
中庭は温かい様で、乾いた風がさわさわと吹き抜けて心地良かった。しばらく会話も無くぼんやりとしてると頼流さんはポツリと言った。
「少し寝るから見張ってて。」
「え?み、見張って?」
「10分だけ…。」
座ったまま寝てるし…器用な人ね、私には無理だわ…。と言うか見張るってどう言う意味かしら?あ、荷物とか見てて欲しいって事かな?だったら鞄私の方に寄せて…邪魔だしその前に缶捨てて来ちゃおっと。
「…ゴミ箱遠い…。」
ゴミ箱が見付からず彷徨った挙句元の場所に戻るのに時間掛かるとか…キャンパスって無駄に広いと思うのよね…。ようやく戻って来れた時は20分近く経っていた。良かった、遠目だけど幸いまだ眠ってるっぽい…?
「え…?」
不意に髪の長い女の子が頼流さんに近寄ったと思うと…え?こんな所でキス…?!彼女居るんじゃない!うっわぁ、見てる方が恥ずかしい!あ~ヤダヤ…。
「触るな!」
「へっ?!」
「先輩…私本気で…!」
「二度と近寄るな!」
「先輩!」
汚い物でも拭く様に唇を擦りながらこっちに来る途中で目が合った。何て言って良いか判らくて俯いた私の手をすれ違い様に取ると、そのまま強引に歩いていた。
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